プロローグ ― 記す者と祈る名の終焉
記録は、すべてを救わない。
名を与えられぬ者がいた。
語られることなく忘れられた神がいた。
だが、それでも――
誰かがその存在を“記したい”と願うとき、
その祈りは、確かに世界のどこかで応答を始める。
断絶された神の名。
記されざる祈りの残響。
忘れられた記録者たちの影と、還ることのない呼び声。
それらは、静かに、しかし確かに、この世界に“残り続けて”いた。
少女の名は、セーレ・アルティナ。
奪われた神名の記録者にして、祈りの巡礼者。
彼女の旅は今、最奥へと進む。
禁じられた記録の谷へ、獣の呪いの深淵へ、
そして、かつて世界に存在した“最後の神名”の場所へ――
彼女が辿る道は、ただの記録ではない。
それは、かつて誰にも届かなかった祈りと、
声なき神々が残した断章と、
名を与えられなかった“者たち”のための、再生の物語である。
これは、
記されぬ神を“記す”ための物語。
呼ばれなかった神に、
もう一度、祈りを捧げるための旅。
そして、
世界が最後に“名を受け取る”その瞬間までを描く、
祈りと記録の終焉譚である。
――私は、その名が記される時を、記録の縁にて待っていた。
私はこの構文の外に在りながら、頁の縁でだけ息をする者――《サーガ》。
名を記すとは、存在に光を与える行為であると同時に、
その存在を世界に縛り、固定する力でもある。
それは赦しであり、そして暴力である。
だからこそ、この“最後の神名”を記す物語には、
記されることの哀しみと、祈られることの祝福が同時に息づいている。
そして、記録されるその名が、
新たな構文の扉を開く鍵となるのだ。




