絶対わかりあえません!
残酷なシーン(血とか肉片とか)があります。
苦手な方は、読み飛ばしてください。
エイミーは、無事に救出されます。
(うそ! 声だけでも間違いなく四人はいたわよね。他の人はどこにいったの?)
もうマルクに倒されてしまったのだろうか?
しかし、見える範囲に倒れている人はいない。
三人の敵とエドヴィンとマルクのふたりが、入り乱れて戦っている。
(まさか? どこかに隠れているの!)
慌てて周囲を探る。感覚を研ぎ澄ませ、異物を探した。
どうやらここは北の墓地のようで、少し離れたところに石の墓碑が並んでいる。
(…………いたわ!)
その墓碑の影に男がひとり隠れていた。
エドヴィンたちにジッと視線を注いでいるようだ。
彼の足下では、落ち葉がグルグルと渦巻いていた。
(あれって……風魔法の前兆じゃないの? ひょっとして、あいつが風属性の魔法使いなのかしら? …………あ、まさか、風の攻撃魔法を放とうとしているとか?)
風の攻撃魔法は、狙った獲物をズタズタに切り裂く鎌鼬が有名だ。真空の刃に切れないモノはなく、その殺傷能力は炎系の最上位魔法にも引けを取らないくらいなのだとか。
ただ鎌鼬は広範囲魔法で、敵味方が入り乱れるような場合は使えないのが欠点だった。
だから、今この場では、使えるはずがないのだが……。
視界の先で風魔法の使い手が、残忍な笑みを浮かべた。
「っ! 危ない! 逃げて!!」
咄嗟に叫んだのは、ただの勘。
でも、この勘は外れないと確信する!
私の声を聞いたエドヴィンとマルクは、すぐに戦線を離脱した。
直後、見えない風の刃が、たった今ふたりがいた場所を蹂躙する。
そこには、魔法使い以外の誘拐犯がまだ残っていたのに。
「うわぁぁっ!」
「ぎゃぁぁぁっ!」
「グァッ!!」
誘拐犯たちの体は、見る見る血塗れになった。
頸動脈でも切られたのか、ひとりが派手な血しぶきを上げて倒れ伏す。
その血が渦を巻き、ドス黒い旋風が吹き荒れた。
ビシャッ! バシャッ! と音がして、私の立つ地面にも赤黒い液体が飛んでくる。
その中に、潰れた肉片が混じっているのが見えて…………たまらず私は、その場に蹲った。
こみ上げる吐き気を必死で堪える。
(……なんで、敵味方なく攻撃するの?)
あまりに非情な行いに、呆然とした。
断末魔の叫びが大きく響き、徐々に小さくなっていく。
(…………無理、吐くわ)
限界が近づいたその時、体がふわりと包まれた。
「エイミー、大丈夫か?」
心配そうな声は、エドヴィンのもの。大きく暖かな腕が私を支える。
ホッと安心して……でも私は、慌てて彼の手をはね除けた。
「近づかないで! 吐きそうだから」
「そうか。無理せず吐くといい。その方が、体が楽になるよ」
私が吐いたら、あなたがゲロまみれになるでしょう!
だから近づかないでって言っているのに。
(…………まったく、馬鹿なんだから)
でも、その気遣いが嬉しい。
目に映る、エドヴィンの高級そうな靴を見ながら、なんとか吐き気を我慢した。
(この靴を汚したら、弁償できないもの)
靴の値段を予想しながら耐えていれば、マルクの声が聞こえてくる。
「悪い。魔法使いに逃げられた。……大丈夫か?」
マルクは、魔法使いを追っていたみたい。
「大丈夫よ」
「大丈夫じゃない」
私とエドヴィンの返事が重なった。
覗きこんでくる心配そうな視線を跳ね返す。
「私は大丈夫です。……それより、誘拐犯はどうなりましたか?」
無理をして立ち上がった。
すかさず支えてくれるエドヴィンの手を、今度は払わない。
「そうか。無理をするなよ。……誘拐犯は、ほぼ全滅だ。たぶんあの風魔法は口封じだったんだろう。かろうじて息のある者もいるが、時間の問題だな」
マルクの言葉を聞いて、また気分が悪くなる。
どうしてそんなに簡単に人の命が奪えるのだろう?
