第二十四章 宿屋で
このお話は、 真治が宿に来るちょっと前のお話です。
よろしければ続きをどうぞ。
「いきなりですけどカズヤさん、 武道大会に参加してみませんか?」
「本当にいきなりですね」
訓練が終わったあとアリアが唐突に言い放った。
でも武道大会か~、 おもしろそうな響きではあるけど。
「俺みたいな弱い奴が出てもいいのか?」
現に今さっき、 セリアさんにこてんぱんにやられたばかりだ。
俺みたいなへなちょこが出たら、 大会の空気がぶち壊れだろう。
「お言葉ですが、 カズヤさんは弱くはありませんよ」
「え?」
「そうです! 比べている対象が悪いんです!」
「そうなのかな~」
セリアさんは、 王国一の騎士だって言うけど。
「カズヤさんは確実に強くなっています」
「実感はないけど」
「そうですよ! 魔法も使えるようになってきましたし!」
なんか褒められるといい気分だな。
「う~ん・・・わかりました出ます」
「さすがです! カズヤさん!」
出るだけでさすがって言うのは、 なんだかな~。
「ではパートナーには私が出ます」
「ええ、 お願いするわ。 優勝してきてよねセリア!」
「あの~、 パートナーってなんですか?」
「言ってなかったですけど、 この大会は二人一組でないと参加できません」
「それでもう一人がセリアさんだと」
「なにか不満ですか?」とセリアさんが尋ねてきた。
「いやまさか! そんなことありませんよ!」
むしろセリアさんだと、 頼もしすぎるくらいだぜ!
「そうと決まれば早速申し込みに行きましょう。 いいですよねセリア?」
「もちろんです」
こうして俺とアリアとセリアさんは町へとくりだすのだった。
「ここで申し込みをするんですか?」
「そうです、 ここは国の中で一番旅人さんが集まるところですから」
今俺の目の前には、 けっこう大きな宿がある。
「じゃあ入りましょうか」
セリアさんに続いて、 アリア、 俺の順で中に入る。
「店主、 大会の申し込みをしたいのだが」
「お、 ねぇちゃんが出るのかい?」
「そうだ」
このおっさんは、 顔を見てねぇちゃんと判断しているのではなく、 声色で判断しているはずだ。
今セリアさんとアリアはでっかいフードをかぶって顔を隠している。
なんでも姿を見られると大騒ぎになるかららしい。
ちなみに俺はしていない。
「パートナーはこっちの兄ちゃんでいいのかい?」
「そうです」
「じゃあ名前を教えてくれねえかい」
「自分はカズヤでお願いします」
「私はセリアで」
「わかった。 カズヤとセリアだな・・・ん? セリア?」
おっさんは訝しそうにセリアさんを凝視する。
「店主、 悪いんだが急いでいるんだ」
と、 急かすセリアさん。
セリアさんの正体がばれても面倒なことになるらしい。
「ん? ああ、 悪かったな・・・・・・よしもう大丈夫だぞ」
「ありがとう店主」
どうやら申し込みは終わったようだ。
「じゃあ帰りましょう、 あれ? アリアは?」
隣を見ても、 さっきまでいたはずのアリアの姿が見えない。
「まずっ!」
まさか勝手に出て行っちゃたとか?
