第三十七章 お仕事
「で、 リーダーの最近はどうよ?」
「こちらは、 その。 ・・・まあまあだな」
「何だよ。 美味いお茶飲んでるってのに歯切れが悪いな」
あの妙なテンションも一旦落ち着き、 二人でお茶を啜っているところだった。
ローラとノアおばさんは二人して厨房にこもり始めた。
なんでも料理を教えてもらうためらしい。
まあ女の子は拳銃なんて握ってないで、 ナイフ(料理用のに限る)を握っている方がいいだろう。
「そんでその歯切れの悪さの原因はなんだ? 俺とリーダーの中なんだから、 できることならしてやるぜ?」
「むう、 そうか。 なら話そうではないか」
「どんとこい」
リーダーはこの世界で一番にできた一番の話し相手(男に限る)だから相当な親近感が湧いていた。
リーダーはリーダーで、 あの一件から俺のことを信用してくれているのだろう。
「その、 魔物が、 な」
「魔物ねえ」
あの犬ッコロみたいなやつのことか。
「最近魔物の発生率が非常に高くなっているのだ。 有志で自警団を募っているのだが、 結果は芳しくない」
「ふうん」
あの犬ッコロ一匹倒すだけでも苦労するってローラが言ってたしな。
「それで、 な」
「魔物退治を手伝ってほしいと」
「・・・うむ」
さて、 どうするか。
手伝ってもいいんだけどな。
でも魔物退治ってなったら、 相当な時間が掛かるだろう。
「そうなると店の方がな」
「店、 とは何のことだ?」
「あ、 そうだ。 まだリーダーには言ってなかったっけ」
リーダーの村長就任が衝撃的すぎて話すのを忘れていた。
「俺たち首都の方でお店を始めたんだ。 何でも屋で言葉の通り依頼なら何でもやる」
「おお、 それはめでたいな」
「まあな。 でもまだ一人も客が来ないけど」
寂しいような寂しくないような。
いずれ金も尽きちゃうだろうから、 依頼は来た方がいいに越したことはないけど。
俺が将来のビジョンを想像していると、 不意にリーダーが言った。
「それではこの魔物退治をシンの店に依頼することはできないだろうか?」
「あーその発想は無かったわ」
依頼かぁ、 それならいいかもしれないな。
「ちょっと待ってろ。 ローラの意見を聞いてくる」
俺一人のお店じゃないから、 俺の一存で決定させるのは間違いだろう。
リーダーもその辺はわかっていたようで「頼んだぞ」と言って目をつむった。
さて、 ローラはなんて言うかな?
「おーいローラ。 ちょっと話があるんだけど」
要件はもちろんリーダーの依頼のこと。
『ふぇ? なんですか?』と柔らかい声が返ってくると思っていたが、 返って来たのは怒声だった
「シンジさんはしばらく引っ込んでいてください! 私は今忙しいんです!」
「わ、 悪かったな」
ローラはこっちの方を一切見ずに、 大きなフライパンのようなもので何かを和えていた。
「悪いねえシンジ。 ローラは今料理の修業中だよ」
「はあ。 修行ですか」
修業って、 そんなに本格的にやってたのか。
「で、 その修業とやらはいつ終わるんですか?」
まあどうせ夜ぐらいまで続くだろうから、 夕食の時に聞けばいいだろう。
という考えはあまりにも早計だった。
「そうさね、 早く終わって一週間てとこだね」
「ぶっ! い、 一週間?」
今日の夜には終わると思ってたが、 予想の遙か上をいったな。
まあ・・・好都合か。
「それじゃあローラに一週間自由行動って伝えといてください。 一週間経ったらこの食堂に集合で。 ここには毎日ご飯を食べに来ることにしますんでよろしくお願いします」
「わかった。 ローラは一週間私の家に泊めるよ」
「ありがとうございます」
まあノアおばさんの所に泊まるのなら安心できるな。
「それじゃあ俺これから予定があるので、 これで」
「そうかい。 それじゃあご飯時に待ってるよ」
そして俺だけで厨房を出た。
「それじゃあこっちの兵力を教えてくれ」