それも自分の仲間まで。
きっと、私は彼らと未来永劫絶対わかりあえることはない。
…………彼らに指示した者とも。
血だらけの惨状を目に映し、私は拳を握りしめた。
その後あれやこれやしているうちに、王都の治安維持を守る警備隊が駆けつけてきて、私はようやく家路につくことが出来た。
警備隊は、私からもっと詳しく話を聞きたかったみたいだけど、私の体調を心配したエドヴィンが一喝し、マルクが代わりを引き受けることで、なんとか解放されたのだ。
「まったく。誘拐された被害者を質問攻めにするなんて、警備隊は何を考えているんだ!」
帰りの馬車でも、エドヴィンはまだおかんむり。
おかげで私は彼と手をつないだまま、隣り合わせで馬車に揺られている。
手を離そうとすると不機嫌になるのだもの、仕方ない。
「本当に君が無事でよかったよ。攫われたとわかったときには、生きた心地がしなかった」
握る手にギュッと力を入れられた。
本当に心配してくれたのだと伝わってきて、なんだか胸がキュンとする。
「そういえば、よく私が攫われたとわかりましたね?」
気を失っていたので、誘拐されてからどれだけ時間が経ったのかわからないが、エドヴィンとマルクが駆けつけてくれたのは、結構早かったのではなかろうか。
攫われた場所はわかっても、どこへ向かったのかなんてわからなかっただろうに、よく探して助けにきてくれたものだと感心する。
「ああ、それは、指輪の魔法紋を辿ったんだよ」
「指輪?」
思いも寄らぬ返事を聞いて、キョトンとなった。
指輪とは、ハンカチのお礼にもらった指輪のことだろうか?
私は、自分の左手にはまる指輪に目を落とす。
「その指輪には、私の魔法紋の痕跡がついているからね。すぐに居場所を探せたんだよ」
(…………え?)
魔法に、属性とは別に個人ごとに波長というか特徴があることは知っている。
指紋ならぬ魔法紋と呼ばれるその特徴は、魔法を使えば無意識に現れるもので、自分の魔法紋の痕跡を辿るのは難しくないのだとか。
「この指輪にエドヴィンさまの魔法紋が?」
「ああ、指輪を作ったのは私だからね」
「えっ?」
まさかのハンドメイドリングなの?
「エ、エドヴィンさまには、指輪を作る趣味があったんですか?」
「いや。作ったのはこれがはじめてさ。なかなか面白いものだね」
楽しそうに笑って言われるけれど…………手作りって。
「そんな貴重なモノを、私に?」
「君だから贈ったんだよ。それに素人が作ったモノなんだ。貴重ではないさ」
それはそうかもしれないけれど。
私の指で光るリングは、一流の職人が丹精こめて作ったものとも遜色ないような美しさを放っている。
指にピッタリフィットして、今まで意識もしていなかった指輪が、急に重く感じた。
(…………コレ、私がもらってよかったの?)
なんとなく指輪に右手で触れようとしたのだが、エドヴィンに引き止められる。
そう言えば、右手はずっと握られたままだった。
「まさか、外そうなんてしていないよね?」
エドヴィンの顔が……近い。
「あ、いや、その…………なくしたら悪いかなって」
「かまわないよ。今日みたいに探せば済むことだ。どうしても見つからなければ、また作ってもいいしね」
「そんな簡単に――――」
「実際簡単だからだよ。君がハンカチに刺繍をしてくれるより、ずっと簡単さ」
たしかにそうなのかも?
ひょっとして、指輪が手作りだったからって、そんなに気にすることじゃないのかな?
ハンドメイドリングって、この世界では結構メジャーな贈り物だったりする?
「今日は疲れたよね。君の家に着いたら起こしてあげるから、私に寄りかかって寝るといいよ」
そう言いながらエドヴィンは、私を自分の体に引き寄せた。
トクントクンと、彼の心臓の音が聞こえる。
重なるように、馬車の車輪がカラカラと回る音がした。
(たしかに疲れたもの。眠たいわ)
静かになった馬車に、眠気が襲ってくる。
――――でも、これだけは言わなくちゃ!
「本人の許可なく位置情報を知ろうとするのは、ストーカーだから!」
「…………え、なんて?」
戸惑ったエドヴィンの声を聞きながら、私は眠りに落ちた。
ストーカー、ダメ、絶対……
メリークリスマス!




