第三十章 近接戦闘も大事
~セリアサイド~
「ちょいと俺の鍛錬に付き合ってもらうぜ」
目の前で立っている少年がそう口を開いた。
だがしかし、
「強がらなくても結構です。 体術は得意ではないのでしょう?」
あれだけ強い得物を使っていたのですから、 体術には自信がないということでしょう。「棄権するなら今ですよ」
私がそう促すと、 少年は皮肉っぽく笑った
「ははっ。 あんたなら俺の力量を計れると思ってたんだが」
そう言いながら少年は、 腰から刃渡り十五㎝ほどのナイフを取り出した。
やれやれですね。
「子供がそんな物を使うと怪我をしますよ。 特にあなたのような細い体つきの人は」
「ぷ、 はははっ! 忠告ありがとう。 でもこっちも生活がかかってるんでね」
・・・どうやらやらなければならないようです。
「わかりました」
私が剣を構えると、 少年もナイフを構えた。
「そんじゃ、 こっちからいくぜ!」
そして再び戦いが始まった。
「そんじゃ、 こっちからいくぜ!」
心配された女の人にナイフを向けるのは少々気が引けたが、 仕方無い。
リンゴ三万個がかかっているのだ。
「リ、 ン、 ゴッ!」
俺がそう掛け声をあげると、 女性は剣をしっかりと構えた。
ふっふっふ。
「いや、 この掛け声に意味は無いんですけ」
ど、 と言い終える前に女性は緊張体勢を解いた。
ただの会話だと思って油断したのだろう。
だが、 甘い!
「ど!」
言い終えるのと同時に、 一気に駆けだした。
「なっ!」
おー、 驚いてる。
でもそれも無理はない。
なんせ動いているスピードが半端じゃ無いからだ。
そしてそのスピードを、 そのままナイフに乗せて振り下ろした。
「らあぁ!」
さあ、 どう動く。
もしそのまま振り下ろされるようなことがあれば、 幕引きだ。
そして結果は・・・。
「・・・えげつない攻撃ですね」
受け止められた。
細めの剣を使い片手でだ。
やっぱりこの人滅茶苦茶強いな。
「えげつないと言っても、 俺は師から基本戦略は奇襲と教わったからどうしようもありません」
「そうですか、 それは仕方無いですね!」
ガキンと音を立てながら女性の剣が振り払われる。
そしてお互い軽快なステップを取りながら距離を取った。
「しかしよほど良い師に恵まれたのでしょう。 動きだけは達人並みですね」
「確かに、 師匠の動きは半端じゃ無かったですね!」
喋りながら手に持っていたナイフを投擲する。
頭を狙うのはシャレにならないので、 右足の太ももを狙う!
なんて生やさしい考えは持たなかった。
「狙うなら頭だろ!」
ナイフはそのまま真っ直ぐと飛び女性の眉間を、 通り越した。
女性が最小限の動きで避けたのだ。
そして当然ナイフは飛び続け、 会場の壁にぶち当たった。
「「・・・・・・」」
両者沈黙。
俺が沈黙した理由は、 案外あっさり避けられたことにあるんだが、 何故この女性が沈黙しているんだ?
俺がそんな戦闘とは関係のないことを考えていると、 女性がおもむろに口を開いた。
「・・・何をしているんですか?」
何言っちょるんだこの人は?
「何と言われても、 ナイフを投擲しただけだが、 それも眉間を狙って」
「・・・そうですか」
言い終えて女性は、 会場の隅のナイフをちらりと盗み見た。
そしてまた静かに一言。
「・・・取りに行きますか?」
なんてこと、 やさしさで涙がこぼれそうだぜ。
大方武器が無くなったと思っているのだろう。
この人騎士道精神とか大切にしてそうだしな。
お互い武器が無いと戦わないとか思っちゃてるに違いない。
俺と親父なら、 やっほい! 相手は丸腰だぁ! と喜んだに違いない。
でも心配してくれたところ悪いんだが、
「結構です、 ナイフはまだあるので」
嘘なんだけどね。
まあすぐに創り出せば、 嘘にはならないけどな。
腰の後ろに提げてあるナイフの鞘に両手を伸ばす。
そして、 ナイフを創造。
「ほらまだこんなに」
取り出したナイフをくるくると手のひらで弄ぶ。
女性はかなり驚いている。
まあ扱ってるナイフの数が桁違いだからな。
して十本。 ジャグリングのように宙を舞っている。
「そのジャグリングの技術、 凄いですね。 いや、 それ以前にそのナイフどこから取り出したんですか? あなたの職業はサーカスの団員ですか? それとも手品師ですか?」
「ふむ、 それも考えておきましょう」
そういえばまだ職業も決めてなかった。
不本意だが、 もう少しこの世界に留まることになりそうだからな。
まあしばらく金には困らないだろうけどなぁ!
とりあえず、 どす黒い欲望は抑えて、
「それじゃあ、 始めましょうか!」
・・・お久しぶりです。 作者です。
すっかりこっちの作品を書くのをサボってしまいました。
でももう一つの作品は完璧に仕上がったのでOK牧場です。
それじゃあ、 まあUPし始めたいと思います。
感想など待ってます。