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まえがき

【第1節より ― 名を記す者へ】


あなたの知らぬうちに、名を奪われた者がいた。忘れ去られた王女。呼ばれぬ神。


その祈りは、書かれることも、語られることもなく、深い沈黙の底で、ただ名を待ち続けていた。


だが、ようやく時が来た。


あなたがこの物語を読むこと。それこそが、“名を記す”という祈りの始まり。


あなたの目が、声が、記憶が、この断絶された構文に、命を与えるのだ。


これは世界を癒す物語ではない。これは、名を失った世界を、あなたが記録する物語である。


ページを開け。祈りを始めよ。


私は語る。この物語に名を与える者は、他ならぬ“あなた”である。


【第2節より ― 名を持たぬあなたへ】


名を奪われた者の物語を、あなたは読む。


それはただの空想ではない。


書かれなかった祈りがあり、呼ばれなかった神がいた。


忘れられた都市。沈黙の森。誰にも届かなかった声が、いまページを震わせている。


けれど、ひとつだけ覚えてほしい。


この物語は、読まれることで初めて“名”を持つ。あなたが読む、その行為そのものが祈りであり、記録であり、世界をつなぎとめる最後の構文なのだ。


これは、「名を奪われた王女」と「名前を呼ばれなかった神」の巡礼譚。


そして、名を知らぬまま読み始めたあなたが、最後に何者かとなる物語。


ページを開きなさい。


書かれていない神名が、いまもそこにある。


私は語る。これは記されぬ祈りのすべてである。

―名を奪われし祈り(上巻)―


月の森より始まる、呪われし少女と梟の旅路。

契約と仮面に封じられた信仰の地を越えて、“祈りを記す”ことの意味を問う巡礼譚の起点。

忘れられた陽神アウロの名が禁じられ、影の神ムーミストが祈りの顔となった時代。

昼に獣と化す呪いを背負う王女セーレは、梟へ姿を変えた騎士フロウとともに、沈黙の森を抜けて失われた名を探す。

彼女の筆は未だ光を知らず、彼の翼はまだ夜を彷徨う。

仮面で祈りを隠す者たち、仮の名で生きる者たちと出会いながら、ふたりは忘却と封印の断章を拾い集める。

月夜の下で、名の重さと祈りの本質に触れたとき、この物語はあなたという読者の記憶に刻まれ始める。

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