第八章 最悪な出会い
歩き始めてから僅か五分ほどで変化があった。
「あちゃ~、 大変なことになってんな」
そういうのも、 目の前で馬車? が横倒しにされているからである。
その傍らには、 二人の男性と、 さっき殺したオルトロスが五匹ほど。
明らかに男性達は苦戦しているようだ。
「ここに来てから初めて会う人、 絶対生かさなくては!」
そう思い立ち、 駆け寄って援護をしようと思ったが、
「おい! 逃げるぞ! この数相手じゃ食い殺されちまう!」
「でも、 商品はどうすんだよ!」
「高く売れるだろうが・・・命には代えられねえ!」
そんな会話をすると、 男達は一目散に逃げていった。
オルトロスは男達を追おうとしたが、 近くにいる人間、 つまり俺に標的を変えたようだ。
瞬く間に五匹のオルトロスに囲まれる。
「あ、 あの人達行っちゃったよ・・・・・・どうしてくれんだ犬ッコロどもが!」
そんな叫びを無視してオルトロス共が鳴き声をあげる。
「うるさい」
拳銃の引き金を、 躊躇なく引く。
パン、 パンと乾いた銃声が鳴り響く。
気付けば数は残り一匹になっていた。
「さあて、 往生せいや」
二つの銃口を最後の一匹に向ける。
すると、 これが危険な物だとわかったのか、 オルトロスは一目散に逃げていった。
「まいっか、 去る者は追わず、ってね」
まあ、 あんなワン公どうだっていい。
今気付いたが俺は大変腹が減っているのだ。
すぐ近くで死んでいるこいつらを食べるのはちょっと・・・。
「馬車に何か積んであるんじゃね?」
あの男達が去り際に、高く売れるだどうのこうの言ってたから、 うまい食べ物でも入っているのだろう。
「捨てるなら食っちゃってもいいですか?」
空を仰いで聞こえるはずのない質問をした。
「・・・・・・ありがとう! 感謝するぜ!」
自分の都合のいいように答えを肯定する。
そうと決まれば! 急ぎ足で馬車に歩み寄る。
そんでもって馬車の前に到達。
うまい食い物が俺を呼んでるはず!
そして馬車の中をのぞき込みながら言い放った。
「それじゃあ、 いただきます!」
しかし俺はここで人生の教訓を学ぶこととなる。
よく考えてから行動するという教訓を。
なぜなら馬車の中には食べ物ではなく、 青い髪の毛をした美少女がうずくまっていたからだ。
さて、 美少女に対して、 いきなりいただきますって発言はどうよ?
一発で不審者確定だろ? おっさん悲しくなっちゃうよ?
こうなったのも全部あの男達のせいだ! 高い商品って、 どんなもん運んでんだ!
こうなっては仕方がない、 ここから好印象を持たせるのは難しいが、 多少でも印象をUPさせておこう。
とりあえず・・・自己紹介からだよな? うんきっとそうだ!
ということで即実行!
「あ~俺は通りすがりの一般人の真治、 君は?」
少女は少し考えた後、 不審に思いながらも返事をしてくれた。
「わ、 私の名前はローラです」
さて、 この後どうしましょうか?
~ローラサイド~
急に馬車が動きを止めた。
町に着いたのだろうか?
もしそうなのだとしたら私はその町で、 奴隷として扱われるのだろう。
ただ働かせるだけならいいけど、 悪いご主人様に買われたら、 私は女だから夜の相手をさせられてしまうかもしれない。
「いやだな」
最初は、 本当に好きになった人とがよかったな。
でも奴隷として売られてしまっては、 そんな願い叶うわけない。
そんな暗い想像をしていると外から怒鳴り声が聞こえてきた。
「くそ! オルトロスの群れかよ!」
「やっぱり死の森を抜けようとしたのがまずかったんだ!」
オルトロスの群れ? 死の森? 今私は死の森にいるの?
私は震え上がった。
死の森と言えば、 入れば必ず生きては帰れないといわれている場所のはず。
そして現にいま、 オルトロスの群れに囲まれている。
「まだ、 生きたかったな・・・」
そしていきなり馬車が倒れる。
「きゃ!」
オルトロスが突進してきたのだろう。
「もう・・・いやだよ」
泣いてしまった、 自分の最後を確信して。
「きれいな服も着たかったでしょ、 もっとおいしい物食べたかったでしょ、 それから・・・結婚もしたかったでしょ、 赤ちゃんだって産みたかったし、 それから」
自分の未練を口に出していると、 外から男達の会話が聞こえてきた。
「おい! 逃げるぞ! この数相手じゃ食い殺されちまう!」
「でも、 商品はどうすんだよ!」
「高く売れるだろうが・・・命には代えられねえ!」
どうやら男達は逃げてしまったようだ。
「このまま・・・食べられちゃうんだよね」
すると外からあの男達ではない叫び声が聞こえた。
「どうしてくれんだ犬ッコロどもが!」
威圧感のある声だった。
それに続けてオルトロス達が鳴き声をあげる。
が、 そのすぐ後に、 聞いたことのない乾いたような鳴き声? がした。
その鳴き声は、 パン、 パンと五回くらい繰り返されてから、 やがてしなくなった。
そして静寂が訪れた。
周りには誰もいないのだろうか?
でも自由になってもここは死の森の中、 生きて町までは帰れないだろう。
「どうしようかな?」
しかしそんな考えをしている暇はなかった。
「足音がする」
あの二人組が帰ってきたのだろうか?
もしそうならここでは死なないかもしれないが、 奴隷として売られてしまうだろう。
そしてその足音は、 馬車の前で止まった。
そして予想外な人物が、 衝撃的な発言と共に現れた。
「それじゃあ、 いただきます!」
え? いただきます? 私食べられちゃうの?
私も慌てていただろうが、 相手の男の子はもっと慌てていた。
やがて少々の沈黙。 何か考えているみたい。
すると少年は口を開いて言い放った。
「あ~俺は通りすがりの一般人の真治、 君は?」
自己紹介された、 案外いい人なのかもしれない。
ここは大人しく、 自己紹介しておこう。
「わ、 私の名前はローラです」
そして考えた、 この後どうなるんだろうって。
やっとヒロインに会えました。
~ホニャララサイド~と書かれていない文が主人公視点です。
魔法はもうしばらく掛かると思います。
それでは感想などよろしくお願いします。