両親に愛されてます
「聖女だからなんだっていうの。エイミーちゃんは、私たちの大切な娘なのよ!」
「エイミーが犠牲になるくらいなら、みんな一緒に邪竜に滅ぼされる方がマシだ!」
母よ、父よ、あなたたちは強かった。
娘を危険な聖女なんかにさせないと憤る両親に、くすぐったくなる心を静めながら、私はなんとか納得してもらおうとする。
「大丈夫です、お父さま、お母さま。私は、聖女は聖女でも、ものすごく強い聖女なんです! 邪竜なんかに負けません。おそらく数年後に、邪竜を倒す旅に行くことになると思いますけど、危険なんてないんです」
もちろん嘘八百だ。普通に旅するだけだって危険満載なこの世界で、危険のない邪竜討伐なんてあり得ない。
「私も婚約者として全力でエイミーを守ります。邪竜討伐には、国を挙げて挑む予定ですから、騎士団の精鋭部隊も同行いたします。彼女に傷ひとつつけることなくご両親の下にお返しすると、我が名に誓ってお約束します」
エドヴィンも深々と頭を下げる。
いつもの両親なら、第一王子にそんな態度を取られた瞬間、狼狽え恐縮してしまうだろう。
しかし今日の両親は、王族にも怯まなかった。
「そんなこと、当然です」
「エイミーちゃんは、私たちの宝物ですもの! 可愛いドレスを着て、美味しいものを食べて、何ひとつ苦労することなく、毎日幸せに笑っていてほしいと、親ならみんなそう願っていますわ!」
両親の言葉には、共感できる。
私も前世で娘には、いつでも笑顔でいてほしいと思っていたから。
―――それなのに、あんなことになってしまって。
(きっと、あの子、泣いたわよね。……ごめんなさい)
あらためて、すべての元凶となった元夫への恨みが募った。
同時に、理不尽に命を奪われることへの拒否反応が起こる。
「お母さま、聖女として力を尽くせなかったら、私はきっと幸せにはなれませんわ」
「エイミーちゃん……」
「今後、多くの人々を不幸にする邪竜が現れて、力を振るいます。怪我をする人、居場所を奪われる人、命を喪う人たちが、大勢でてしまうでしょう。親を亡くす子も、子を亡くす親も。……きっとみんな泣いてしまいます。私が聖女として邪竜を倒せれば、泣かなくて済む人もいるはずなのに。……そうですよね、お父さま?」
「エイミー」
私は、両親の顔をしっかり見つめる。
優しくて愛情深い、自慢の両親だ。
「お約束します。絶対無事に帰ってきます。だから、私を聖女として認めて、いつか旅立つときは笑って見送ってください。……私が、これからの人生をずっと笑顔で悔いなく生きていくために!」
私の言葉に、両親は滂沱の涙を流した。
「エイミー、なんていい子なんだ!」
「エイミーちゃんは、天使だわ」
私の思いを認め、誇らしく思う気持ちと同時に、娘をそんな危険な目に遭わせたくないという親心。
相反する思いでぐちゃぐちゃになりながらも、最後に両親は私が聖女として頑張ることを認めてくれた。
「でも、絶対無理はしないでね!」
「いやになったら、すぐにやめていいんだぞ」
非常に渋々ではあったけど。
……でも、そこからも大変だった。
「エイミーは、まだ子どもです。婚約者なんて必要ありません!」
「我が家は男爵家です。王家に嫁ぐなど分不相応。一昨日いらしていただけますか?」
エドヴィンとの婚約を、父母はけんもほろろに断ったのだ。
丁寧に言っているけれど、王族相手に「一昨日来い」は、不敬罪よ?
うちの両親、怖いもの知らずにもほどがあるんじゃないかしら?
そんな最強両親相手に、エドヴィンも負けずに粘った。
「私は、エイミーを心から愛しているんです!」
小っ恥ずかしい言葉による動揺を、なんとか堪えて、耐えて耐えて耐えまくる。
私の苦境は、なおも続いた。
「エイミーの素晴らしさは、言い尽くせません。私はいつまでだって延々と語れる自信がありますから!」
「なんと小癪な! 娘の素晴らしさを一番わかっているのは、父であるこの私だ。その勝負受けて立とう!」
…………なんで途中から、エドヴィンと父の、どっちがより私を可愛いと思っているかの言い合いになっちゃったのかな?
ひょっとして、私に何か恨みでもあるの?
いつ終わるともしれない褒め殺し合戦は、次第に私からの好意を誇る自慢合戦にシフトチェンジした。
「私は、エイミーから毎年誕生日プレゼントをもらえるのですぞ。しかも『パパ大好き!』と言って抱きついてくれるのです!」
父が胸を張れば、エドヴィンも負けじと言い返す。
「私は、誕生日プレゼントはもらったことがありませんが、先日家紋を刺繍したハンカチをもらいました。しかも、私の名前入りです!」
「な、何っ!」
父は、ガ~ンとショックを受けたようによろめいた。
ハンカチひとつに、なんでそんなにダメージを受けるかな?
よくわからないけれど、それが勝負の決め手になったみたい。
「……う、うむ。なかなかやりますな」
父が無念さを滲ませながらも、エドヴィンを褒める。
「お父さまも流石です。私もまだ知らなかったエイミーの良いところをたくさん聞かせてもらえて、今日は幸せでした」
いや、お父さまのは親の欲目だからね。本気にしちゃダメよ。
そう思うのに、なぜかエドヴィンと両親は打ち解けてしまう。
「――――君なら、エイミーを任せてもいいのかもしれないな」
ついに父はそんなことを言いだして、婚約は無事に認めてもらえることになった。
結果オーライなんだけど、いたたまれないのは私だけ?
「…………なんだかいろいろすみません」
その後、国王と父のサインの入った婚約証書を、急ぎ国と教会に提出することになったエドヴィンを見送りながら、私は頭を下げる。
気を利かせてくれたのか、周囲には誰もいず、ふたりっきりだ。
「謝ることはないよ。君の両親の方が、親の反応として正しいのだと思うから。……少なくとも私はうらやましかったな」
国王と比べているのだろう。エドヴィンの碧い目には暗い陰りが見える。
あんな毒親のために悲しむことなんて、ないのに。
「では、喜んでください。私たちが結婚すれば、うちの両親はエドヴィンさまの両親になりますから!」
私の言葉を聞いたエドヴィンは、目をパチパチとさせる。
「私の両親に?」
「ええ、そうですとも。うちの両親は愛情過多の親馬鹿ですからね。婿だって思いっきり可愛がるはずです。……覚悟しておいてくださいね」
エドヴィンは、嬉しそうに笑った。
顔をくしゃりと歪ませて、目に涙をためる。
「そうか。嬉しいな」
本当に嬉しそうに笑うから…………私は、そっと彼を抱き締めたのだった。
本日もう一話更新予定です。
それで、このお話は一旦完結となります。




