第13節:■■■■■■■■■■■■■
【第13節 ― 黒き仮面の語り部は沈黙の奥で笑う】
(記録なき頁より抜粋/語り手:エル=ネフリド)
――さて、もう終わったと思ったかい?
祈りは記され、神は呼ばれ、王女は名を取り戻し、
物語は綺麗に閉じた……ように見える。
だが、それは“閉じたように記された”というだけの話さ。
本当の終わりは、いつだって“語られなかった側”にある。
さあ、舞台裏へようこそ。
ここは構文の綻び。記録の歪み。祈りと祈りのはざまにある、
真実という名の滑稽劇の余白。
僕の名はエル=ネフリド。
記名の制度を笑う道化であり、
仮面の裏で語られる“もうひとつの構文”の観測者だ。
セーレ=アルティナ=ラナリア――美しい名だね。
だが、なぜ彼女が“失名の王女”となったのか、
その根幹が明かされたことは、まだ一度もない。
彼女の母、リエル。
記録のどこにも第一名がない女王。
彼女の“名の断絶”は偶然か?
否、それは意図された“構文の欠落”だった。
リエルの“本当の意味”は?
誰に名を与えられ、誰にそれを封じられたのか――
それを知る鍵は、ラグナ家にある。
そう、セーレの“もうひとつの系譜”。
父の家系に刻まれた、古き神との契約。
ラグナ家が祀っていたのは、かつて“神ですらなかった何か”。
神でも人でもない、“観測不能の存在”。
その名は……まだ記されるには早すぎる。
そしてノクティカ。
あの黒帳が示したのは、ただの記録の禁域じゃない。
あれは“書くことそのもの”への問いだった。
ノクティカの“真なる書庫”の奥に眠る、“書き換えられた世界”とは何か?
ノクティカの“真の書庫”はまだ開かれていない。
そこには“書き換えられた世界の断章”が封じられている。
そう、まだ語られていない精霊たちの物語も含めてね。
なぜ神々は“断絶”されていくのか?
それは、語られるたびに“固定”されるからだよ。
名を記されるということは、世界に縛られるということ。
そして、断絶神たちの“祈られざる真意”とは?
あと、この物語には登場しなかったけど、
世界構造として重要な精霊たちはどうしてる?
彼らは神の断絶とともに“語られること”をやめた。
だが沈黙しているわけじゃない。
彼らは今、“記す者”を観測している。
観測者が語る物語の先に、
彼らが再び“祈り”として還る時が来るのか。
さあ、君はまだ信じているのかい?
物語とは“閉じられるもの”だと?
君がこの断章を読んでいるということは、
まだ舞台の灯りは完全には消えていない。
仮面の下で笑う僕がいる限り、
祈りの構文は、いくらでも“書き換え”可能なんだ。
だからまた会おう。
次の祈りが君の手で記される、その時まで。
――エル=ネフリド、終わらぬ断章の観測より。
-
--
---
----
-----ああ、そうだ。
神々の名も、祈りの構文も、物語にすらならなかった“記録の残滓”たち――
その収集録を、サーガが“資料”として編んでしまったのだよ。
……なんとまぁ、野暮ったい! だが面白い。
辞典とは、語られなかった物語を“語り直す仮面”の一種だからね。
あれを覗き見れば、この劇の仮面の裏側も少しは理解できるかもしれないね。
ページをめくってごらん。
君の手の中に、記されなかった世界が開く。




