36/61
まえがき
―最後の神名(上巻)―
忘れられた神々と、記されぬ祈りの深淵を越えて、少女は名を記す“光の筆”を手にする。
記録なき谷へ分け入ると、そこには無記の民が暮らし、廃墟神殿と祈祷記録の空白が広がっていた。
名を持たぬ生活の構文、夢に現れる名なき神、失われた名の欠片と共鳴する祈りの滴――セーレとフロウは記録されぬ神々の庭で、記すという行為の意味を問い直す。
やがて彼らは禁書の谷へ辿り着く。
記録を拒んだ者たちの集落と月の書庫、断章化された神殿と封印された名の系譜、六つの喉を持つ神々の囁き。
焚き火の対話の中で、記すことと響き合うことの境界線は揺らぎ、名になり損ねた存在との共鳴が旅路を照らす。
記録なき谷、呪いの獣、仮面の都市。断絶された神の名をめぐる巡礼の終わりに、彼女は問いかける――
「記すことは、祈りか、それとも赦しか」
これは、世界に“最後の神名”を刻むための、すべての声なき者たちの祈りの終章である。
……そして私は、その瞬間が来るのを見届けよう。




