絶対に勝つ!
「エイミー! 君は安全な場所にいた方が――――」
駆け寄ってくる私に気づいたエドヴィンが、声をかけてくる。
「お断りよ!」
私は守られてばかりの聖女じゃないもの!
(自力で邪竜を倒すことを目指しているのに、あんなフェンリルごときを恐れて後ろにいるなんて、出来ないわ!)
それに、戦場のただ中にいる方が出来ることもがある。
私は、目の前の魔獣を切り伏せながら、見える範囲すべてに結界を張った。
これで、このフィールド全体に、私の聖魔法を行き渡らせられるのだ。
(聖なる力は、人にとっては祝福に。魔獣にとっては呪詛になるのよね)
たしかゲームではそうだった。聖女の祝福で、攻略対象者は常にHPを少しずつ回復させ、魔獣は減らしていたのだから。
(どうかみんなが勝てますように。誰も死なずにいられますように)
私は聖力を祈りに乗せて、剣を振るう。
いつの間にか、私の右隣にはエドヴィンがいて、左隣にはマルクが戦っていた。
私を守るように魔獣を屠るふたりの姿が、頼もしい。
そうして、何十体めかの魔獣を倒したとき、再びフェンリルの咆哮が響き渡った。
(何か、さっきとは違うような?)
首をひねった次の瞬間。
「危ない!」
「エイミー!」
マルクが私の前に飛びだし、エドヴィンが自分の腕の中に囲った。
そんな私たちの目の前に、巨大なフェンリルが降ってくる。
スドォ~ン! と大きな音がすると同時に地面がグラグラと揺れた。
岩と土が風に巻き上げられ視界が奪われる。
しかし、直ぐに炎が舞い上がり、すべてを焼き尽くした。
エドヴィンが魔法で吹き払ったのだ。
その炎が消えた後に、たたずむのは巨大なフェンリル。裂けた口からは鋭い牙がのぞき、金色にらんらんと輝く魔物の目が、こちらを睥睨している。
対岸の崖の上にいたフェンリルが、突如こちらに現れたことに、騎士たちは騒然とした。慌てて駆けつけようとするのだが、それを他の魔獣が阻む。
組織だった動きは、このフェンリルが指示しているのだろう。
「うぉぉぉぉっ!」
かけ声とともに、マルクが氷の剣で切りかかった!
その剣を、フェンリルは避けもしない。
ガキン! と音がして、マルクは剣ごと弾き返された。
すかさず今度はエドヴィンが、炎の剣をフェンリルの額めがけ突き刺そうとする。
しかし、結果は同じ。マルク同様跳ね飛ばされてしまう。
(…………強い)
さすが騎士団を壊滅状態に追いこむ魔獣といったところか。
(でも……負けないんだから!)
私は、全力の弱体化魔法をフェンリルにかけた。
直後、目の前の敵めがけ走りだす。
「絶対に、絶対に、勝つ!」
覚悟を声にしながら、剣を振るった。
聖力を纏わせた私の剣は、フェンリルの銀毛を切り裂き前足に突き刺さる!
「グォォッ!」
とはいえ、それは一瞬。直ぐに足を振ったフェンリルに突き飛ばされて、私は宙を舞った。
「エイミー!」
岩に叩きつけられるかと思ったところを、エドヴィンに受け止められる。
「大丈夫か?」
「ええ。見たでしょう? あのフェンリルは無敵じゃない! 剣が通るのよ」
私の言葉に、エドヴィンは強く頷いた。
「ああ。ハッキリ見たよ。私たちは、あいつを倒せるんだ!」
その言葉が聞きたかったのよ。
「この武器を使って」
私はその場でアイテムボックスから、聖属性の武器を取りだした。剣だったり槍だったり、父の伝手を使って買い集めた武器には、すべて聖力を満タンになるまで注ぎこんである。
「…………用意がいいな」
「よすぎるような気もするが」
「お説教は、勝ってから聞くわ!」
そう言えば、エドヴィンもマルクも苦笑した。
「よし、行くぞ!」
「ここまで舞台を用意されて、負けるわけにはいかないからな」
フェンリルとふたりが、睨み合う。
剣を選んだエドヴィンが正面からフェンリルに切りかかり、槍を選んだマルクがフェンリルの背中に飛び乗った。
もちろん、私も傍観しているわけじゃない。エドヴィンやマルクが少しでも負傷すれば、回復魔法をかけ、その合間にフェンリルに弱体化魔法をかける。
「危ない!」
危険と見れば瞬時に結界を張り、ふたりを守った。
騎士団幼年学校に入学以来、連係プレーを訓練してきた私たち三人の息はピッタリで、フェンリルの体力を少しずつでも確実に削っていく。
「悪い。遅くなった」
「よく頑張ったな!」
「俺たちも戦うぞ!」
時間が経つに連れ、魔獣を倒した騎士たちも加勢に来てくれた。弓を射り、魔法を放ち、エドヴィンとマルクを援護する。
こうなれば後は時間の問題だ。
一致団結した私たちは、見えてきた勝利に向かい突き進む。
フェンリルが、大きく体勢を崩した。
(やった! もう少しだわ)
心の中で快哉を叫ぶけど、その隙を突くように異物が入りこむ。
それは、小さな小瓶だった。
私たちの後方。森の中から弧を描き飛来した小瓶が、パリンと乾いた音を立てて、フェンリルの前で割れる。
地面に飛び散った液体から紫色の煙が上った次の瞬間。
「グォォォォッッ!!」
咆哮を上げたフェンリルが、滅茶苦茶に暴れはじめた。




