第二十三章 いざ首都へ
「広いな」
「そりゃこの国の首都ですからね」
今俺の目の前には大きな壁がある。
それも半端じゃない大きさの。
「どっから中に入るんだ?」
「あそこじゃないですか?」
ローラの指さす方向には、 兵士らしき人が槍を持って立っている。
「そうっぽいな」
門番がいるってことは、 何か検査があるのかな?
「すいませ~ん」
門番の人がこちらに振り向いた。
「何か用かね」
「この中に入りたいんですけど」
ああ、 そんなことか、 と言って門を開けてくれた。
「ゆるゆるすぎだろ、 門番なんていらないんじゃないか?」
まあ何もないなら、 それでもいいんだけど。
「とりあえず中に入るか?」
「そうですね」
俺が先頭、 ローラが俺の後ろにつきながら門をくぐる。
まず中を見て驚いたのが人の量。
「半端ないな」
「すごいですね」
しかも町の中央のあたりに、 大きな城みたいのがある。
「まあいいか。 それより寝床探そうぜ」
見たところ宿はたくさんありそうだし。
「じゃあ行きましょう」
俺とローラは人混みに紛れて歩き出した。
「ここなんてどうですか?」
「別にいいんじゃないか」
結局見つけたのは、 町の中央にあるけっこう大きな宿屋だった。
「こんちわ~」
「いらっしゃい」
店の中を見るとまず中が妙に荒れているのに気付く。
隅の方のテーブルなどが倒れている。
「なにかあったんですか?」
「おう、 それがよ、 さっきここで喧嘩みたいのがあったんだよ」
「喧嘩・・・ですか」
「それもすげえのよ。 何がすげえってまずこの国のお姫様が来てたのよ」
「お姫様がアレをやったんですか?」
荒れたテーブルを指さす。
「違う違う、 お姫様の付き人がやったんだよ」
「付き人がねぇ」
「しかもただの付き人じゃねえんだ、 めちゃくちゃイケメンだったのよ」
「イケメンは全滅すべきですね」
「まあな~、 でもいい奴だったぞ。 俺の命の危機を救ってくれた」
おっさんは、 言葉だけでは足りないのか、 ジェスチャーでも表している。
ここで俺は親友だった和也を思い出した。
あいつならこんなことするんだろうな~。
かわいい女の子をかばって、 『この娘に何をした!』とか言っちゃってよぉ。
俺もそんなフラグ立ててみてぇ!
「さらにさらになんとその付き人、 今年の武道大会に参加するらしいんだよ」
「そうなんですか」
「兄ちゃんも出てみないか? 武道大会」
「いや遠慮しておきますよ。 俺みたいのがそのイケメンさんと当たったらいやですし」
本音は、 ただ面倒だからなんだけど。
武道大会なんて名前からして、 疲れるだけだろう。
「で、 おっさん。 ・・・二人部屋空いてない?」
シングル二つって言ってもローラが怒るだろうしな。
「空いてるけど、 銅貨十枚ね」
「ローラ頼むぞ」
「はい」
ローラがポッケをごそごそと漁り、 小袋を取り出す。
「!!!!!」
小袋の中を見たローラが明らかに動揺している。
「どしたの?」
「それが・・・お金が足りないんです」
「なんだって!?」
それじゃ宿に泊まれないよな。
「どうしよう・・・」
俺は野宿でもいいけど・・・さすがにローラにはな~。
「兄ちゃん、 金が無いのかい?」
「そうみたいで・・・何とかなりませんか?」
「そんなの簡単だ」
「無料で泊めてくれるんですか?」
よかった! プランBの路地裏にいる奴の財布を奪う、 は廃案になりそうだ。
「ああ、 武道大会に出てくれれば」
「よっしゃぁ? ん? 今なんて言いましたか?」
「武道大会に出ろ」
「なんで?」
それがここで泊まれるのとどう関係があるんだ?
「毎年行われるこの武道大会は、 国が主催していて他の地域からも参加者が来るんだ。 それで国が参加者の宿代を負担するわけさ」
「なるほど、 なら出ます」
大会に参加するって言っておいて、 当日棄権すればいいだろう。
それで万事OKだ。
「わかった。 それでペアは隣のお嬢さんでいいのか?」
「は?」
「ふぇ?」
俺とローラ、 同時に疑問符。
「まさか、 これって二人一組でないといけないんですか?」
「そうだが、 なにか問題があるのか?」
なに言ってんだよこのおっさん。 ローラに戦闘能力があると思っているのか、 えぇ!
「私いいですよ。 武道大会出ます」
「ん~ローラがそう言うならいいか」
よくよく考えればどうせすぐ棄権するんだし。
「ならエントリーお願いします」
「おう、 兄ちゃん達名前は?」
「こっちは、 シンでお願いします」
「私はローラで」
「おう、 エントリーしておくぜ。 部屋は二階の五号室を使ってくれ」
おじさんが部屋の鍵を差し出してきた。
「ありがとうございます。 ついでなんですけど、 大会っていつなんですか?」
「ん? 明日だけど」
「ふーん・・・ってまじでか!」
「これじゃあ準備できないじゃないですか!」とローラ。
いや違う! これじゃあ一日しか滞在できないじゃないか!
「ふう、 まあいいか。 じゃあ部屋借ります」
おっさんから鍵をもらって、 部屋へ向かった。
「お金、 どれくらい残ってるんだ?」
「銅貨三枚です」
「それって物に変えるとどのくらいになるの?」
「銅貨一枚でリンゴが一つくらいですから、 リンゴ三つぶん位です」
「ふーん」
そういえばお金のことローラに任せっきりだからな~。
俺もいっちょお金のこと覚えとくとするか。
「ローラ、 悪いけどお金のこと教えてくれない?」
「いいですよ。 現品はないですけど、 この国には硬貨が四種類あります。 銅貨、 銀貨、 金貨、 白銀貨の四種類です」
「それってどれくらい価値があるの?」
「そうですね、 銀貨は銅貨が百枚分で」
「ちょっと待った! それじゃあぜんぜんわからない!」
自分で言ったんだけどこの手のことは弱くてね~、 どうするか、・・・あ、 そうだ!
「お金の単位さぁ、 リンゴで例えてくれない?」
「リンゴ・・・ですか?」
こっちの方がわかりやすいと俺は思う。
「わかりました。 まずさっき言いましたが銅貨一枚でリンゴ一つです」
「ふむふむ」
「銀貨一枚でリンゴが百個、 金貨一枚でリンゴが千個、 白銀貨一枚でリンゴ一万個です」
「なるへそ!」
やっぱりリンゴ式は簡単だね。
「それよりご飯食べに行きませんか?」
気付けばもう日が暮れていた。
「そうだな」
なんと大会に参加すれば宿に泊まれるだけでなく、 ご飯も無料で食べさせてくれるらしい。
やる気ないのに、 なにか申し訳ないな。
「まあいいか」
俺とローラは階段を下りて一階の食堂に向かった。
更新遅れました。
やっと大きな町に入れました。
次回はカズヤの話からです。