意外と根性がありました
悪い予感を見事的中させてしまった私は、ため息をこらえて目の前の人物を見る。
「今日こそ一本取ってやる!」
闘志満々に緑の目を輝かせるのは、オリヴェル・ロザグリア王太子殿下本人だ。
見目麗しい乙女ゲームのメイン攻略対象者は、不敵な笑みを浮かべている。
「何度やっても結果は変わりませんよ。その人と同じように地面に這いつくばるだけです」
私が「その人」と言って指さすのは、ローレン・クロブジャー。
今は見る影も無いけれど、本来なら凜々しく頼りになる乙女ゲームの攻略対象者その二は、悔しそうに唇を噛んでいる。
「だがローレンも、今日は昨日より二分長く持ちこたえられていたぞ」
「避け方が、ほんの少しマシになっただけです」
二分なんて、威張れる時間じゃないでしょう。
「それでもそれはたしかな成長だ! 僕も昨日より成長した自分を君に見せよう!」
ドンと胸を叩くオリヴェル。
そんなもの見たくないんだけどな。
私にコテンパンにのされて、すごすごと帰って行ったオリヴェルたちは、驚いたことに翌日も私の前に現れた。
「リベンジだ!」
そう言って立ち向かってくるから、遠慮無く叩き潰した。
今度こそ懲りただろうと思ったのに、その翌日も彼らは現れて、それが今日まで続いている。
「いったいなんで?」
今日も同じく返り討ちにして、私はエドヴィンとマルクにたずねた。
「なんでと言われても、彼らも短期入学中だからね」
「授業に参加するのは、当然だろう」
「授業の後で私に試合を挑むのは、当然じゃないでしょう? それに普通、令嬢に負けた王子さまは、学校なんて辞めてお城に引きこもるんじゃないですか?」
「まあ、普通はそうかもしれないけれど」
「言っただろう? オリヴェルは諦めが悪いんだよ」
「諦めが悪いとか、そういうレベルじゃないでしょう!」
負けても負けても挑んでくる乙女ゲームの王子さまとか、絶対ジャンルを間違っているわよね?
昭和のスポ根モノじゃないのよ!
「ああ。でも、オリヴェルにあんな気概があるとは思わなかった。嬉しい誤算だな」
「ローレンもだ。憎まれ口を叩きながらも、毎日来るなんて。正直見直した」
兄ふたりは、なんだか嬉しそう。
まあ、このふたりは弟たちの親には不満があったけど、弟自身が憎いわけじゃないからね。予想外に根性があって嬉しいのだろう。
でも、私は困るのよ!
彼らには、一刻も早く幼年学校からいなくなってほしいんだから!
私のためにも! 彼らのためにも!
「このまま彼らに居座られたら、聖魔法を使った訓練が出来ませんよ。……万が一にでも私が聖女だとバレて、王太子殿下の婚約者になるわけにはいきませんから」
それだけは、絶対絶対お断り!
エドヴィンとマルクもハッとした。
「そうだったな。君は聖女の力を隠したかったんだ」
「そう思えば、この状況はマズいな」
ようやくわかってくれたみたい。
「アノ人たちが来なくなるいい方法はないですか?」
聞けばふたりは目と目を見交わした。
「なくはないが――――」
「君は気に入らないだろうな」
それって、いったいどんな方法?
視線で促せば、また目を見交わして……最終的にエドヴィンが口を開いた。
「オリヴェルが君に執着するのは、君がまだフリーだからだ。君に婚約者が出来たなら、さすがにオリヴェルも諦めるだろう。だから、私かマルクが君の婚約者になれば――――」
「お断りします!」
最後まで言わせずに私は断った。
「だと思ったよ。ちなみに本当の婚約ではない偽装婚約なんだけど?」
「絶対いやです!」
偽装婚約だろうがなんだろうが、婚約は婚約だ。結婚に準ずるものなのだから、私は婚約すればその人一筋。絶対浮気はしないと決めている。
だから婚約する相手は、どんな婚約だって慎重に選びたいと思っているのだ。
もちろんうちだって貴族の端くれだから、親の勧める相手と否応なしにということも無きにしも非ずだろう。しかし、その時はその時で、私は覚悟を決めてお相手を生涯愛するつもりでいる。
(……たぶん私の両親は、私の意に染まぬ結婚を勧めてきたりしないと思うけど)
私にとって婚約は、一生を左右する重大事項。だからこそ、こんなことで流されるように、婚約なんてしない!
「エドヴィンさまもマルクさまも、軽々しく婚約しようなんて言わないでください。おふたりにとってはどうか知りませんけど、私にとって婚約は、そんなに軽いものじゃないんです!」
怒鳴りつければ、ふたりは素直に「すまない」と謝った。
そのまま黙っていればよかったのに。
「でも私は、そんな軽い気持ちで言ったわけではなかったんだけどね」
エドヴィンがそんなことを言うから、私はますます逆上する。
「偽装婚約のどこが、軽くないんです!」
「それはそうなんだけど、私は――――」
「言い訳しない!」
腰に両手を当て怒鳴りつければ、エドヴィンは渋々口を閉じた。
綺麗な碧眼が何か言いたそうに見つめてくるけれど、私はフイッと目を逸らす。
――――心臓がちょっとドキドキするけれど、きっと怒鳴ったせいよね?
私は、婚約なんてしないわよ!
今は、まだ、誰とも。