「うむ」
ノアおばさんに言伝をしてから俺とリーダーはすぐに食堂を出た。
そして今は自警団の人達がいるらしい場所へ向かっている。
「男が十人ほど。 それから女が一人」
・・・人数少なすぎるだろ。
愛村心が足りないな。
「ふむ。 それで兵士一人一人の力量は?」
「それは、 見て判断してくれ」
バツが悪そうに言うリーダー。
こりゃ、 期待しない方がいいか。
と俺が不安を募らせていると、 目的地に着いた。
「おお」
たどり着いたのは元の世界にあった校庭を少し小さくしたような広場だった。
「皆はあの宿舎にいる」
リーダーが指さす方向にはこれまた元の世界でいうアパートらしきものが鎮座していた。
「じゃあとりあえず全員集合させてくれないか?」
「うむ」
リーダーはそう言って宿舎の方へ駆けていった。
「はあ。 思ったより大変なことになりそうだな」
溜息をついてリーダーが帰ってくるのを待つ俺だった。
「シン。 これで全員そろったぞ」
「おう。 ありがとな」
先ほどまで閑散としていた広場には、 いつの間にか何人かの人が集まっていた。
「みんな聞いてくれ。 臨時でこの自警団に入団してくれることになったシンだ。 皆よろしくしてやってくれ」
「・・・・・・」
みんな無反応。
そんなの寂しすぎないか?
リーダーもその空気を悟ったのか話の進行をしてくれた。
「この男は私の、 戦友でな。 腕はまさに本物だ」
「いやー照れるなー」
・・・・・・せっかく俺も明るめのノリに合わせたってのにまた無反応かよ。
「み、 皆、 何か質問はあるか?」
リーダーがおずおずと聞いたが、 またもや無反応だった。
これは・・・暗に帰れと言っているのか?
俺が真面目にそう考え始めていると、 リーダーが俺に話を振った。
「皆の方から質問は無いようだから、 シンから何かあるか?」
「えー、 ここで俺に振るのかよ」
正直困った。
昔から人前に出るの避けてたからな。
それに話題もないし。
話すことなんて無いよ、 と言おうとしたがふとみんなが腰に提げていた剣が目に止まった。
みんな剣を提げているが、 その種類はばらばらだった。
しかし皆一様に、
「ひでえな」
「ん? 今何か言ったか?」
「ああ言ったね」
口に出して言ってしまっていたようだが問題あるまい。
「武器が酷すぎる。 そこのお前」
「お、 俺か?」
俺が指名したのは身長160センチくらいの小柄な男だ。
「そうお前だ。 そして問題なのはお前の得物だ。 なぜその小ぶりの身体でグレートソードを使う? 体格負けだろ」
今指摘した奴とは違う奴らも各々勝手な武器を持っていた。
斧、 弓、 レイピア、 体型に合っている武器もあれば、 見当違いな武器もあった。
「リーダー。 こいつら実力以前の問題だって。 武器選びからなってない。 もっとしっかりした武器を選ばなきゃ」
「そうなのかもしれないが、 その、 我々には余裕が無くてな」
「なーる」
金が無いから満足な武器が買えないと。
仕方無い。 ここは俺が一肌脱いでやるか。
その方が仕事も早く終わるだろうしな。
「リーダー。 今なら俺が科学の粋を集めた最新鋭の武器を、 そうだな、 今日の夕食を奢ってくれたら提供してやる。 どうだ?」
もちろん売りつけようとしているのは、 銃。
魔法で創るのだから金は一切掛からないから問題は無い。
まあ心配するとすれば、 この世界に銃が流出することだが、 それも問題無いと思う。
毎日数を数えれば流出問題はOKだし、 任務が終了したら消せばいいだけの話だ。
たぶん依頼が終了する頃にはこの辺一帯には魔物はいなくなっているだろう。
「どうするリーダー?」
俺が再びそう促すと、 リーダーは。
「交渉成立だな」
そして握手を交わした。
このお話は何回か書き直しました。
たぶんこれが最善です。
いや違うかも。
でもまあこれからもよろしくお願いします。