決断しました
あの後、私は遠征隊の全員から感謝された。
まあ、それはいいのだけれど――――。
「聖女さま」
そう言って、跪くのは止めてほしい。
「聖女は、止めてください!」
「では、女神さまで」
「なおさらダメです!」
全力で拒否って、拒否って、拒否って、なんとか今までどおり接してもらえるようにお願いして、ごり押しした。
その後、騎士団が戦闘の後処理をしている間に、私はエドヴィンとマルクと話し合う。
開口一番――――。
「お願いだよ、エイミー。私と婚約してほしい。婚約者であれば、私は君を堂々と庇えるからね。誰にも不当な扱いはさせないと誓うよ」
エドヴィンは真剣な顔でそう言ってきた。
「でも……」
「迷っている時間はないよ。これだけ多くの騎士が君が聖女だと認識したんだ。騎士は国に忠誠を誓っている。どんなに口止めしたって、必ず誰かが君の正体を国に報告する。今すぐにでも私たちは行動を起こすべきなんだ。父は……国王は、国と聖女のたしかな絆をなにより欲するだろうから」
たしかにエドヴィンの言うとおりだ。だからこそ乙女ゲームの攻略対象者は、王太子をはじめ国の重鎮たちの令息で固められていたのだろう。
エドヴィンは、なおも言葉を尽くす。
「私が君と婚約すれば、父はとりあえずそれで満足するはずだ。もちろん王妃は、絶対に反対する。だから彼女に知られる前に、婚約する必要があるんだ」
既成事実として、エドヴィンと私の婚約が先にあれば、それを覆してまで、王妃が自分の息子を私に宛がうのは難しいはず。
チャンスは王妃が私を聖女だと知る前の今だけなのだ。
「頼む。私に君を守る資格をくれ。君はただ頷いてくれればそれでいい。……私は、どうしようもなく君を愛している。どんな理由からであれ、君と婚約出来るのは、私にとって幸運でしかないんだ。君は不服かもしれないけれど……私のためにも、どうか婚約してほしい!」
そんなに熱い目で見ないで。
「そんな……それじゃ、あなたは私に利用されるだけじゃないですか!」
「ああ、そうだね。思いっきり利用してくれたら嬉しいな」
エドヴィンは、うっとりと笑う。
「そんな顔しないで! もっと怒ってください」
「無理だよ。幸せだから」
「エドヴィンさま!」
もうっ、もうっ、もうっ!
「ありがとう、エイミー。君を絶対に幸せにするからね」
まだ婚約を受けると言ってもいないのに、エドヴィンはまるでプロポーズみたいな言葉を告げてきた。
胸がキュウッと締めつけられて、どうしていいかわからない。
そこに、マルクが話しかけてきた。
「エイミー。俺からも頼む。どうかエドヴィンと婚約してやってくれ」
「マルクさま?」
「お前は、この策でなければ国を出ようと思っているだろう?」
たしかにエドヴィンと婚約する以外に、私がゲームのヒロインにならずに済む方法はないように思う。その場合、国外に脱出することは、ヒロインの道から外れるための有力な手段だ。
私が頷く前に、マルクは言葉を続けた。
「お前が国を出たら、間違いなくエドヴィンも後を追っていく」
「え?」
何を馬鹿なと思うのに、エドヴィンは大きく首を縦に振る。
「そうだね。エイミーがいないこの国に、私がいる理由はないからね」
そんなわけないでしょう!
「あなたは、第一王子なのよ」
「存在を消されようとしているね」
それは、王妃の企みだもの。他の人は、そんなことないはずよ。
…………ああ、でも、王妃を止められていない時点で、エドヴィンの言うこともあながち間違いだとは言い切れないのかしら?
もしも国王が、きちんと彼を見ていてくれるのなら、王妃ひとりくらい戒められるはずだもの。
なんとも言えない気持ちになっていれば、マルクが自分の気持ちを伝えてくる。
「俺も、こいつ同様、この国への思いは持ってない。でも、父に疎まれた俺を育ててくれたのは、騎士団の連中なんだ。国を出て、万が一にもこの国の騎士団と敵対する関係には……できれば、なりたくない」
だからマルクは、私と一緒に出奔出来ないと言いたいのだろう。
でも、そもそも私は、あなたたちに着いてきてほしいなんて言っていないのよ?
私は、ひとりで国を出るつもりだったんだから。
そう言おうと思うのに、マルクは私に話させてくれなかった。
「でも、俺はエドヴィンとも、エイミー、君とも離れたくはない。他になんの手段もないのなら、俺も諦めてこの国を捨てる。……でも、そうしなくてもいい道があるのなら、頼むからそっちを選んでくれないか。その結果、もしも君が意に沿わぬことをさせられそうになったのなら、その時は、俺の全力で君を助けて国から逃げだしてみせるから!」
真剣な表情で、マルクは私に頼みこんでくる。
えっと……結局、私が国を出ると決めたなら、あなたも国を捨てるつもりでいるのね?
エドヴィンとの違いは、喜んでついてくるか、いやいやついてくるかってことだけ?
黙って見送るって選択肢は、やっぱりないの。
――――いったいぜんたい、どうしてこうなったのだろう?
ともあれこのふたりは、どうにも私をひとりで行かせてくれないみたい。
彼らの目の中に強い決意を見て……私は、国を出るのを諦めた。
両親やビクトリアのこともあるし、師匠だって私が黙って逃げだしたと知ったなら、青筋立てて追ってきそうなんだもの。
「わかったわ。……エドヴィンと婚約します」
私は、苦渋の決断をした。
「ただ、その前に私の話を聞いてください」
私は、たとえ自分の都合で行う偽装婚約でも、一度婚約したのなら生涯その相手と添い遂げたいと思うし、誠実でありたいとも思う。
(隠し事とか、したくない)
もちろん馬鹿正直に一から百まですべてを話すつもりはない。言う必要がないことも、言ってはならないことも、世の中にはたくさんあるからだ。
(浮気したことを黙っていて『君を傷つけたくなかった』とかぬかした元夫には、腹しか立たなかったけど)
そういったことも含めた私の前世の話は、伝えておかなければいけないと思うから。
「私には、前世の記憶があるんです―――――」
覚悟を決めて、私は話しだした。




