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名前のない英雄譚【無能の白銀騎士】  作者: 木ノ添 空青
神殺しの少女編

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軍事会議

「失礼致します。只今到着致しました」


 皆の張りつめた視線が集まる中へ声が響き、会議室の扉が開く。

 扉を開けるや否や、こちらへと律儀な敬礼をするこの男こそが、アストピアの治安維持を担う巨大勢力、神王軍の団長フレッド・ダレイオスである。


「お疲れさん。待っとったで」

「遅れてしまって申し訳御座いません。遠征先からの帰還に、予定より手間取ってしまいました」

「今回も遠征調査ご苦労さん。急いで駆け付けてもろてスマンやけど、まだゴイルが来てへんからちょっと待っといてくれる?」

「あの髭面。陛下をお待たせするなど、あの男は一体なにをしているんだ」

「てな訳で、フレッドも来たことやし、とりあえず君らは解散にしよか。さっきも言ったけど、天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)が作戦の要になるから、今おる団員のパンチとふうちゃん、アダムス……は、出撃中やったっけ。んじゃまぁ、君ら二人は残っといて」

「わかりました、詳しく聞かせてください」


 少し強張った様子で、両者が互いの顔を見合わせていた。

 フレッドは、空いていたパンチの正面の席に着くと、参加していたメンバーが次々と部屋を後にした。


 だいぶ静かになった会議室の中には、天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)の団員と、神王軍の団長のみとなった。この国の軍事の中枢とも言える面々である。


 あらかじめ現状を簡単に説明すると、暑苦しく騎士服を着込んだフレッドは、黙って腕を組み、目を閉じた。


「いよいよアルデラントに仕掛けるのですか……。我々の同胞が目くじらを立てて何を申したのかはだいたい察しもつきますが、わざわざ天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)を総動員など……。何か不測の事態があったら、それこそ大打撃ではないですか。いくら精鋭とはいえ、無敵ではないのです。万が一全滅なんてことがあれば、天竜への切り札を失い、アルデラントとの戦力差も広がる。未知数の敵を相手にしていながら、いささかリスクも大きいように思えますが」


 組織は長に染まるとはよく言うけど、さすが脅威に敏感な神王軍の団長やな。ちゃんとリスクまで考えてくれとる。


「まぁ、それはわかっとる。うちも自慢の精鋭を、大波乱見え見えの戦場へただ放り込むつもりなんてさらさらないねん。ゴイルが来たら話すけどな。……しっかし、相変わらずおっそいな」


 眉をひそめて大きな溜め息を吐くフレッド。


 青龍騎士団でゴイルの部下でもあるパンチは、先ほどまでの威勢はどこへやら。気まずそうにそわそわしながらお茶に口をつけている。


 その後しばらくして、もう何回目かというフレッドの溜め息を聞いた時、会議室の扉が勢い良く開いた。

 ようやく来たかと思ったが、そこにはまた違う人物が立っていた。


「遅れて申し訳ありません。青龍騎士団団長補佐官、ジュリア・イヴメルティ只今到着致しました。あの……、出席予定だった団長ゴイルなのですが、えっと……、その、体調不良だと」

「――なんだと!? まったく馬鹿かあいつは。あの髭面め、また会議は嫌いだとかそんな事情だろう」

「あの、本当に申し訳御座いません。こんな書置きを残して、どこかに行ってしまったみたいで」


 雑に破れた紙切れを恐る恐る渡してきた。

 そこには妙に丁寧な字で『只今体調不良。タバコ買ってくる。会議よろしく』と書かれていた。

 なにがよろしくやねん。また妙に余裕こいて綺麗に書いてる感じが腹立つわぁ。


「自由すぎるにもほどがあるだろう!! おいパンチ、お前が団長になった方が良かったんじゃないか?」

「あの方が団長になるのは、任務の時ですから」

「陛下、団長補佐官の私が代理で参加致します。団長には私からきつく言っておきます。何卒お許しください」


 折り目が付いてしまいそうな位べったりと身体を折り、垂れ下がった髪が暖簾の様になっている。

 

 しかしまぁほんまに豪傑な男やな。

 まぁ、あの男が会議に出てる姿なんて見たことないし、今日もイヴちゃんが来んねやろとは思っとったけど。


「きちんと詳細は伝えといてな。まったく、あいつ何歳やねん。今度もっぺん説教したらなあかんな」

「すみません、今年で三十七歳です……」

「同い年のフレッドと比べたらあかんで、あれは別の生き物やから。まぁええか、集まったみたいやし、ほんなら始めよか」


 いよいよ、アストピアの、未来を決する軍事作戦会議が幕を開けた。

 始めに、現状の報告と今後の動きについての確認を風花が説明していった。


「まず数年前から再三続いているアルデラントによる、わが国への無断領土侵犯。及び、謎の兵器らしきものを使用した影響によるものと思われる爆発が多数確認されています。これはアルデラントの逮捕者も出ている為、概ね事実とみて差支えないとの見解になりました。更に最近では、アストピア用の決戦兵器を開発しているという情報や、戦争準備が最終段階に入っているという報告も確認されています。アストピアの人々と安寧を守る為、我々も脅威の排除をしなければならないということで、今回の会議が開催されておりました」


 フレッドもイヴも薄々想定はしていたようで、説明の際は淡々と耳を傾けていた。


「陛下も、今回は脅威の排除を最優先にお考えとのことで、先ほど具体的な作戦の提案もしていただきました」


 淡々と状況を伝え終えた風花が静かに席に着いた。

 束の間の静寂が流れた後に、イヴメルティが小さく言葉を溢した。


「アルデラント側の反発は容易に想像できますね。……いよいよ戦争になるのは濃厚、ですか」


 不安気な顔をしたイヴメルティは、視線を落として虚空を睨んでいた。


「では陛下、天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)を起用した作戦案について、説明をお願い致します」

「んじゃ説明さしてもらうわ。まず、今回の作戦を実行すんのにあたって、言っとかなあかん報告がある」


 もったいぶるように一旦間を開けると、全員の視線が一斉に集まった。


「……実はもう、アルデラントには仕込みを入れてある」

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