それから
数日後、騎士団の遠征隊が無事帰還し、私を聖女だと報告したため、王都は大騒ぎになった。
もちろんその頃には、私とエドヴィンは、正式に婚約済み。父と国王の署名がばっちり入った契約書が教会に提出されていて、その婚約に難癖をつけることは、王妃といえど出来ることではなかった。
「なぜこのような早計をされたのですか! 聖女を娶るのは王だと、決まっているのに」
非難する王妃に対し、国王は「オリヴェルのためだ」と説得する。
しかし王妃が聞くはずがなかった。
(あの人、短絡的だものね)
王と王妃の言い争いの場に、エドヴィンもいたそうだ。
「――――義母上、あまり無理を仰らないでください。私とエイミーは、彼女が聖女とわかる前から想いを育み合ってきたのです。……そのせいで、心ない仕打ちを受けたこともあるのですよ。その詳細を詳らかにしてもいいのですか?」
エドヴィンの言葉に、王妃は警戒感をあらわにした。
「……それは、どういう意味ですの?」
「エイミーは、誘拐されかけたことがあるのです。……まあ、優しい彼女は自分を襲ってきた犯人を回復魔法で助けたのですけれどね」
王妃の顔は、みるみる青ざめた……らしい。
口封じをしたと思っていた実行犯が、私に助けられ無事でいるとわかったからだ。
「エイミーに感謝した犯人は、いろいろ話してくれていますよ。まあ、犯罪者の言うことですから鵜呑みにするわけにはいきませんけどね」
「それはそうよ! 当然ですわ」
勢いよく同意する王妃。
「とはいえ、裏付けをとるのはそれほど難しいことではありません。――――今はエイミーと婚約し、今後彼女と行く邪竜討伐の計画等で忙しく、そこまで手は回りませんが――――もしも婚約自体がなくなったら、事件の真相解明に心血を注げるかもしれませんね。……今回の討伐で、危険薬物を投げこんだ犯人も拘束していますし、案外簡単かもしれませんよ?」
あからさまなエドヴィンの脅しに、王妃は冷や汗を流して口をつぐんだ。
その後、エドヴィンと私の婚約については、一切反対しなくなったという。
――――本当のところ、実行犯の自白だけで王妃の悪行を暴くのは、限りなく困難だ。
犯罪者と一国の王妃。知らぬ存ぜぬで言い張られてしまえば、どちらに分があるかは、言わずもがなだから。
王妃が犯罪者となってしまえば、国にも少なからぬダメージがある。
特に王妃の派閥は力があるため、下手に反感を煽って反乱でも起こされてしまったら、こちらも無傷ではいられない。
諸々考え合わせて、今回私たちは王妃を泳がせることにした。
多少釘を刺して、今後こちらへ手だし出来ないようにして、後は放置だ。もちろん監視はするけれど。
「これでよかったの?」
私の質問に、エドヴィンは迷うことなく頷いた。
「ああ。無理に破滅させようとすれば、自暴自棄になった王妃に、何をされるかわからないからね。それくらいなら、今のこの状況で放置する方が、よほど彼女には堪えるだろう?」
エドヴィンは、酷薄な笑みを浮かべる。
たしかに、いつ自分の悪事を暴かれるか戦々恐々として過ごす日々は、精神的にすごく辛そうだ。
いっときも心安まらず眠ることも出来なければ、私だったら狂ってしまうかも?
満足そうに口角を上げたエドヴィンを見て、私は彼を怒らせるのは、極力避けようと心に誓った。
「オリヴェルさまは、どうしていますか?」
私にあれほど執着していたオリヴェルだ。黙っているとは思えないんだけど?
私の質問を聞いたエドヴィンは、とてもいい笑顔を見せた。
そのまま私の前に立ち、肩に手を乗せ顔を寄せてくる。
「そんなことより、気にかけるのは邪竜討伐じゃないかな? マルクや他の者も巻きこんで、準備万端整えよう」
……あ、これは聞いちゃいけないことなのね。
私は、コクコクと頭を縦に振る。
――――私が聖女だということを公開したことで、邪竜討伐には国を挙げて協力してもらえることになった。
怪我の功名と言うべきか、瓢箪から駒と言うべきか、まあ、いい方に転んでよかったなと思う。
「ああいう面倒ごとは、さっさと片付けるに限るからね。エイミーのことだ、邪竜を倒さないうちは結婚しないとか言いだしそうだし」
それは当然だろう。
ていうか、そんなことを考えていたの?
なんだか顔が熱くなる。
「前世の記憶のせいで、君が恋愛や結婚に乗り気じゃないのはわかっている。だったら、私はより一層自分を信じてもらえるように努力する必要があるからね。邪竜になんていつまでもかまけていられないよ」
それはそうかもしれないけれど…………それでいいの?
邪竜討伐は大事のはずなのに、それより私の信頼を得る方が大切だなんて。
呆然としていれば、エドヴィンの顔がますます近づいた。
「エイミー、君を愛している」
耳元で囁かれる。
「わ、私は――――」
「大丈夫。言っただろう。君は君のままでいい。頑張るのは、私だ。とりあえずは、毎日愛を告げるから。十万回くらい囁けば、君は信じてくれるかな?」
一日一回としたら、十万回って何百年?
「…………その前に死んじゃうわよ」
「だったら、日に何回も、何十回でも愛を告げよう。覚悟はいいかな?」
それは、すごく大変そう。
「お手柔らかに」
「無理かな」
クスクス笑うエドヴィンを見ながら、私の心は既に彼を信じはじめていた。
これにて一旦完結となります。
邪竜討伐や攻略対象者たちとの関係、王妃へのさらなるザマァ等々、まだまだ書きたいことがたくさんありますので、来年以降またコツコツと書きためたいなと思っています。
ある程度形になったら、連載を再開する予定です。
……まだ、あくまで予定ですけど。
その際は、またお付き合いいただけましたら幸いです。
本年も私のお話をお読みくださったことに、心から感謝申し上げます。
皆さま、よいお年を!




