本隊を追いかけます
見上げれば、茂った枝葉の真ん中に青空が覗いていて、スポットライトみたいな光が差しこんでいる。
そこに何人もの騎士が倒れていた。
奥の方には頭と尾をもがれたコカトリスの大きな死体があって、流れた血から毒々しい霧が立ち上っている。
(浄化!)
直ぐに解毒した。同時に広範囲の回復魔法をかける。
(軽く、軽くね)
一度に全員全回復したら、さすがに言い訳出来ないもの。
「大丈夫か! 毒消しポーションを持ってきたぞ!」
「石化がある方は、こちらです!」
私の声が聞こえたのだろう、あちらこちらからうめき声が上がる。
そのうちのひとりの元へ急いで駆けつければ、彼の両足の先は石と化していた。毒も吸ってしまったのだろう、顔色が悪く意識も朦朧としているみたい。
「状態異常解除ポーションです。飲めますか?」
大声で聞きながら回復魔法をかける。
おかげで少し意識がはっきりしたようで、騎士は私の目を見て小さく頷いた。
ポーションを渡せば、しっかり受け取り飲みはじめる。
これでこの人は大丈夫だ。
「他に、状態異常解除ポーションが必要な方はいますか?」
私はそれから六人の石化を解除した。もちろん回復魔法付き。
毒消しポーションも行き渡ったようで、全員ゆっくりとではあるものの体を起こし、腕や足を動かしはじめる。
「なんとか間に合ったようですね」
「ああ。助かった。君が状態異常解除ポーションを持ってきてくれたおかげだ」
一緒に来た騎士が、礼を言ってくれた。
「たいしたことはしていませんから。……それでは私は戻りますね」
「ああ。送ろう」
「いいえ、道はわかりますし、ひとりで大丈夫ですよ。……皆さんは、本隊を追うのでしょう?」
聞けば大きく頷かれる。
「ああ。幸い、みんなまだ戦えそうだからな。少し休んで本隊に合流しようと思う。……でも、本当にひとりで平気なのか?」
心配そうな騎士に、私は「はい」と元気に答える。
「それではもう行きますね。皆さんもお気をつけて!」
そう言うと、挨拶もそこそこにその場を離れた。
「気をつけてなぁ!」
聞こえてきた声に、大きく手を振り返す。
それからしばらく来た道を引き返し……途中で立ち止まった。
「ここまで来れば、いいかしら?」
周囲をクルリと見回す。
当然このまま帰るつもりは、なかった。
(行かなきゃ! このままじゃゲームと同じになっちゃう)
いや、今までの努力がまるっきり無駄だったとは思わない。
私がこのまま補給基地に戻っても、きっと騎士団は壊滅的な被害はださないだろう。
たとえ規格外のフェンリルが現れたとしても、死者は八割もいかないはずだ。
(でも、ゼロだとも思えないわ)
現に、私の回復魔法がなければ、コカトリスと戦った何人かは確実に死んでいた。
フェンリルとの戦いだって、同じなはずだ。
(そして、その死者の中に、エドヴィンとマルクも入ってしまうかもしれない)
――――彼らが死ぬのは、いやだ。
もちろん、彼ら以外ならいいというわけではないけれど……でも、やっぱりふたりには絶対死んでほしくないと思う。
(私の聖魔法なら、きっとみんなを助けられるわ!)
胸の前で、ギュッと拳を握った私は、遠征隊の本隊を追いかけはじめた。
コカトリスと戦った部隊とは違うルートを、急いで進む。
しばらく走っていれば――――。
『――――エイミー! 君は、どこに行くつもりなんだ?』
ピアスから、エドヴィンの声が聞こえてきた。
ああ、やっぱり。絶対連絡がくると思っていたわ。
「エドヴィンさまったら、また勝手に私の居場所を探っているんですね」
私は、呆れたようにそう返す。
『君が大人しくしていないからだ』
その読みは、正しい。
「でも、ちょうどよかったです。そっちに合流したいので、道案内をお願いします」
本隊のだいたいの位置はわかるけど、確実なところはわからない。
でも、エドヴィンからもらった指輪とピアスがあれば、彼から導いてもらうことが可能だ。
(要はルート案内ナビってことで)
私はそっと指輪を撫でた。
『バカを言うな! 君は、さっさと補給基地に戻るんだ』
まあ、このナビは、なかなか言うことを聞いてくれないんだけれど。
「私がいなければ、今回の討伐は失敗しますよ」
『何をっ――――』
「今、負傷者はどれくらいですか?」
私の質問を聞いたエドヴィンは、黙りこむ。
「質問を変えましょうか? 支障なく魔獣に立ち向かえる騎士は、どれくらい残っていますか? まだ、死者は出ていませんよね?」
『当たり前だ! 誰も死んではいない…………まだ』
やはり戦況は悪いらしい。
「私が、そちらに行かなければ、間違いなく死者が出ますよ」
『そんなことは――――』
「ありますよ。そろそろポーションだって底をつくはずです。私の回復魔法が必要なんでしょう?」
ピアスは静かだ。認めたくないってことかな?
「回復魔法だけじゃありません。私が行けば、強化魔法も弱体化魔法もかけられるんですよ」
もちろん、弱体化魔法をかけるのは魔獣の方だけど。
『……しかし、そんなことをすれば、君が聖女だとバレるかもしれない』
そうね。そうなる可能性が高いわよね。
でも、うまくやれる可能性だって、ないわけじゃないわ。
なにより――――。
「誰か死ぬよりマシなはずです」
――――あなたが死ぬより、ずっといい。
『それは……そうだが…………君は、それでいいのか?』
「私をバカにしていますか? 人の命より、自分の身バレを優先するような人間だとでも?」
『いや! そんなことはない! でも……』
「でもなんです? 必要なことは、わかっているでしょう? いいからさっさと案内しなさい!」
それでもピアスは静かだった。
本当、強情っ張りなんだから。
どう説得しようかと思っていれば、小さな声が聞こえてきた。
『君が聖女だとわかったら、オリヴェルの妃にさせられてしまうかもしれない』
聞いた瞬間、鳥肌が立った。
婚約を飛び越えて、いきなり結婚?
冗談じゃないわ!
「お断りです!」
『でも、強要されたら断れないだろう?』
「そんなことになったら、国を捨てます!」
『国を…………』
エドヴィンは、驚いたようだった。
でも、私にしてみたら当然のことだ。
オリヴェルと結婚なんて、絶対考えられないんだから!
それくらいなら、迷うことなく家出する。
そのまま邪竜討伐を目指して、武者修行の旅に出るのもいいかもしれないわ。
十三歳という年齢や、家族のこと、お金の問題等々、いろいろ考えることはあるけれど、私にだって譲れないものがあるのだもの。
そのためなら、どんなハードルも乗り越えてみせるわ!
心新たに決意を固めていれば、耳にエドヴィンの声が響いた。
『そうか、国を。…………そうか』
どこか力の抜けたような声で『そうか』と繰り返す。
すると――――。
『そうか、じゃない! いいから早くエイミーを呼び寄せろ!』
突如、ピアスから大声が響いた。




