第三十四章 店名
「んで、 今後はどう動くか?」
「う~ん」
俺たちはテーブルで何かのお茶を飲みながら、 今後の方針について話し合っていた。
「家は買っちゃったわけだし、 しばらくはここに住むとしても、 ねぇ」
家は買ったが、 いずれ金も尽きる。
なので何かしらの行動を起こさなければならない。
「それじゃあ、 ここで何かのお店を開くっていうのはどうでしょうか?」
「お店か」
まあそれも悪くない案だとは思う。
流通経済については母さんにみっちり知識を詰め込まれたので、 それなりに自身はある。
それにお店を開けばたくさんの人がやってくるからな。
いろいろな情報が手に入るかも知れないし。
「そんじゃあ、 お店を開くか!」
「はいっ!」
まだ金貨が余っているので、 それを元手にしよう。
よし、 具体的な行動案は決まったな。
「いきなりなんだけどさ、 ローラはこの世界、 いや、 この地域ではどんな商売が儲けられそうか知ってる?」
「う~ん、 やっぱり討伐屋ですかね?」
何だその物騒なワードは。
その三単語だけで何をする職業かわかってしまったじゃないか。
「一応確認するけど、 それってけっこう危ない仕事だよね」
「そうですけど、 高収入ですし、 なによりシンジさんは強いので大丈夫だと思います!」
「あのなぁ」
確かに俺一人なら何とかなるかもしれないが、 ローラも一緒だからなぁ。
「さすがにローラにはきついだろ」
「きつくないです! クーちゃんがいれば平気です!」
ちなみにこのクーちゃんとは、 PPKのことを表す。
メインカラーが黒だからクーちゃんらしい。
「でもなぁ」
なんだかこうやって娘のように心配をすると、 ローラは意固地になって不機嫌になる習性がある。
大会の時だってそうだった。
「でももありません! シンジさんがやらないなら、 私一人でやります! シンジさんは・・・隅の方で見守っていてください!」
おぉう、 一応俺もついてくパターンなのね。
しかしこのまま話していても埒があかないなぁ、 ここは一つ。
「わかったよ、 じゃあ何でもやるってことにしよう。 それなら討伐の仕事もできるし、 商売もできからな」
うん、 これはなかなか良い案だ。
「・・・わかりました。 何でもやるってことでいいです」
「ヒャッホウ! それじゃあ決定な!」
適当にテンションを上げたところで、 壁掛け時計が鳴った。
見ればローラは欠伸をしていた。
俺の鍛え抜かれた体内時計調べによると、 元の世界で言う午後十時くらいだな。
今の時代小学生だって起きてるぞ。
ま、 でも大会のこととかもあって疲れたんだろう。
「んじゃ寝るか」
「はい・・・」
ベットは二つあったので非常に助かった。
でも何かもさもさしてるから、 明日干さなきゃな。
「そんじゃあおやすみ」
「くぅ」
そして俺も、 未来のビジョンを想像しながら眠りについた。
「ペンキと大きな筆、 こんなもんでイイだろ」
PM7:00(もちろん元の世界で)、 俺は街の商店街を彷徨いていた。
ローラは、 寝ている。
「やっぱり看板は作らなきゃダメだよな」
そう、 俺は看板に必要な物を買いに来ていた。
大きな木の板は家の裏手に落ちていたので、 買う必要は無かった。
「ちょちダッシュかな」
左手にペンキ、 右手で筆を握って、 家に向かい駆けていった。
「なんて書こうかな?」
やっぱり『雑草抜きから人殺しまで何でもやります!』かな?
よし、 決定だ。
「さて、 って」
ありゃ? 日本語で書いてもわからないんじゃないか?
「仕方無い、 ローラを起こすか」
まだ字を書くことはできないので、 仕方ない。
「ローラ、 起きてくれ!」
「・・・にゃ」
まるっきり猫の鳴き声をあげて、 ローラがもそもそと起き上がった。
「にゃんですか?」
「・・・お店の看板書いてくれ」
「・・・わかりました」
寝ぼけているので滅茶苦茶不安だが、 まあいいか。
俺が固唾を吞んで見守る中、 ローラが筆を動かした。
そして、
「できました」
「おお」
・・・結局読めん。
「なあローラ、 なんて書いたん?」
「・・・ぐぅ」
「ほう、 ぐぅとな」
・・・その割には何か長い文章のような。
「って、 いやいや」
それはきついだろう。
「なあ、 書き直してくれないか? その名前はちょっときついぞ」
なぁ、 と再び声を掛けるが、 返事が無い。
「もしかしてまた寝たのか?」
・・・どうやらそうみたいだな。
まあ、 店の名前は起きてくれた後聞けばいいだろ。
とりあえずできあがった看板を、 家の扉の上に打ち付ける。
それなりに様になってるな。
とりあえず暇になったし、 訓練でもするか。
そう思い、 家の外へ出た。
~NOサイド~
パンッパンッと乾いた銃声が新居の裏手にある庭に木霊した。
M92FとM1911から放たれた弾丸は、 真治の創り出した土人形にヒットした。
どれも人間でいう急所にだ。
しかしそれを喜ぼうとせず、 淡々と次弾を放っていく。
真治と真治の父曰く、 拳銃を上手く扱いたいなら毎日撃ち続けることだ、 らしい。
さて、 ここで視点を変えると、 打ち付けてある看板の下でぐぅぐぅを寝息を立ているローラが目視できる。
そして、 看板に書いてある文字についてだが、 日本語に訳すと『シンジとローラの幸せのお店』だ。
意味はよく理解出来ないし、 書いた本人も寝ぼけていたので半分ジョークみたいな感じで書いていたのだろう。
しかし、 どんなに恥ずかしい店名であっても、 おそらく直すことは無い。
理由としてローラの身長では届かないという点である。
それならシンジに看板を取ってもらえばいい、 と考えるかもしれないが、 それは苦肉の策である。
看板を取って欲しいと頼むと、 何か問題でもあったのか? と疑われいろいろなことを聞かれるだろう。
すると当然店の名前がシンジに明かされる。
これらの理由により、 看板のことについては今後触れることはないだろう。
シンジはもう看板のことは忘れているようなので。
看板のお話はここでおしまい。
さて、 これからどうなるかな?
うっす、 果樹園です。
なんだかNOサイドの内容が天の声みたいになってますね。
まあ書きやすかったので仕方無いです。
それでわ。
じゃない、 もしかしたらのもしかしたらで新作があがるかもしれません。
おやっさん(シンジの父のこと)と似たようなキャラが出てきます。
それでは本当に、 でわ。