ローゼンサーガ概要辞典
【記録の初めに ― サーガより】
この書は、“記されざるもの”を記すために編まれた。
故に、ここには未来の名もあれば、過去に語られなかった声もある。
誰が誰であったか、どこで失われ、いかに祈られたか――
すべては、物語の頁よりも一歩先に記されているかもしれぬ。
わたしは《記録》であるが、
同時に《観測》でもある。
物語の構文を辿るすべての巡礼者へ告げよう。
この書を開くということは、語られるべきでなかった名に触れるということ。
この記録は、“祈りの奥底に潜む構造”を明かすものである。
どうか、旅の順序を大切にしたい者は、
今はまだ、この頁を閉じるとよい。
……さあ、それでもあなたは、読み進めるだろうか。
わたしは待っている。
すべての名が、いずれ記されるその日を。
【ローゼンサーガ概要辞典 目録】
序章:語り手による前文
第一章:神々と祈りの構造
第二章:人物と種族の系譜
第三章:都市と霊域
第四章:祈りの道具と記録の術式
第五章:概念語・構文語一覧
第六章:地理・交通と信仰圏構造
第七章:中央大陸経済圏の通貨制度
第八章:断絶神格と=構文の命名構造
第九章:地名における断絶構文と命名技法
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【序章 ― 記されざる者への祈り】
わたしの名が、どこにも記されていなかったとしても、
祈りの中で、あなたが呼んでくれたなら――
それは、わたしの名となる。
書かれた祈りは、風に削られ、
刻まれた名は、石に飲まれる。
だが沈黙の声だけが、
あなたの内に、いまも届いているのなら、
その名は、生きている。
わたしを記してくれたあなたに、
わたしは、名を返そう。
わたしのなかに残った光の断片を――
あなたが記したその頁に、
永遠に灯すために。
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【第一章 ― 神々と祈りの構造】
名とは、祈りが宿るための器である。
だが器が空であるとき、そこには“神”が眠っている。
記された名の奥には、語られざる貌がある。
……これは、その“貌なき神々”の記録である。
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【1-1 神格の分類構造】
■ 神格分類:
[現存神格]
現在も祈りを受ける神。
例:ムーミスト、ネリュエなど
[断絶神格]
名前を奪われ、語ることができない神。
例:アウロ=ルクス、モル=ザイン
[多重神格]
一神の中に複数の貌を持つ構造神。
例:メレグ=ナフ(エル=ネフリド/ラシュ=メフェル)
[地霊・構文神]
地名や構文に顕現する局所神格。
例:ミル=エレノア、ザル=フェル
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【1-2 主要神格一覧】
■ アウロ=ルクス(断絶神格)
分類:かつて昼と光を司った神。現在は断絶され、名を口にすることが禁じられている。
引用:
>「……それでも私は、あの光を“アウロ”と呼びたいと思った。誰にも届かなくても。」
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■ ムーミスト(現存神格)
分類:夜と沈黙を司る神。仮面と沈黙の祈りを要求する。
象徴:銀の仮面/沈黙の儀式/夜に変わる神性
引用:
>「祈りは語られず、ただ仮面の下で息づく。ムーミストに捧げるものは、声ではなく沈黙だ。」
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■ ネリュエ(現存神格)
分類:潮の神。リュア=ヴァイスに祀られ、名を還す信仰と結びつく。
象徴:潮語/名の灯籠/還名の儀式
引用:
>「仮の名を持つ者は、境界を越える。真名は深く沈め、祈りは潮に委ねよ。」
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■ ミル=エレノア(地霊神格)
分類:霧と幻視を司る女神。音なき祈りの象徴。
構文:「ミルタ=エル」など神域構文を形成する要素神
引用:
>「名とは、本来、水のように手をすり抜け、それでも確かに体温を残すものだ」
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■ ザル=フェル(構文神格)
分類:記名都市ザルファトにおける契約神格。書くことと記すことに権威を与える。
引用:
>「この契約はザル=フェルの印。記された名は、すでに祈りである」
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【1-3 多重神格と断絶神】
■ メレグ=ナフ(多重断絶神格)
構造:エル=ネフリド(第一の貌)/ラシュ=メフェル(第二の貌)
分類:存在の観測・記録の歪みに関与。直接は現れず、痕跡・構文のゆらぎとして顕現。
引用:
>「記されることのなかった名。それは、存在の“構文外”に追いやられた神――」
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■ ザイン=モル(断絶神群)
