2.出会い
また闇がやってきた。鬱蒼と茂る木々は昼間でも陽を遮る。夜になれば視界がなくなる。鳥の声、虫の声、獣の声が眠りを邪魔する。
リサは疲れていた。猟師の仕掛けた捕獲檻に捕まり、はや5日。捕獲檻を仕掛けた猟師はいつ来るのか。草についた露をすすり、地面に溜まった泥水を飲んでしのいでいたが、体力はすでに限界に達していた。
ここで死ぬのか? リサは誰かが通るのをじっと待った。
「どうされましたか?」
眠っていたら声がした。男の声。目を開けると、木漏れ日の中に作業着の男がいた。たまたま通りがかった職人、歳はリサと同じくらいだろう。悪者には見えなかった。
「罠に捕まって、出られないのです。助けてください」
男は「構造を調べるから、これを食べて待っていてください」と水と干し肉を檻の隙間から差し出した。水を飲もうとして咳き込んだ。
「焦らないで。ゆっくりと飲んでください」
男の助言に従い、ゆっくり口に含む。続いて、干し肉を少量、口に入れる。ゆっくりと噛みしめると、肉の味が口の中に広がった。
食事をするリサの横で、男は捕獲檻の構造を調べていた。
「ここがつっかえているから、ここを上げれば……」
初見の檻を前に男は試行錯誤する。干し肉を食べ終えたリサは、男の作業をぼんやりと見る。もし檻が開かなくても、誰かを呼んでくれればいい。
「ありがとうございます。助かりました」
「まだお礼を言うのは早いよ。檻が開いていないからね。それにしても、こんな山道から離れた場所になぜ?」
「薬草を取ろうとして、あそこから足を滑らせたのです。落ちたら罠がありました」
リサは崖を指差す。崖の高さは5メートル以上ある。
「あそこから? 怪我はないですか?」
「はい、たぶん」
「よいしょっと」
男の掛け声とともに捕獲檻の扉が開く音がした。5日ぶりにリサは檻の外に出た。
「いたっ」足首に痛みが走った。崖から落ちたときに挫いたのだろう。
「足を怪我していますね。僕が背負っていくよ」
リサは首を横に振る。しかし、男は「ダメだ」と譲らない。しばらく押し問答は続いたが、リサは折れて男の背に乗った。
「名乗っていませんでしたね。僕はクリスティンです。クリスと呼んでください」
「エリザベスです。リサと呼んでください」
クリスはリサを背負ったまま細い山道を下る。足場の悪い箇所も難なく進む。足取りは確か。ふらつくことはない。
リサはとにかく恥ずかしかった。5日間も檻の中にいたから、髪はぼさぼさ。体のあちこちが痒い。酷い臭いだ。それに、男とこんなに密着するのは初めてだった。
クリスはリサが落ち着くように話をしてくれた。趣味で宝飾品を作っており、天然石を採取するために山に入った。天然石を探して山を歩き回っていたところ、たまたまリサを発見した。いつも通るルートではなかったから、運が良かったらしい。
揺られながら話を聞いていたら、睡魔に襲われた。捕獲檻に閉じ込められた疲労感、干し肉を食べた満腹感、クリスの背中から伝わる温もり。抗おうとしたものの、いつの間にかリサの意識は途切れた。
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