第二十五章 お金は大切
「やっと来ましたね、 この日が!」
「ああそうだな」
この日と言うのも、 今日は武道大会当日である。
「ローラはやる気満々だな・・・」
「もちろんです!」
ローラがPPKをぶんぶん振り回している。
もちろんセーフティーはしてあるけど。
「ローラ、 むやみに振り回すなって言ってるだろ」
「そうでした♪」
結局あの殺人未遂の後、 丁寧に教え込んだ結果、 一応撃てるようになった。
「でもすぐ棄権するぞ」
「え! なんでですか!」
どうやら本当に出る気だったようだ。
「だってそんなもんに出ても、 疲れれるだけだろ。 宿屋にも泊まれたし万々歳だろ」
「・・・・・・そうですね」
なぜそこで落ち込む!
「そんな出たかったのか?」
「・・・はい」
「なんで?」
「・・・・・・ゴニョリ」
ん? 今何か言ったよな?
「ローラ今何か言った?」
「いいから出ます! 私一人でも出ますからね! シンジさんは隅の方で見ててください!」
「あ、 ああ。 わかったよ」
結局、 大会に本気(主にローラ)で参加することになった俺だった。
「うわ、 なんか蒸し暑いな」
今俺たちは、 町の中央にある闘技場の中の選手控え室に来ている。
ここで大会が行われるらしい。
「それはシンジさんが変なモノ付けてるからですよ」
「そんなこと言うなって」
ローラが言う変なモノというのは、 頭に掛けているゴーグルのことだろう。
それと茶色のローブを着ている。
姿を覚えられるのは得策じゃないからな。 なんとなく。
「ローラも付けとけって」
俺の手のひらには、 同じゴーグルが握られている。
もちろん魔法で作成。
「相変わらず凄いですね・・・」
「たぶんな」
受け取ったとこを見ると一応ゴーグルは付けてくれるみたいだ。
ローブは別にいいだろう。
「なんですかこれ! 見にくいです!」
「すぐ慣れるよ」
このゴーグルは黒のカラーレンズを使用していて、 サングラスの役割も果たしている。 もちろん本来の役割も果たすが。
「あとこれも」
ローラにPPKのゴム弾の入ったマガジンを差し出す。
「ん? たま~とか言うのは無限じゃなかったんですか?」
「いいから、 入ってるマガジンと取り替えておいて」
「わかりました」
ローラがPPKのマガジンを取り替えていく。
余談だが、 PPKを渡したときにレッグホルスターも渡してある。
「それじゃあ行きましょう!」
「ああ、 そうだな・・・」
さっき入場するときに聞いた話だが、 この大会の参加者数はなんと二百人オーバーらしい。
よほど宿代タダが効いたのかな?
「最初は五十人での勝ち抜き戦らしいですよ」
「そうらしいな」
参加者数が多いのか、 最初の試合は闘技場で五十人での勝ち抜き戦をするらしい。
「本戦に上がれるのは確か・・・何組ですか?」
「一試合ごとに二組だ」
ということは本戦に上がれるのは、 大体八組くらいだろう。
「まあがんばってな~」
「もう! わかってますよ!」
棄権するのかと思ったが本当にやる気らしい。
「行きますよ!」
「はいはい」
こんなやりとりの後、 俺たちは会場へ向かった。
「さ~~~、 とうとう始まります! 待ちに待った武道大会! 今年は誰が優勝するのでしょうか!」
観客席から思い思いのヤジが飛んでいる。
まあこの感じは嫌いじゃない。
「さ~~~、 ここで軽くルールのおさらいをしておきたいと思います。 まず殺しは無し! これは基本中の基本のルールです! これを破ると国から罰されるのでお気を付けください。 勝ち負けの判定は気絶が基本、 他には戦闘が続行できないと判断した場合も失格となります」
うん、 これはいいルールだな。
これで間違ってもローラが死ぬことはないだろう。
「そしてこの大会の参加条件は二人一組ということですが、 片方が失格になっても続行です。 両方が失格になった場合に退場です」
え? じゃあローラがもしも失格になっても続行ってこと?
それは面倒だな~。
まあローラが失格になることはないだろう。
俺がいるし、 誰にも触れさせねぇよ。
「それではルールの説明はこれくらいにしておきましょう! それでは武道大会第一ブロックの試合を始めたいと思います! それでは・・・始め!」
「ローラ! こっちに来い!」
「ふぇ?」
もう! とろくさいな!
「いいから!」
しょうがないなぁ、 ここは・・・。
「おんぶしかない!」
「え? え?」
ローラに近寄り、 強引におんぶの態勢をとる。
「い、 いいですよ! 自分で動けます!」
「いいから! 早く!」
「・・・わかりました」
ローラは渋々俺の背中に乗った。
「よし! 行くぞ!」
ローラが俺の背中に乗ったのを確認してから、 闘技場の隅に走る。 ものすごいスピードで。
思っていたより戦いが白熱している。
一対一ならともかく、 この人混みでは後ろからズブリといかれるかもしれないからな。
「ここで人数が減るまで待ってるんだ、 いいな?」
「わかりました」
「ああ、 向こうから来た場合はやっちゃていいぞ」
と、 そんな話をしているうちにも二人組の男がこちらに突っ込んできた。
「ヒャッハー!! 女だろうと容赦しねぇぜ!」
「もちろんだぜ!」
人数は二人、 武器はロングソードと、 ナイフが二本。
おそらくペアだろうがこれなら大丈夫だろう。
「ローラ、 やっちゃいなさい」
「もちろんです!」
ローラが自信満々でレッグホルスターからPPKを取り出して構える。
「なんだそりゃ!? まあ関係ねえか!」
「そうだ! 関係ねえ! やっちまおうぜ!」
「えいっ」
ローラがPPKの引き金を四回引いた。
かわいい動作だったがそれで十分だった。
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
「いてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「おお、 さすがだなぁ」
「えへへ、 ありがとうございますぅ♪」
ローラが放った弾丸は二人の両足の関節にヒットしていた。
「いつの間にか上達してるんだなぁ」
「練習してましたから」
本当は褒められたことじゃないんだけどな。
この世界では別、 ってか。
「ん? まだ二十人くらい残ってるなぁ」
闘技場を見渡せば、 立っている人数は二十人くらいになっていた。
減るペース早いほうなの?
