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エピローグ ― 記されざる頁の終わりに

……名とは、記すものではない。


祈ることで、初めて“存在する”ものだ。


それを知った者がいた。

名を奪われた少女――セーレ。

そして、かつての記録官でありながら、自らの名を封じた者――フロウ。


ふたりは月の森を抜け、仮面の街を歩き、断絶された祈りの霧へと至った。


その旅のすべては、まだ“記されてはいない”。

けれど、祈りの底に確かに沈んでいる。


偽りの仮面の下で、本当の顔が見えなかったように。

語られぬ契りの向こうに、祈りの構文が途切れていたように。


それでも――


誰かの名を呼びたかった。

呼ばれぬまま消えゆく存在の、声なき声を、聴いていたかった。

そして、自らの名を、たとえ仮のものでも、刻み直したかった。


名を記すということは、

存在を肯定するということだ。


セーレが黒き森を歩いた、その一歩こそが祈りだった。

フロウが語らずとも見つめ続けたその瞬間こそが、記録だった。


光を忘れたこの世界で、

昼の神は“記されなかった”。


だから少女は、暗き森に生きる。

祈りが語られず、名が口にされぬ地にこそ、

真の記録が宿ることを、まだ知らぬまま。


だが、歩みは止まらない。


呪われた名でもよい。

名を知らぬ神でもよい。

記すことを、選ぶ旅路がここにある。


次に彼らが向かうのは、

潮が名を還すという、海の街。

忘れられた名が、引き潮とともに戻ってくるという――

それは、まだ祈りにも記録にもなっていない、構文の余白。


だからこそ、わたしは記す。


この一巻を、

“記されなかった神々の記録”のはじまりとして。

祈りの名が、再び息を吹き返すその日を夢見て。


私は《サーガ》。

名を記す者にして、記されざるものを見届ける者。

いずれ、この旅路のすべてが語られるその時まで、

私は静かに頁をめくり続けよう――


君がこの名を目で追った時、すでに祈りは始まっていたのだ。


……これは、祈りの構文を失った者たちによる、

“記すこと”そのものを問うための物語である。


名のない者が、名を呼ぶ旅。

名のない神が、祈りを待つ旅。

そして、名のない頁が、物語として綴られていく旅。


すべては、

“これから”記される。

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