第三十三章 回想
「ただいまー」
「お帰りなさーい」
新婚ホヤホヤの夫婦のように円滑な挨拶を交わす。
「材料買ってきたぞ」
パッと見、 どれもわけわからない品々だったが、 とりあえず見た目が良さそうな食材を買ってきた。
ローラがポケットに金貨を入れておいてくれたみたいなので、 支払いには困らなかった。
「何買ってきたんですか?」
「わかんね」
実際何を買ったのかわからないので仕方がない。
まあたぶん大丈夫だろう。
「台所きれいになりましたよ」
「サンクス」
さっそく台所の台に買ってきた物をぶちまける。
「たくさん買ってきましたねー」
「そっちこそ、 だいぶきれいに掃除したなぁ」
元の世界で言うリビングの床には、 ゴミやら本やらが積み上げられている。
あれは、 絵本かな。
「それって絵本か?」
「? そうですよ。 銀太郎です」
・・・・・・。
「もしかして読んだことないですか?」
「ああ。 でも似たような物語は知っているような気がする。 どんな内容なんだ?」
ローラは少し考える素振りを見せて、 説明を始めてくれた。
「魔物達と稽古をしたりして、 最終的には勇者になるお話です」
「へぇ」
やっぱりな。 この世界でも元いた世界でも同じような文化の進化を遂げている。
まあ若干内容が違うけど。
「銀太郎を読んだことがないなんて、 それじゃあ幼少時代は何をしてすごしていたんですか?」
「一応読書かな? あの頃はまだ身体ができてなかったから、 そんなに厳しい訓練はしなかったからなぁ」
しかし今考えてみると、 それが幸いなのか、 不幸だったのかはわからない。
だって俺が読んでいたのは、 ちゃらんぽらんな絵本ではなかったからだ。
~NOサイド~
「賢人! 152冊目の絵本が作れたぞ!」
「やったぁ! 新しい絵本だぁ!」
そんな歓喜の声が響くのは、 どこにでもあるような一軒家。
そしてその会話を繰り広げているのはまた、 どこにでもいそうな父と子だ。
しかし決定的に普通と違う点もあった。
それは、 絵本の内容だ。
「うわー! このバレットM82A1っていう銃かっこいい!」
「はっはっは、 そうだろう? それはお父さんも仕事で使うことがあるぞ」
少年が指さしたのはアンチ・マテリアル・ライフル、 つまり対物ライフル。
二㎞ほど離れた人間も切断することができる威力をもつ物も存在する。
幼稚園児の少年には似つかわしくない内容の本だ。
「よく見ておくんだぞ。 いつか必ず役に立つからな」
父親が指しているのはM82A1外面ではなく、 M82A1の設計図だ。
それは事細かに記されている物だった。
「わかった! 僕覚えるね!」
そう言って少年はM82A1の設計図と睨めっこを始めた。
その目は父の言うことをすべて信じ切っている目だ。
だが普通に生活していれば、 そんなもの絶対に役に立つ機会は無い。
つまり、 この少年は半分騙されている。
しかし、 半分は騙されていないかもしれない。
「よしっと、 それじゃあお父さんは仕事に行ってくるかな」
そう言って父親が担いだのは、 普通のゴルフバックだ。
しかし中に詰まっているのはゴルフボールを打つための道具が入っているわけではない。
中には、 L96A1、 イギリス軍の制式採用狙撃銃、 つまり人を撃つための道具が入っている。
「がんばってねお父さん!」
「はっはっは、 心配はいらないぞ」
そう言い残して父親は家を後にする。
これが少年の普通だった。
「どうしたんですか? ぼーっとしてるみたいですけど」
「ん? ああ、 父の日にあげた肩叩き券より価値のない回想をしてただけだって」
「よくわかりません」
まあな、 たぶん日本人特有の文化だろうし。
もうあんな愚行は犯さないだろうな。
「それよりできたぞ」
我ながら良いできだ。 未知の食材で作ったとは思えないな。
「何を作ったんですか?」
「鶏肉に限りなく近い何かと野菜をあえたサラダと、 地中海風シェフの気まぐれパスタだ」
後半の方はなぜか言ってみただけなので気にしないでもらえるとうれしい。
「そんじゃあ早速頂くか」
「はいっ!」
そして両手を合わせて、
「「いただきます!」」
ライフルはレミントンのM700とL96A1で迷ったんですが、 デザインに惹かれたので後者にしました。 まあ本文にはあまり関わってこないと思います。 でわ