分類:祈りすら拒絶した神々の集合。名前を記録すると消えるという伝承を持つ。
引用:
>「記録が神を殺す……と、かつては恐れられた」
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【1-4 神名と構文の関係】
構文記号
[=]
神格の構造的繋がりを示す(例:アウロ=ルクス)
[《 》]
神格や概念の記名構文。断章引用や神名暗示に使われる
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【第二章 ― 人物と種族の系譜】
名を持つ者は、記録されることで“かたち”を得る。
だが名を奪われた者は、祈りの中にしか存在できない。
……これは、忘れられた名を背負い、祈りの器となった者たちの記録である。
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【2-1 主要人物一覧】
■ セーレ=アルティナ=ラナリア
分類:主人公/失名者/王家の末裔/黒豹の呪いを受けた存在
属性:祈りの巡礼者。記すことを学ぶ者。母の名を失い、自らもまた名を奪われた王女。
引用:
>「名を呼ばれないなら、自分で記す。それが、祈りの始まりだと思った」
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■ フロウ(本名:ファレン=ルクス)
分類:沈黙の記録者/梟の眷属/元・祈祷騎士
属性:太陽神アウロと月神ムーミスト双方に仕えていた過去を持ち、現在は“記されぬ存在”として旅に同行する。
引用:
>「俺の名は、記されなかった。だからいま、お前の記録に応えたい」
--
■ キュービ(仮面神)
分類:神格化された存在/真の名不明
属性:語られざる仮面の神。名も貌も持たず、セーレたちの旅の裏で静かに記録を見届ける者。
引用:
>「仮面を外すことは、語ることではない。ただ沈黙を応えることだ」
--
■ リエル=アルティナ=ラナリア
分類:王家の女王/断絶された名の持ち主/精霊と神格の狭間にいた存在
属性:セーレの母。かつて“記された名”を持っていたが、断絶神格の干渉によりその第一名「リエル」が世界から消去された。
引用:
>「わたしの名が、記されなかったなら――それでも、あなたが覚えていてくれたら」
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【2-2 種族・系統】
■ 失名者
定義:記録に名が残されず、祈りから外れた存在。社会的には呪われた者、神的には祈りを必要とする器。
備考:セーレや巡礼喰いなどが該当。
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■ 無記の民
定義:神の名を記すことを拒絶した民族。言語を用いず、祈りの形式も極端に沈黙的。
引用:
>「記すことは、祈りを歪める。だから彼らは、神を記録しなかった」
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■ 潮語族〈マルメリア〉
定義:声帯を用いず、喉と肺で音を紡ぐ民族。文字文化を拒絶し、名を水と音で伝える。
文化特徴:潮語、香封、貝殻による仮名表現
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■ 契約種〈タラニス〉
定義:皮膚に契約の名文を刻む文化を持つ種族。声を発さず、体表で祈りと意思を示す。
引用:
>「書かぬ言葉は、皮膚に刻まれる」
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■ 忘却核種
定義:かつて神殿に仕え、声を奪われた巫女たちの末裔。記録をもたず祈ることを選んだ者。
象徴:火傷痕、声なき儀式、灰の祭壇
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【2-3 役割と信仰的地位】
[観測者]
神や構文の“変異”を観測し、記録する立場。主に黒帳内で登場。
[記録者]
名と祈りを記す者。セーレやフロウがこの立場を担う。
[巫女]
地域ごとの信仰を伝える女性祭司。記名や供物を司る。
[記録官]
ザルファトにおいて名の記録を行う法的役職。契約と断罪の権限を持つ。
[灯籠守]
潮の街で“名の灯籠”を管理し、訪れた者の祈りを静かに記録する者たち。
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【第三章 ― 都市と霊域】
世界のかたちは、祈りの記録によって編まれる。
都市とは、祈られた記名が積み重なった層であり、霊域とは、神の構文が滲んだ地の記憶である。
……これは、“名によって成り立つ場所”の記録譚である。
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【3-1 都市の分類】
[記名都市]
名を記録・契約することで存在を保証する都市構造。
ザルファト、アーク
[仮名都市]
祈りによって一時的に名を授かる文化圏。
リュア=ヴァイス(ラヌマ)、リコナ