「この半分くらいはやり合って失格になってほしいな」
つまり十人くらいになって欲しいってことだ。
「まあここらで突っ立ってればいいだろう・・・って言ってるそばから」
「・・・・・・囲まれちゃいましたね」
気付けば残った人数の半分くらい、 つまり十人くらいが俺とローラを取り囲んでいた。
「へっへっへ、 人数は一人でも減る方がいいからな」
「連携して弱い奴から潰すことにしたんだよ」
本当に弱い奴が思いつきそうな作戦だな。
「まあまあ、 そうカッカすんなって」
「うるせぇ! いま危機的状況だってことがわからねえのか!」
この状況はローラ一人では対処できないだろう。
「わかってるよ、 じゃあここらへんで俺たちき「おおっと! やはり優勝して金貨三十枚を手にするのはダン兄弟なのか!」・・・」
こちら側にいないもう半分のグループの方で動きがあったようだ。
「ダン兄弟とやらは置いといて、・・・・・・優勝したら賞金がでるのか?」
それも金貨三十枚だと? リンゴ三万個じゃねぇか!
「おいローラ、 予定変更だ。 全部俺がやる」
「ふぇ? 何か言いましたか?」
ローラがかわいく呟いた瞬間、 俺の両手にはスコーピンが二丁。
「全部俺がやる? なに格好つけてんだよ! やっちまえ!」
「お前達には、 この世界で生きるための礎になってもらおう(お金の)」
スコーピオンに装弾していたゴム弾を、 一番に突っ込んできた奴に撃ち込む。
「ぐあぁぁぁ!」
「次!」
この状況を見ても突っ込んでくる馬鹿が何人かいた。
相手の獲物もわかってないのに突っ込んでくるなんて考えられん!
「まあ結局、 全員やるけどね!」
とりあえず突っ込んできた馬鹿共も始末するか。
足の関節狙うなんてことはしなくていいだろう、 てかこの銃だと狙いにくい。
サブマシンガンなんだから、 弾をばらまくことにしよう。
「そうと決まれば!」
スコーピオンのストックを伸ばし、 腰の位置で固定する。
「死ねぇ! (もちろん嘘)」
苦痛に歪んだ声を上げながら男達が倒れていく。
「お次はどいつだ・・・って魔法か!」
俺たちを取り囲んでいた何人かの手には、 バスケットボールくらいの炎の玉ができあがっていた。
「くそっ! ローラ動くなよ!」
俺がローラを引き寄せるのと同時に、 炎の玉が放たれた。
どうする? 避けるか? いや無理だ、 まさに四方八方から放たれてる。
なら防ぐしかない!
そうと決まれば、 自分の周りに薄い膜ができあがる様子をイメージする。
用途は防御で、 魔法攻撃すべての消滅。
「ふっ!」
プログラムが完成して魔力を放出すると同時に、 炎の玉が着弾する。
「やったか?」
「やってねぇよ」
スコーピオンを構え、 残った男達に向けて射撃
「・・・・・・終わりかな?」
とりあえず、 俺たちを取り囲んでいた奴らの始末は終わった。
「凄いですシンジさん!」
「金の魔力だ」
さぁてと、 残った奴らを殲滅するか。
しかし、 会場を見渡しても立っているのは二人しかいない。
それもどうやらペアのようだ。
「試合終了です! 本戦出場はダン兄弟と、 え~、 誰だあいつら?」
えっ? 勝ったのにこの扱い? 参加者把握できてないよ。
「はいはいはい、 シン&ローラペアです」
会場からはブーイングの嵐が飛び交っている。
「どうせ隅の方で縮こまってただけだろ!」
「運がよかったな兄ちゃん達!」
どうやらさっきの俺の戦いは、 あまり見られていなかったらしい。
みんなあのダン兄弟とか言うやつでも見てたのかな?
そんなことを考えていると、 そのダン兄弟とやらが近寄ってきた。
「これで本戦に出場できるね」
「そうだな」
おお、 案外好青年じゃないか。 おっさん素直な子は嫌いじゃないぞ。
「兄貴、 そんな運だけで生き残ったような奴ら放っておけよ」
兄貴と言うからには、 こいつは弟の方だろう。
それにしてはしつけがなってないなぁ。
「こら、 なんてこと言うんだ、 謝りなさい」
「うっせぇ」
そう言い残すと弟は、 会場から出て行ってしまった。
「すいませんね、 うちの弟が」
「いえいえいいんですよ、 それよりお互い本戦がんばりましょう」
そう言い残して俺とローラも会場を後にした。
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