ホッとしました
縄が元々弱くって、動いている内に千切れることくらい、よくあることだと思う。
さすがに、手も足も両方というわけにはいかないので、足だけで我慢した。
猿轡もされたままで、馬車の荷台から幌ごと転げ落ちる。
外は運良く土の道路だった。
石畳などでは、強化した私の体の方が強いから、石が砕けてしまうのだ。
(そうなったら言い訳が大変なのよね)
土の道路が大きく削れて穴が開いてしまっているけれど……軟弱な土なんだから、そういうことは珍しくないはずだ。
顔を上げれば、周囲には煙が充満していた。
おかげで視界が効かないが……たぶんここは王都外縁部だ。
(煙の切れ間に高い城壁が見えるもの。馬車の進行方向にあるということは、まだ王都内ね)
私を誘拐した男たち以外の声が聞こえないところから推し量れば、人家のない場所……北の墓地か西のゴミ集積所だと思われる。
どっちも、誘拐犯が向かうには最悪の結果しか見えない場所だった。
(これは、確定ね…………この誘拐犯たちは、私を殺すつもりだったんだわ)
攫ってすぐに殺さなかったのは、血の跡がつくのがいやだとか、そんなろくでもない理由だろう。
ともかく死なないでよかった。
(早く逃げださなきゃ!)
私は一目散に賭けだそうとした。
しかし――――突如強風が吹き荒れる。
(なっ! ……これは、風魔法?)
どうやら誘拐犯の中に、風属性魔法の使い手がいるらしい。
私は咄嗟に目をつぶる。
次に開けたときには、周囲に立ちこめていた煙が跡形もなく消えていた。
「なっ!」
「おい! 獲物が逃げているぞ!」
「いったいどうして?」
「クソッ! この煙も、あいつの仕業か」
ヤバい。見つかってしまった。
慌てて逃げだす。
「捕まえろ!」
「絶対逃がすな!」
周囲に大声が響いた。
同時に向かい風が襲ってくる。風速十五メートルくらいかな?
(正直、身体強化した私にとってはそよ風みたいなものだけど、それがバレたらまずいわよね。……どうしよう? かまわず逃げるべき? それともふらつく真似くらいするべきかしら?)
とはいえ、それで捕まってしまっては本末転倒だ。
迷っている内にも、誘拐犯は迫ってくる。
(頭を強く殴ったら記憶喪失にならないかな? ああ、でも加減を間違えると死んじゃうかも……)
騎士団幼年学校に入ったのだ。騎士の任務として敵を殺せと命令されれば、従う覚悟は持っている。
ただそれと、自分の私事都合で殺人を犯すことは別だった。
たとえ相手に殺意があったっとしても、私は簡単に人を殺したくない。
(自分が理不尽に殺されてしまったから、なおさら拒否感が強いのかもしれないけど)
いやなモノはいやなのだ!
(ああ! でも、どうしたらいいの?)
選べず立ちすくむ。
その時――――。
「何をしている! さっさと逃げろ!」
怒声が振ってきた。
でも、その声は全然怖くない。
「エドヴィンさま!」
私の元に駆けつけてくれたのは、エドヴィンだ。
見ればマルクもいて、彼は誘拐犯たちに斬りかかっている。
「エイミー! 無事か!?」
「エドヴィンさま!」
馬鹿みたいに名前しか呼べなかった。
「心配した!」
腕の中にギュッと抱き締められて、心底ホッとする。力が抜けて倒れそうなくらい。
これでもう大丈夫だと思った。
「――――おいっ! こっちに加勢しろ!」
抱き締められていたのは、十秒くらいだと思うけど、マルクに怒鳴られる。
まあ、それもそうかもしれない。誘拐犯は五人くらいいたのだもの。ひとりじゃ大変よね。
「すまない! すぐ行くから!」
私をパッと離して、エドヴィンが駆けだした。
それがなんだか残念に感じるなんて……よっぽど私は困っていたんだわ。
気持ちを入れ替え、私も加勢しようと思ってそちらを見る。
「え?」
思わず声が出た。
敵が三人しかいなかったからだ。