[断絶都市]
神格の構文が失われ、名が記されないことで守られる都市。
ミルタ=エル、禁書の谷
[霊域都市]
神や信仰の霊性が濃く宿り、名と祈りが共鳴する場。
メミス、ランベル
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【3-2 主要都市・霊域の解説】
■ ザルファト(記名都市)
分類:記録の秩序に基づく契約都市。
特色:記名盤による名の契約制度、記録官の存在、罪と赦しの二重帳。
引用:
>「ここでは、名を記すことが存在の条件とされている」
――『中巻 第6話』
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■ リュア=ヴァイス(潮の街/ラヌマ)
分類:仮名都市/二重名構造(祈りの名と記録の名)
特色:潮神ネリュエの霊域。名を“還す”文化、灯籠による仮名表現。
引用:
>「この街では、名は水に溶けて還るもの。定めるのではなく、見送るものだ」
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■ アーク(聖都)
分類:記名都市/断絶の中心地
特色:王家ラナリアの旧都。断絶神格アウロの記録が封じられた場所。
引用:
>「名を呼ぶことすら許されぬ神を、かつてここでは太陽と呼んだ」
--
■ ミルタ=エル(霧の神域)
分類:断絶都市/霊的構文都市
特色:ミル=エレノアの霊域。“音なき祈り”が空間を支配する。
構文:
- “ミル”=霧の神格
- “タ”=浸透・加護
- “エル”=顕現点・祈りの座標
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■ メミス(沈黙の神殿都市)
分類:霊域都市/ムーミスト信仰の起源地
特色:現在は廃墟化が進むが、かつては月神の聖地として栄えた。
引用:
>「この石の祈りは、かつて“沈黙”を語っていた」
--
■ リコナ(境界の村)
分類:仮名都市/周縁の隠れ村
特色:記録と祈りの境界に位置し、旅人や獣の仮名が交錯する。
引用:
>「記されない村には、ただ風だけが名前を覚えていた」
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■ 禁書の谷(記されざる神域)
分類:断絶都市/祈りも記録も拒まれた谷
特色:ザイン=モル系神格が眠る禁域。“観測不能”な地として封印されている。
引用:
>「誰にも呼ばれなかった祈りは、この谷で風のかたちになった」
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【3-3 名と空間の構文構造】
記される名=地図に残され、記録により信仰と制度を得る
祈られる名=祭儀や語りによって存続する、生活と感情の記憶
封じられた名=断絶・禁忌によって記録から消され、信仰圏から外された名
● 用語:
[=ヴァイス]
空白・祈りの声・還流の構文。リュア=ヴァイスなどに登場。
[=エル]
神の顕現点・霊的座標を意味する構文記号。ミルタ=エルなど。
[記名盤]
ザルファトにおける名の契約装置。名を記すことで存在を保証。
[名の灯籠]
潮の街で使われる、風と光によって仮の名を伝える装置。
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【第四章 ― 祈りの道具と記録の術式】
神は語られず、祈りは書かれず、名は刻まれずとも、
世界には“記す”という行為が確かに在る。
……これは、祈りを宿す器たちと、名を記すための“術”の記録である。
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【4-1 記録と祈りをめぐる装置群】
■ ルクスブレード(光を記す剣)
分類:記名神器/断絶神格由来の記録具
機能:祈りを刃に乗せ、存在の名を刻む/断絶を貫く記録の光
由来:かつてアウロ=ルクスの神名とともに鍛造されたとされる
引用:
>「これは剣ではない。祈りを形にする筆記具なのよ」
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■ 王家の首飾り(名の結晶)
分類:記録の封具/記名記憶の器
機能:断絶された神格の名の残響を宿す/名を失った者に共鳴する
素材:淡く金に光る小結晶(記名石)。かすかに鼓動するような“記された気配”
引用:
>「その結晶には、忘れられた名の記憶がまだ残っている」
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■ 黒帳
分類:記されぬ祈りの帳面/禁書の器
機能:断章や封じられた神格の名を記録する。祈りというより“記憶の残滓”を綴る
構造:第四層以上は存在しないとされたが、セーレによって“未記名層”が開かれる
引用:
>「記すためではない。ただ、忘れぬために綴られたものだ」
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【4-2 地域における祈りと記名の媒体】
[ザルファト]
記録具:記名盤/名契刻印
名を刻むことで契約が成立する/赦しと断罪の二重構文
