ゆっくり悩んでいられない!
エドヴィンから告白され、もやもやとした感情を抱えてしまった私だが、そんなことを引き摺っていられないのが現状だ。
「――――毒消しポーションはあるか?」
泥に塗れた騎士が、大声をあげ入ってくる。
ここは、本格的に魔獣討伐を開始した遠征部隊の補給地点だ。
私は、ここでビクトリアと一緒に物資の管理を手伝っている。
「毒消し? いや、それは――――」
「あります!」
無いと答えようとした補給部隊員を遮り、私は叫んだ。
「本当か?」
「はい。マリラタさんが持ってきました」
「は?」
急に名前をだされたビクトリアが、キョトンとする。
(もうっ! トリアったら、そこは合わせてくれなくちゃ)
ジロリと睨めば、ビクトリアは慌てたように「そうね。そうだったかもしれないわ」と言った。
「直ぐにくれ! コカトリスが出たんだ!」
「コカトリスが?」
コカトリスとは、雄鶏の頭とヘビの尾を持つ魔獣だ。口から毒の息を吐き、近くの水場まで汚染してしまうという迷惑もの。
「なんでコカトリスが、ここに? あれは、平原にしか現れない魔獣だろう?」
ここは北部の森林地帯だ。コカトリスの生息域からはかなり離れている。
これも邪竜復活の影響なのだろうか?
(ううん。今はそんなことを考えている場合じゃないわね)
「毒消しポーション、二十本で足りますか?」
私は急いで用意したポーション入りの箱を差しだした。
「ああ、十分だ」
駆けこんできた騎士は、ホッとしたように笑う。
よく見れば、彼の顔色もすごく悪かった。額に汗をかいているし、彼自身軽い中毒症状になっているみたい。
私は、こっそり回復魔法をかけた。もちろん解毒も忘れない。
「コカトリスなら石化のおそれもありますよね。状態異常解除ポーションも必要なのではないですか?」
私は毒消しポーションの入った箱よりひと回り小さな箱を指し示した。
「あるのか?」
「はい! マリラタさんが持ってきてくれましたから」
私の言葉を聞いたビクトリアは、複雑そうな顔で頷く。
「ありがたいが――――」
自分の持つ毒消しポーション入りの箱を見た騎士は、言葉をとぎらせる。
毒消しポーションは、普通のポーションより大きく重いのだ。彼の両手は、その箱で塞がっている。足場の悪い森の中、二十本も入った箱を持てば、それ以上は持って行けないと思っているに違いない。
(この人は収納魔法を取得しなかったのかしら? それともあまり大きくなかったりして)
もっとたくさん運べる人を寄越せと言いたいが、素早く動けるのが彼だけだったのかもしれない。
(つまり、戦況がとても悪いってことよね)
「……私が、状態異常解除ポーションを運びます!」
少し考えた私は、運搬役を名乗り出た。私は収納魔法が使えないことになっているけれど、手で運べばいいだけだもの。
「ダメよ、そんなの危険よ!」
大きな声で叫んだのはビクトリアだった。
私は彼女と目を合わす。
「大丈夫よ。そんなに危ない場所には近づかないから。……コカトリスは、もう退治したんですよね?」
後半の部分は、毒消しポーションを取りに来た騎士に視線を移し、確認する。
「あ、ああ。首を切り落として絶命させたから、遠征の本隊はもう前に進んでいる。俺は、毒で動けなくなった仲間のためにポーションを取りに戻ってきたんだ」
そうだと思った。
「ほら、その場所までなら行って帰って来るのは心配ないわ。そこまでの魔獣討伐は終わっているんだから」
遠征討伐隊が通った直後の森ほど安全な場所はないそうだ。向かってくる魔獣は悉く討伐され、そうでない魔獣はみんな逃げてしまうから。
「それより、そんな状況なら急がなきゃいけませんよね。さあ、行きましょう!」
私は騎士を促した。一刻を争う事態のはずだもの。
「待って、エイミー! だったら私も行くわ!」
「ダメよ、トリア。あなたはここで待機して、補給の要請にいつでも応えられるようにしておかなくちゃ」
「でも!」
「危ないことは、絶対しないわ。無事に帰ってくるって約束する。だから、いい子で待っていてね」
私の言葉に、ビクトリアはプーッと頬を膨らませる。
「何それ。子どもに言い聞かせるみたいに」
いけない。思わず前世の娘に対するようにしちゃったわ。
「ごめん」
「絶対に怪我しないでよ!」
「わかってる」
私は、ビクトリアと約束して、騎士と共に走りだした。
ついでに、自分と騎士の両方へ強化魔法をこっそりかける。
(急がなきゃいけないもの)
おかげで、ビュンビュンと森を駆け抜けた。
騎士も普段なら、何かおかしいと思うのだろうけれど、今は焦っているのか、自分の異常なスピードに気づかない。
そうして辿り着いたのは、高い木々の間にポッカリ開いた空き地だった。




