11/61
まえがき
―名を奪われし祈り(下巻)―
仮面都市で祈りは名を失い、霧の海では名が潮に還る。
月の森を後にしたセーレとフロウは、声を隠す都へと足を踏み入れ、顔を覆う仮面の裏で記名を禁じられた人々の儀式に立ち会う。
記録なき祭祀の向こうには、契約と沈黙が結びついた信仰の歪みが潜んでいた。
仮面の巫女、名を預けた者たち、そして黒帳の裂け目から溢れる呼ばれなかった神々の影――そこを抜けたふたりは、霧の浮島ミル=エレノアで、潮に名を還す儀式に身を委ねる。
失われた名をゆりかごに乗せて海へ流すとき、名は器であり祈りの意志だと知る。
忘却の潮騒の中で、フロウはかつての名を思い出し、セーレは名を記す使命の重さを知る。
仮の名の舟は、祈りを運ぶ旅のはじまりとなる。