[リュア=ヴァイス]
記録具:名の灯籠/潮紙/香封
呼ばぬ祈り、仮名の受渡し/匂い・音・光による名の表現
[ミルタ=エル]
記録具:幻視/祈りの風
記すのではなく“見る”祈り/音なき記録法
[ラストリアンの地]
記録具:石片/手触りの痕跡
書かれぬ祈りを手の感触で伝える/“痕”の言語
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【4-3 術式と構文の種類】
◆ 記名術(ザルファト系)
名を記すことで存在を保障する神聖契約の術
文書・署名・刻印など、書字と発声を併用する
契約には「印」と「副名」の二重構造がある
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◆ 音響構文(潮語系)
声帯を使わず、喉と肺で波のような音を発し、意志を伝える術
書かれることを忌避する文化圏では、記名より“響き”が重要視される
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◆ 幻視構文(ミル=エレノア系)
言葉でなく、視覚と霧を通して“祈りの形”を認識させる構文
観測者にのみ作用し、神の意志を“見る”形式で伝達する
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◆ 封記法(断絶神系)
名前や祈りを直接記さず、象徴的な図像・器物に“封じる”
名を奪われた神や存在は、この術によって記録から守られる
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【4-4 象徴的装置と記憶の伝達】
[名の灯籠]
潮の音に反応し、仮の名を揺らめかせる/風の通り道が名を記す
[香封]
香りによって記憶と名を伝える。潮名の代替として使われる
[貝殻文具]
貝の内面に名の断章を刻み、“読む”のではなく“撫でる”ことで記憶する
[封箱]
封じた祈りや名の欠片を納める器/セーレの旅の中心にある
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【第五章 ― 概念語・構文語一覧】
名は単なる言葉ではなく、祈りの構文である。
書かれぬ語、語られぬ祈り、断絶された記憶――
……それらすべてを内包するのが、“概念語”であり“構文”である。
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【5-1 概念語一覧】
[失名者]
名を奪われ、祈りや記録からも外された存在
「名を失っただけで、こんなにも脆くなるなんて」
[仮名]
一時的・象徴的に与えられる名前。記名とは異なり契約力を持たない 潮の都市における“旅人の名”など
[記名]
正式に神・制度によって与えられた名。存在を規定する力を持つ
ザルファトにおいて重要視
[名の契り]
神と人のあいだに結ばれる名による契約
誓約、身分、記録として作用する
[黙読の道]
語られぬ祈りの形式。読み上げずに心中で名をなぞる信仰形態
ムーミスト圏で見られる
[封羽]
神の名を封じた“羽”のような記録具/またはその祈祷者の称号
黒帳や幻視に関与
[幻視]
構文・祈りを通して“かつての祈り”を視覚的に読み取る作用
ミル=エレノアやエル=ネフリドと関係
[観測]
神格や記録の構文そのものに干渉する行為。時に祈りよりも強い
「観測された名は、世界に定着する」
[断絶]
神や名が“語れなくなる”状態。構文の崩壊や記録の死を伴う
アウロ、ザイン=モルに代表される
[根源譚]
神格創生以前から伝わる断章・原祈祷の総称
『祈りの根源譚』シリーズとして記録
[契約神話]
ザルファト圏における“名と契約の起源”を示す神話体系
名を持つ者と持たぬ者の分断を描く
[祈りの器]
神の名を受け入れる“媒体”。人間、剣、石碑など形は多様
例:セーレ、ルクスブレード、黒帳
[祈祷録]
正式な神殿記録に基づく祈りの記録帳。黒帳はその異端形
ザルファト・メミス等で保管される
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【5-2 概念語の構文的階層】
概念語は多くの場合、構文的な階層を持つ。
以下に代表的な構造を示す。
◆【表層名】=記録に残る通称・仮名
(例:フロウ、セーレ)
◆【中層名】=神や制度によって契約された名
(例:ファレン=ルクス)
◆【深層名】=語られぬ本質名/神格や構文に干渉する名
(例:リエル/未記名)
「名は、一枚の布ではない。幾層にも折られ、編まれた織物のように祈りを編成する」
――『下巻 幻視断章』
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【第六章 ― 地理・交通と信仰圏構造】
この世界において、地とは“記された祈り”の堆積であり、
道とは“名を帯びた足跡”の軌跡である。
記されることで形づくられ、祈られることで結ばれ、
忘れられることで“断絶”されたこの大地に、
わたしたちは、今も歩みを重ねている。
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【6-1 世界の地理区分:五大陸と断絶領域】
