19/61
まえがき
―記されぬ祈りの巡礼(上巻)―
祈りは、記録されることで形を得る。だが、すべてが記されるとは限らない。
名を預ける者たちと、記すことを拒まれた神々。
そのあわいに生まれる、“祈りの仮名”。
潮の街リュア=ヴァイスでは、名を潮に還す儀式が営まれ、仮名は消える前提の器とされる。
還名神殿で揺れる祈りの舟に触れ、セーレとフロウは名が失われることの意味を知る。
やがてふたりは記名都市ザルファトへと向かう。
そこでは記すことが契約であり資格であり、名が記されぬ神々は断罪されるかのように封じられていた。
記録官の筆の重さ、禁書の黒帳、記名の制度に埋もれた祈りの裂け目――書架の奥でフロウは自らの過去を見つめ直し、セーレは記録者としての自分を問い直す。
忘却と記憶の狭間で、祈りは再び揺らぎ始める。
これは、忘却をくぐり抜け、祈りの意味を問い直す巡礼譚の中継点である。
……そして私は、語られなかったものたちの記録に、ひととき光をあてる。




