第一章 両親のこと
玄関に入るとナイフが飛んできたできた。
しかし動ずることなく紙一重で避ける。
続けて二本目、 三本目と投擲される。
今度は余裕があったので二本目のナイフは避けて、 三本目のナイフのグリップを掴む。
そしてそれを飛んできた方向へと投げ返す。
「なにすんだよ、 当たったら死ぬじゃんか」
「いや、 これぐらいのことを対処できないほどヤワな育て方をした覚えはないな」
にゅっと玄関先のリビングから親父が出てくる。
「はいはいそうだったな、 で? 母さんは?」
親父は床を指さした。
「ああ、 わかった。 あんがとな」
そう言って振り返ると後ろから三本のナイフが飛んできた。
それらを難なく避けきる。
「さすが」
「俺は殺人者の息子だからな」
親父はニタリと笑うとリビングに戻って行った。
「俺も行くか」
ここから母さんに会うためのステップを説明しよう。
まずは台所に行きます。 そこにはどこにでもある床下収納的な扉があります。
開けます。 入ります。 はい終わり。
「母さん、 いるのー?」
「いるわよ~」
様々な機械がひしめき合う中、 声のした方向へと歩き出す。
「ここよ~」
目の前のパソコンの中で様々な文字式が次々と映し出されている。
「で、 今回はなに作ってんの?」
「ん? お父さんの仕事に役立ちそうなものをね」
お父さんの仕事、 というと殺しの道具、 ということだろう。
「具体的に言うと?」
「撃ち漏らしをしないスナパーライフルが欲しいって言ってたから、 電磁加速砲の改良したものを渡したかったんだけど」
「まさか・・・作れなかったの?」
母さんはマッドサイエンティストだ。 しかし頭の良さはそこら辺の科学者よりもずば抜けているし、 材料だって欲しいと思えばなんだって手に入るだろう。
「一応作ることはできたんだけど・・・威力はその辺のライフルと同じくらいだし、 なにより発射できる数が少なすぎて。 まあ射程距離は長いはずだけど」
ああそっか。 電磁加速砲は発射するのに大量の電力を必要とする。
そのため持ち歩ける電磁加速砲を作ると電力は限定されて、 威力も弱くなってしまうということだろう。 持ち歩ける電磁加速砲を作るだけでもすごいと思うけど。
「まあがんばって。 俺も少し調べておくから」
小さい頃から科学を教え込まれてきたのでその辺の学者よりは頭がいいはずだ。
「お願いね、 あと夜ご飯もお願い」
「わかった、 できたら呼ぶね」
そう言い残して部屋から出る。
「今日はハンバーグにするか」
そんなことを考えながら冷蔵庫の扉を開ける。
この家で料理を作れるのは俺しかいない。
よって俺が飯を作るのは必然。
母さんが作った時はすごかった。
俺と親父が『新しい化学兵器だ』とガタガタブルブルした思い出がある。
あの惨劇を繰り返さないために俺はここに立っている。
まあ、 そんなことはどうでもいいか。 ついでに料理の課程も省きます。
というわけで準備完了。
「みんな~、 ご飯ですよ~」
すでに二人ともリビングのテーブルで待っている。
「はい、 どうぞ」
テーブルに食事が行き渡る。
「それじゃあ、 いただきましょうか」
「「「いただきます」」」
俺と母さんは、 フォークとナイフを使っているが、 親父は箸を使って食べている。
食事を始めて少ししてから親父の箸が止まる。
「お前、 今日誕生日だっただろう」
「「あ」」
なんと! 俺と母さんが忘れていて親父だけが覚えているなんて。
「そんでもって、 誕生日プレゼントというものを用意した」
これまたなんと! 誕生日プレゼントンなんてものまで用意しておくなんて。
幻覚か? 幻覚なのか!
「それよりお前、 アレは持ってんだろうな?」
「・・・ああ、 持ってるよ」
腰から刃渡り十五センチくらいのサバイバルナイフを取り出す。
これは、 十三歳の誕生日の時にくれたものだ。 言いつけで常備持ち歩いている
・・・前の誕生日にナイフをくれたってことは。
「ほら、 受け取れ」
渡されたものは・・・。
「拳銃かよ・・・」
「ああ、 米軍正式採用のベレッタM92Fだ」
「見りゃわかる。 親父に教え込まれたからな」
父親のしている仕事がアレなので、 とくに驚かない。
「米軍に戦友がいてな、 そいつに都合つけてもらった」
ナイフの次は拳銃ね。 次はアサルトライフルじゃね?
「それからこれも」
渡されたのは、 銃を入れておくショルダーケースだった。
「そいつも持ち歩いておけよ、 いつ襲われるかわからないしな」
「はいはい」
ここで蚊帳の外だった母さんが話に入ってきた。
「お父さん、 この前言ってたライフル・・・もうすこし時間が掛かりそうなんだけど」
「いや、 そんなに急がなくてもいいぞ。 しばらく依頼もないだろうし」
その言葉を聞いた瞬間、 母さんの表情が輝きだした。
「助かるわ♪」
「それより学校はどうなんだ?」
「あ~まあまあかな」
「お前も時期に俺の稼業に就くんだから学校なんて行ったって仕方ないだろう?」
「まあまあ、 いいじゃないですか」
親父の言う稼業とは殺し、 つまり殺し屋の稼業を継げと言っているのだ。
まあ、 親父からは、 殺しのテクニック、 あらゆる武術を学んだし、 母さんからは、 科学のすべてを教え込まれてきた。
これだけ無駄なところでハイスペックな高校生はどこにもいないだろう。
「わかったわかった、 考えておくよ」
食器を台所に持って行く。
「じゃ、 俺もう寝るから」
「は~い、 おやすみ」
「明日は六時起きだぞ!」
前者が母で、 後者が父だと言うことは言うまでもあるまい。
ところ変わってマイルーム。
唯一くつろげる空間だ。
ここで先程もらったプレゼントを取り出す。
「拳銃ね、 こんなん見つかったら俺捕まるぞ」
呟きながらショルダーケースを付ける。
「ありょ?」
ショルダーケースに拳銃をしまおうとしているのだがうまく入らない。
「どうなってんの?」
ショルダーケースの中を覗くと問題は解決された。
「げっ、 予備マガジンも入ってんじゃん」
ショルダーケースの中には予備マガジンが三本入っていた。
「用意周到すぎだろ・・・」
ここで時計を見る。
十時半、 明日は六時起きって言ってたし、 もう寝るか。
電気を消して布団に潜り込む。
さあて、 明日は平和な日常を満喫しますか。
そんなことを考えながら俺は眠りについた。
電磁加速砲の知識は全然ありません。 でもこの後も出てきます。
よろしくお願いします。