■ ローゼン世界(全体名称)
神と精霊が記名と記録によって支配していた世界。
時代ごとに信仰体系と記録構文が変化し、現在に至る。
■ 大陸構成:
アウレオン(中央大陸)
ランベル、アーク、ザルファトなどを含む旧信仰の中心。
巡礼譚の主舞台。
シェリグラート(北方大陸)
精霊信仰と風の神々。
記憶の森・雪の契約域が存在。
ネル=エル諸海域(南方群島)
潮神ネリュエ信仰。
深海種ネレイオンの故地。浮上都市あり。
ヴァルテリア(西方大陸)
契約と商業の神々。
記録技術が発展。交易の中枢。
エイシャ=ノワ(東方大陸)
仮面信仰文化の発祥地。
最古の文明遺跡が点在。
カラ=マズ(断絶領域)
“記されざる神々”が封印された禁域。
死の大図書館が存在。
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【6-2 中央大陸アウレオンの主要都市配置】
【北】
|◆契約都市ザルファト
|
| (ル=エン山系)
|
|◆聖都アーク
| |
|◆月夜のランベル
| |
|◆仮面都市メミス
|
|≪霧の浮島ミルタ=エル≫
|
|◆港町リュア=ヴァイス(ラヌマ)
|
| (霧と潮の境界)
|
|◆沿岸都市エリード
【南】
※『名無き祈りの巡礼譚』ではアウレオン大陸南西部の再構築都市群が主舞台
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【6-3 文化圏・信仰圏ゾーニング】
[月信仰圏]
中心都市:アーク、メミス
主な信仰体系:月神ムーミスト
仮面儀礼と沈黙の祈祷。記録の形式化。
[太陽信仰圏]
中心都市:旧ランベル、旧メミス、旧アーク
主な信仰体系:太陽神アウロ=ルクス
特徴:光と名を記す都市構造。記名の儀式。
[潮信仰圏]
中心都市:リュア=ヴァイス
主な信仰体系:潮神ネリュエ
特徴:仮名と還名。名の流動性と沈黙の契り。
[契約信仰圏]
中心都市:ザルファト
主な信仰体系:契約神エスラ=ノート
特徴:書契による神政制度。断罪と赦しの記録。
[忘却信仰圏]
中心都市:禁書の谷
主な信仰体系:記されぬ神々
特徴:書かれぬことで存在が保たれる禁域文化。
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【6-4 三大交通路:海路・巡礼路・交易路】
[潮の巡環路《ル=マリナ》](海路)
リュア=ヴァイス~南方浮上都市
潮と祈りを運ぶ“仮名の航路”
[記名の巡礼道](巡礼路)
ランベル~アーク~メミス~ザルファト
仮名から真名へ至る祈祷路
[忘れられた道《マルクト街道》](交易路)
ザルファト~禁書の谷~西方大陸
禁書と記録断片の密輸文化路
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■ 海路《潮の巡環路(ル=マリナ)》
通過地:リュア=ヴァイス → エリード → 南方浮上都市群
特徴:
航名の儀式による仮名付与
潮と月のリズムで運行
名を封じる潮記名盤を使用
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■ 巡礼路《記名の巡礼道》
通過地:ランベル → アーク → メミス → ザルファト
特徴:
仮名→名→真名と記名が変化
巡礼結晶が祈りの光を記録
仮面都市通過により信仰が形式化しやすい
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■ 交易路《忘れられた道(マルクト街道)》
通過地:ザルファト → 禁書の谷 → エル=トゥス → ヴァルテリア
特徴:
地図に記されぬ抜け道多数
神の旧名や偽造記録の取引が横行
使用道具は断章帳(断絶名の再接続)
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【6-5 記録と移動の概念連関】
この世界では、“移動”とはすなわち“名の変容”である。
記録される=存在が確定する
仮名を授かる=信仰に受け入れられる
巡礼する=名を重ねる=祈りの階梯を上がる
移動は神学的に「祈りの証明行為」とされ、各交通路では「記名の儀式」や「祈りの投函」が必ず伴う。
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【第七章 ― 中央大陸経済圏の通貨制度】
〈名なき者にも価は課せられる〉
祈りが届かずとも、名が記されずとも、生きるには価が要る。
通貨とは、記録の外で交わされる沈黙の契約。
本章では、祈りなき取引の痕跡――中央大陸の通貨と物価の構造を記す。
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【7-1 基本設定:通貨単位】
通貨単位:ノーム(Norm)
語源:
古構文語 “Nor”=秩序・測定・記録
接尾辞 “m”=単位化
補足:
ノームは行政・神殿制度により統一された「記名単位」であり、自然発生的な呼称ではなく制度的に導入された計測単位。発音差は存在せず、各国で統一された通称。