しかしその懸案は三秒でかき消えた。
「なにやってんだ?」
アリアが店の隅っこの方で男達となにやら話し込んでいる。
「どうしますか? セリアさん」
「行くしかあるまい」
ずんずんとセリアさんが歩き出す。
「お前達! 何をしている!」
びくっと男達がこちらに振り向く。
「ってなんだよ、 女かよ」
男達がそういうのも、 セリアさんはいつの間にかフードを取っていた
「聞いてください! この人達が、『女が出るのか? この大会も墜ちたもんだな~』とか言ってたんです!」
「それでこらえきれずに、 文句を言ったと」
「そうです!」
「は~、 そんな単細胞の奴の相手なんかする必要なんてないって」
「んだとこらぁ!」
一人の男が、 いすを蹴り上げて勢いよく立ち上がる。
「いい度胸だなぁ、 兄ちゃんよ!」
立ち上がった男が、 腰に掛けているロングソードに手を掛ける。
「剣をぬきな!」
「自分は喧嘩はしま「やっちゃてください! カズヤさん!」・・・わかりました」
セリアさんが腰に下げている剣から手を離す。
どうやら俺に一任するようだ。
「やれやれ」
でも俺は剣を持っていない。
「いくぜ!」
そんなことを考えているうちに男が突進してきた。
剣を鞘から抜きだしていないので、 殺す気はないようだ。
「まあ当然か!」
初撃の一閃を軽く避ける。
鞘から抜いていないと言っても、 当たったら骨折くらいするかもしれないからな。
「ちっ! ちょこまかと」
続けてくりだされる攻撃を避け続ける。
「はあはあ、 くそやろう!」
男が剣を大きく振り上げる。
「うらぁ!」
「当たんないよ!」
振り上げられた男の剣が床に突き刺さる。
「くそっ!」
「ふっ!」
男のがら空きになった懐に潜り込む。
「なっ!」
「遅いんだよ!」
剣があっても懐に入ればこっちのもんだ!
「くらえ!」
去年あたりに授業で教えてもらった背負い投げを!
「ぐぇ」
男が隅の方にあったテーブルにたたきつけられる。
そういえばこの技も真治に教えてもらったんだよな~。
「凄いですカズヤさん!」
「なかなかだ」
「ありがとうございます」
隅の方を見ると、 投げられた男が何とか立ち上がるところだった。
「くそったれ! 大会でまってやがれ!」
男達が慌てて店から飛び出していく。
「じゃあね~」
「べ~だ!」
あいつらも大会に出るのか、 あたったらやだな~。
「兄ちゃんすげぇな!」
カウンターに立っていたおっさんが急に話しかけてきた。
「まあぼちぼちですよ」
真治も凄いって言ってくれたな~。
と、 ここでアリアが得意げにしゃべり出した。
「そりゃそうです! カズヤさんはこの私の従者ですから」
「従者がいるってことは、 お嬢さんどこかのお偉いさんかい?」
「ええ、 この国の第一王女ですけど」
「ばっ!」
「お嬢さん、 そんなこと言ってたら、 不敬罪で拘束されちまうぜ」
要するにこのおっさんは、 こんな所に王女様がいるわけないと思っているわけだ。
でもヤバイよこのおっさん、 マジでこの人第一王女だよ。
あんたが不敬罪になるよ。
「アリア、 フード取ったら?」
「? わかりました」
アリアが厳かにフードを脱ぐ。
「わっはっはっは・・・・・・っておい嘘だろ」
フードを取ったアリアを見ておっさんは絶句した。
「俺こんなことで死ぬのか?」
どうやらおっさんには、 処刑台が見えているらしい。
「あ~おっさん、 俺から謝っとくから大丈夫です」
「本当か?」
「任せてください」
おじさんがへなへなと床に崩れ落ちる。
「た、 助かった~」
「それじゃあ俺たちは行くんで」
「あ、 ああ」
おっさんが力なく返事をする。
かわいそうなおっさんだなぁ。
まあ兎にも角にも申し込みを済ませたしいいか。
「そういえば大会っていつなんですか?」
「明日です」
「うっそぉ!」
早すぎでしょ! 準備とかできないじゃん!
「大丈夫です! これから準備すればなんとか間に合います!」
「ひでぇ」
こんな話をしながら城に戻っていった。
前の章と話がかみ合ってると思うんですが・・・。
気になる点があったら、 ご報告ください。
次回はたぶん戦闘になると思います。
違ったらごめんなさい。
感想などお待ちしております。