いいの、その噂?
きっかけは、私が傷ついた騎士たちに、直接回復魔法を使いはじめたことだと思う。
聖女とバレないように使うから大丈夫だと言うのに、エドヴィンは過剰に心配した。
「彼らは騎士だ。この程度の傷などなんともない」
「そうかもしれないけれど、戦力は少しでも多い方がいいでしょう」
これから私たちは、いまだかつてないほどの手強い敵と死力を尽くして戦わなければならないのだ。負傷の程度が軽ければ軽いほど、彼らは戦力となる。
「騎士団の遠征に多少の負傷者が出るのは、想定の範囲内なんだよ。重傷者がゼロだったことなど、ほとんどない。今回の魔獣討伐だって、私たちのような学生が参加出来るような危険度の低い討伐だと言われているけれど、ある程度の負傷者は見こまれているんだ」
「だから、重傷になってもかまわないと?」
「そうは言わないが……君が聖女だとバレる危険を冒す必要はないだろう」
残念。必要があるからやっているのだ。
そう言えないのが残念だけど。
「危険なんて冒しません」
「しかし――――」
「くどいです!」
ピシリと私が言えば、エドヴィンは黙った。
しかし、その後も私が少しでも長く負傷者と接していれば、介入してくるようになったのだ。
「――――このままじゃ、おかしな噂が広がるばかりです」
私は、大きなためいきをつく。
「おかしな噂?」
「ああ。あの『エドヴィンが幼年学校の少女を熱愛している』ってやつか?」
マルクは、知っていたみたい。
「熱愛?」
「あれだけかまっていれば、噂にならない方がおかしいさ」
マルクの言うとおりである。
反対に、あれだけ私に纏わりついていて、何も言われないと思っていたのだろうか?
「ともかく、そういうことですから、今後は私にあまり近づかないでください。エドヴィンさまだって、十三歳の少女に欲情するような変態だと思われたくないでしょう?」
「変態!?」
さすがにエドヴィンもショックを受けたようだ。
慌ててマルクが打ち消してくる。
「いや。そんな噂はないぞ! たしかにエイミーは十三歳だけど、しっかりしているし、一見清純な美少女で、中身の性格を知らない奴らの中には、神聖視している者もいるくらいだからな。欲情とかそんな対象にはなりようがないし……エドヴィン自身この容貌だ。王子さまと可憐な少女の純愛っていうのが、大方の見方だぞ」
それはそれで、どうなの?
「王子さまと純愛ですか? ……私は、男爵令嬢で幼年学校の一年生なんですよ」
「だからこそだよ!」
力一杯主張された。
――――そう言われれば、そうなのかもしれない。
私は十三歳だが、エドヴィンも十七歳だ。
(日本なら中学一年生と高校一年生よね。……そう考えればありなのかも? 四歳差くらいのカップルなら、微笑ましく見るのが普通の感覚、なの?)
考えこんでいれば、小さな声が聞こえてきた。
「そうか……それもいいかもしれないな」
「え?」
変なことを言いだしたのは、エドヴィンだ。
「何がいいんだ?」
問いかけたのは、マルク。
「その噂だ。そんな噂があるのなら、私がエイミーにくっついていても不思議じゃないだろう?」
エドヴィンは、真面目な顔で答えた。
(ええっ! あの噂を肯定するの?)
私は、びっくり仰天する。
「……えっと、私は偽装婚約とかそういうのは嫌いだって言いましたよね?」
当然、偽装恋人もお断りだ。
「婚約じゃない。私が一方的に君を好きだという噂だ」
エドヴィンは、あっけらかんとそう言った。
「そんな不名誉な噂を、都合がいいからと受け入れるんですか?」
十三歳の少女を熱愛しているとか、いやではないのだろうか?
「不名誉とは思わない。…………半ば、本当のことだし」
「え……」
エドヴィンの答えを聞いた私は、絶句した。
「エイミー、たぶん私は、君を愛している」
……いや、その、たぶんって。
「少し前から自覚していたんだ。君が気になって仕方ないし、君を見ると胸がドキドキするからね。……君の側に他の男が近寄ると腹が立つし」
淡々と説明されて、私は面食らう。
たしかにそれは、好きな人への感情かもしれないけれど。
「とくに、オリヴェルには殺意が湧いたな。アレは、今まで気にかけないようにしていたんだが、今回ばかりは抹消してもいいかと思えたんだ」
オリヴェルは、まあ仕方ないかとも思う。
言い寄られた私だって、殴り飛ばしたいと思ったもの。
「自覚があって、他の者、しかも不特定多数からもそう見えるのなら、間違いないだろう?」
それを私に聞かないでほしい。
前世で夫に浮気された私には、愛や恋はまだ信じられそうにないんだから。
「私は――――」
「君は、何もすることはないよ」
「え?」
「私が一方的に君に想いを寄せているんだ。君はそのままでいい」
それでは、エドヴィンが私に片想いしていることになってしまう。
第一王子なのに男爵令嬢に片想いなんて……それでいいの?
「ということで、私はこれからも君が他の男に近づきすぎたら、嫉妬して間に入るから」
エドヴィンは、晴れやかに笑った。
その笑顔には、不満も不平もなんにもなくて、彼が本気でこの状況に満足していることがよくわかる。
「……本当に私が好きってこと?」
「信じようと努力しないでいいよ。きっとわかるから」
真っ直ぐ微笑みかけられて……言葉に詰まる。
結局私は何も言えなかった。