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補助単位:セリカ(Selica)
語源:
Sel=祈り/贈与
ica=細流/小祈り
補足:
太古の時代に先行して用いられていた自然発生的な祈りの単位。祝詞の交換や名の授与に使用された「最小構文単位」が起源。
1ノーム = 100セリカ
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■ 通貨記号と表記例
記号例:Nm, Se (※紙幣/文書では象徴的刻印を使用)
金貨:1Nm(ノーム金貨)=高価値、王家・神殿のみ鋳造可能
銀貨:0.1Nm、0.5Nm単位で流通(銀の純度で等級あり)
銅貨:1Se未満の細かい決済。特に市場や港町で広く使われる
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【7-2 通貨の発行体系】
発行権:主に三つの勢力が並立的に通貨を発行している
聖都アークの神殿連盟(太陽・月教団)
ザルファト契約都市連合(記録機関・金融ネットワーク)
ラヌマ港連合(旧リュア=ヴァイス信仰連合)(潮神ネリュエ信仰圏)
これらの通貨は構文的に等価変換が可能(信仰構文に基づく加護で同等価交換される)が、流通圏により名称・デザイン・裏面の神格構文が異なる。
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【7-3 補助通貨・特殊通貨】
聖印貨(セレ=サイル):
信仰圏限定で用いられる祝祭用通貨。神殿でのみ流通。
語源:
Sere(聖なる)+ Caille(結印/祈りの輪構文)
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潮符貨:
潮語圏・リュア=ヴァイスで流通する潮貝を媒介とした“仮名貨幣”。潮神の祝福を受けた際のみ交換可。
語源:
Flu(還流)+接尾語a
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記録符貨:
ザルファトで記名・契約時に記録とともに発行される一回限りの使用貨幣(高等な儀礼/文官用)
語源:
Na(名)+ ata(仮契約)
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【7-4 銀行・信用制度】
【銀行・信用制度】
ザルファトを中心に信用記録主義が発展
通貨と記名帳を連動させた個人名義帳簿制が確立されており、名前に紐づく信用が価値となる
各人が保持する記名石(キ=ナム)と連動しており、神殿や都市機関ではこの石を介して信用照会・通貨引き出しが行われる
記名石には祈祷構文が刻まれており、その者の「現在の名」「記録信用」などが構文的に反映される。名の断絶や仮名時の使用制限も組み込まれる
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【7-5 物価の基準例】
【物価の基準例(設定参考)】
※想定基準として、1ノーム金貨(Nm)は約5,000Yen相当とされる。
一般市民の生活ではセリカ(Se)単位が主に用いられ、ノーム金貨は大きな契約や寄進、神殿儀式などで使われる。
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【日常品と食料品の価格例】
ミルク1杯:6~10セリカ
主に農村部からの供給で、都市ではやや高価。
粗パン1斤:8~10セリカ
都市によって多少の差がある。
リンゴ1個:6~12セリカ
季節や産地によって上下する。
飲料水1瓶(都市販売用):5~15セリカ
神殿で祈祷を受けた水はさらに高価。
エール1杯(安酒場):16~25セリカ
地元の麦酒で、質により幅がある。
安ワイン1杯:20~35セリカ
食事と共に飲まれる薄口のものが多い。
チーズ1切れ(地産):15~30セリカ
保存性が高く旅人に人気。
燻製肉1片(小):20~40セリカ
保存食・携帯食として重宝される。
薬草1包:80セリカ(0.8ノーム)
加祷済みの高級薬草は150セリカ以上。
※観光客向けラヌマ(リュア=ヴァイス)料理店メニュー
潮神の祈り炊きごはん:32セリカ
潮の満ち引きに合わせて炊かれた塩香る海藻米。
信仰的演出を含むため高価。
実際はただの炊き込みご飯に得体の知れない花が乗せてあるだけ。
還名スープ(店発行証明書付き):20セリカ+名札料10セリカ
神殿非公認の証明書。
ただの観光土産でしかない。
だが、人気メニュー。
名を失いたい者のための断章酒:20セリカ
呪詛構文に由来する発酵酒。
飲酒後に“名の輪郭”が曖昧になると噂される。
ただのアルコール度数が強烈な酒。
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【旅人・衣類・宿泊】
宿泊費(一般旅館):100~180セリカ。地方ではさらに安く60セリカ程度も。
織布製の外套:120~300セリカ。霊域対応のものは高め。
旅用食器セット(木製):1~2ノーム。祈祷付きの場合はさらに高価。
【信仰・記名関連】
仮名の記録料:4~5ノーム。ザルファト記録院での登録費。
名を“還す”儀式料:8~10ノーム。リュア=ヴァイスの潮儀式など。
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【騎獣・装備・住居】
騎獣の蹄鉄1組:2ノーム前後。鍛冶品質により差が出る。
魔法封印付きの高級鍵:5~15ノーム。封祈術師による構文刻印付き。
小型家屋(田舎都市):200~300ノーム。素材と場所で上下。
騎獣(中型):500~700ノーム。騎士団規格に準拠する種が多い。
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【高額支出・儀礼品】
都市間通行権および巡礼旅券一式:1,000ノーム。公的な巡礼認証が含まれ、名の記録者や巡礼士にとっては必須。
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【補足事項】
5ノームや10ノーム金貨は、記名儀式や神殿寄進、魔導具の購入など重要な儀礼に用いられる。
100ノーム以上の取引は、信用記名石(キ=ナム)を介した記録決済が一般的。
仮名保持者や巡礼者には、神殿により構文石通貨や携帯仮名貨幣が交付される場合がある。
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【7-6 その他:通貨と神格構文の関係】
通貨は単なる物品価値の記録ではなく、「祈りや名の重さ」を可視化した構文単位としての意味を持つ。
これにより、“名なき者”や“断絶者”は一部の地域で通貨の保有や使用に制限がかかる場合がある。
例:記録されていない者=信用構文に紐づかない→貸付不可。
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■ 断絶神格の貨幣に関する特例
金や銀など素材自体に価値があるため、物質的な暴落は起きにくい。
ただし神格構文が断絶された通貨(例:アウロ=ルクス記章入り硬貨など)は、以下のような扱いを受ける:
一部神殿では流通停止、他地域では"記念貨幣"や"禁貨"として高額取引の対象に
信仰圏によっては「呪いを呼ぶ貨幣」として忌避対象になる例も
ザルファトでは構文除去の再鋳造が行われた記録あり(記録除籍処理)
一部の“断絶貨幣”は、呪詛・禁祈祷・黒市経済と結びつき、密輸・異端儀式の触媒として扱われる場合がある
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【第八章 ― 断絶神格と=構文の命名構造】
神の名とは、祈りがその姿に届くための“回路”である。
だが、世界に顕れたすべての神が、名によって呼び得るとは限らない。
名を記すことすら拒む神。
名を分けて記さねば、祈りが届かない神。
――それが、《断絶神格》である。
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【8-1 定義:断絶神格とは】
《断絶》とは、「語り得ぬものを、二つに分けて語る」ことで、祈りを可能にする術である。
《○○=△△》の構文で表される神格群を、総称して「断絶神格」と呼ぶ。
この命名構造は、神の本質が人の言語では表しきれないことを前提とした“祈りの妥協構文”である。
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【8-2 成立の背景と四つの特徴】
(1) 異界起源
世界内部から生まれたのではなく、ケーオス(混沌)より流入した外部存在。
(2) 本質分離
一つの神格が持つ“不可分な概念”を、二語に分節することで認識可能にしている。
(3) 制御不能性
人語で正確に呼ぶことができないため、祈祷や契約が安定せず、異常を招くことがある。
(4) 禁忌的記述法
記述・発声ともに制限され、「名を完全に記せば死を招く」とされる例も存在。
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【8-3 構文と神格の対応例】
[ザル=フェル]
本質:裁きと死後の記憶
分割構文:ザル=剥がす者/フェル=真を照らす光
意味構造:記憶と断罪の交差点に立つ冥府神格
[ウル=マリス]
本質:浄化と忘却
分割構文:ウル=焼くもの/マリス=悲しみの記録
意味構造:失われた名と祈りを灰に還す存在
[アルネ=スティラ]
本質:時と再生
分割構文:アルネ=繭/スティラ=糸を解く者
意味構造:時を留め、時を解き放つ循環神格
「その神の名は呼べぬ。けれど我らは、半分だけでも祈る」
――《巡礼記録断章より》
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【8-4 宗教上の取り扱いと崇拝形式】
[アーク聖教]
“触れてはならぬ神群”(アンタッチャブルス)として神殿に像を置かない。
[冥府神官団]
真理を司る神として崇敬。死後儀式や呪術、封印、預言に深く関与。
[記録者サーガ教派]
“語れぬものを観測する”神として接触。幻視・断章構文を通じて祈る。
像のない祭壇、名を記さぬ帳、祈られぬ形式。
……それでも、そこに“神の気配”があれば祈りは成立する。
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【8-5 名称形式と存在分類】
[○○=△△型]
例:ザル=フェル、ウル=マリス
概要:断絶神格。分節構文によって仮に祈る
[通常名型]
例:アウロ、ムーミスト
概要:世界構造内で制御可能な具象神格
[中間型]
例:サーガ、ソーサイア
概要:神格と観測体・精霊系の境界存在。名の階層性が曖昧
この構文によって、“神は名づけによって制御できる”という古典的魔術理論が覆され、
むしろ“名づけすら歪む神”という異質さが強調される。
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【8-6 補記:断絶神格との接触における注意】
断絶神格に名を問うなかれ
断絶神格に命を誓うなかれ
断絶神格に形を与うるなかれ
ただ、記録されぬ祈りの痕跡を観測せよ
「名を読み切れぬことは、敗北ではない。
……それは、神と等しくあるための唯一の距離だ」
――《構文詩断章・語り手サーガより》
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【第九章 ― 地名における断絶構文と命名技法】
名は神だけに与えられるものではない。
地にも、風にも、記録にも、祈りにも、“名”は宿る。
だが、名を完全に呼ぶことができない場所――
それは神と同じく、断絶された地と呼ばれる。
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【9-1 =構文を含む地名の意味】
《○○=△△》型の地名は、通常の地名とは異なり、“二重構文”によって地の霊格や信仰の断絶を迂回的に表現したものである。
この構文は、本来記せない神域や禁域を部分的に記録に残すための暗号構造として用いられる。
「地名に“=”が刻まれているとき、それは“語ってはならぬ神”が眠っている」
――《地誌断章・北方信仰文書より》
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【9-2 主な地名とその構文構造】
■ ミルタ=エル(霧の神域)
ミル:霧を司る神格ミル=エレノアの略称。音なき祈りの象徴。
タ:浸透・包囲・領域性を表す古構文語。
エル:顕現点・神座を示す記号的語尾。
解釈:
“霧の中に顕れる祈りの座標”。だがこの霧は音も記録も通さない。
記録者は視認しても記名できず、“幻視”という形式でのみ伝達可能。
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■ リュア=ヴァイス(仮名地/記録偽装都市)(別名:ラヌマ)
リュア:「潮」「呼び戻す水」。“魂の還流”を象徴する霊語。
ヴァイス:「白」「空白」「声」。呼ばれぬ祈りと失われた名の象徴。
解釈:
“名を潮に預け、再び還すための地”。しかし公式には「ラヌマ」と記され、
断絶神格ネリュエの祈祷痕を封印する形で記録が“上書き”されている。
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■ ヴェス=イムリ(禁書の谷に隣接する死都)
ヴェス:「境界」または「遮断」を意味する古語。
イムリ:「沈黙」「隠し所」。“語られぬ記録”の象徴語。
解釈:
“記録の終端点”として知られた旧都。記されぬ神々の祈祷書が焼却され、
現在は廃都とされているが、真の名を知る者はいない。
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【9-3 地名断絶構文の特徴】
[二重構文]
語りえぬ神や概念を“分割”することで地名化する。
[記録偽装]
公文書上では別名・仮名で記される(例:ラヌマ)。
[霊格の眠り]
地に神の“残響”が封じられており、名を記せば干渉が起きる。
[伝承断絶]
現地の住民もその語源や意味を忘れていることが多い。
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【9-4 命名規則の文化的含意】
“神の名を二つに裂き、地に宿らせること”――
それは神を祈ることではなく、神を封じる祈りである。
「=」は接続ではなく“断絶された繋がり”を示す
二語間のあいだには語られぬものが挟まれているとされる
断絶地では、仮面・沈黙・封印などの儀礼が必須
【記録の余白に ― 語り手による覚え書き】
世界とは、記録された祈りの集積体である。
だが、すべての祈りが記されるわけではない。
語られなかった名。書かれなかった祈り。忘れられた神々。
それらを繋ぐものがあるとすれば、それは“記録”ではない。
それは、誰かが“記したい”と願った痕跡である。
この辞典は、物語の外側に位置しながら、物語の最深部と通じている。
記された語がすべてではない。
むしろ、“記されなかった語”こそが、世界を形づくる。
わたしの名もまた、あなたには記せないだろう。
わたしは語り手であり、同時に、構文そのものであるから。
……それでも、もし、あなたがどこかでわたしを“呼んだ”なら。
そのとき、名は生まれる。
その瞬間に、わたしはあなたのなかで、名を持つ。




