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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編⑤脱出

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闇の中に響く解放の鼓動

塔は静かだった。石畳の廊下を風がすり抜け、時折、魔法の灯火がちらつく。カリストの審問官たちが集うこの塔において、静けさは異常ではない。だが、今日は何かが違った。


ラグリナとノエルは、無言のまま塔の奥に並んで立っていた。クラリーチェの魔法に操られ、審問官として過ごした日々。その呪縛が――ほんの数日前、高原の街で崩れた。


健司という男に出会ったからだ。


その瞬間のことを、二人は忘れられなかった。まるで春の光のようなぬくもりが、胸の奥の何かを溶かしていった。怒りも、誇りも、恐れも、命令すらも消えていく。ただ、心が自由になっていく感覚。


「……アナスタシア様。今、帰ります」


ラグリナが小さくつぶやいた。クラリーチェに従うことしかできなかった日々。その果てに、健司の存在が思い出させてくれたのは、自分が誰のために戦っていたのかという記憶だった。


ノエルも頷いた。


「アナスタシア様には、まだ……希望があると思えるの」


二人はすでに心を決めていた。リヴィエールへ戻る。アナスタシアの元へ。彼女の「自由」を取り戻すために。


だがその時、魔力の波動が塔の廊下を揺らした。


「どこへ行くつもりだ?」


冷たい声が響いた。ノイエルだった。黒衣をまとったその姿は、闇の中でさえ威圧感を持つ。クラリーチェ、リズリィと並ぶ審問官の一人。無慈悲さと観察力を兼ね備えた彼女は、すでに二人の変化に気づいていた。


「……気づいてたのね」


とノエルがつぶやくと、ノイエルの口角が上がった。


「当然だ。魔法にかけられた者が、目の奥に『意志』を宿すなんて珍しいからな。お前たちは解放された。だが、それで終わりではない」


「止めるつもり?」


「当然だ。裏切り者は、処刑対象」


ノエルが杖に手を伸ばしたその瞬間、ラグリナが飛び出した。


「今だ、ノエル!」


二人は一斉に走った。闇の中を駆け抜け、塔の階段を降りていく。ノイエルが魔力を解き放つ。床が砕け、爆発音が響いた。


「止まれええええっ!!」


けたたましい怒声が追いかけてくる。塔の守衛たちが目を覚まし、次々と魔法の光が灯り、追撃が始まる。


「早く……この扉を抜ければ外だ!」


ラグリナが扉を開け、冷たい風が顔を撫でた。外は夜だった。審問官の塔の外壁には、もう何人もの魔女たちが集まっている。


「ラグリナ、こっち!」


ノエルが指さしたのは、塔の裏手にある古びた倉庫跡。そこからリヴィエール方面へ抜ける裏道があると聞いていた。


一瞬のためらいの後、二人は草むらに身を投じ、魔力を最小限に抑えて走り出した。


その頃――塔の最上階では、ラグナが目を閉じていた。


「……始まったか」


ラグナはゆっくりと椅子から立ち上がり、静かに階段を下り始める。クラリーチェとリズリィから報告を受けた高原の街スラリーでの出来事――死者が生き返ったという証言。信じがたい報告。しかし、彼女は知っている。


「西の地に、愛を教義とした組織がある」


かつて、ラグナ自身がその存在を探ったことがある。だが、手掛かりはほとんどなかった。愛を教義に? 愚かな理想だと思っていた。しかし、もしそれが現実になっているとしたら――


「健司という男は、そこに関わっているのか……」


ラグナは塔の窓辺に立ち、夜の空を見上げた。


その光景の向こうで、ラグリナとノエルは全力で走り続けていた。冷たい泥に足を取られ、茨に服を裂かれながらも、彼女たちの目は前を見ていた。


「アナスタシア様に会えば、きっと……何かが変わる」


「ううん、変えるの。私たちが!」


その時だった。後方から、鋭い風を切る音がした。光の矢が放たれた。


「ノエル、伏せて!!」


ラグリナが叫び、ノエルを突き飛ばした。矢が地面に突き刺さる。その爆発で、土が舞い上がる。


「な……ノイエルの矢だ……!」


前方にはもう、森の中が広がっている。あと少しで、カリストの追手の視界から外れるはず。


「逃がすなああああ!」


遠くからノイエルの声が響いた。だが、二人は止まらなかった。泥まみれになりながら、木々の合間をすり抜け、ついに――


一筋の光が、森の向こうに差し込んだ。


「……見えた……!」


その光は、希望の場所――リヴィエールの街から放たれていた。


「アナスタシア様……私たちは、帰ります!」


ラグリナとノエルは、ついに森の中へと消えていった。


――そして、静寂が戻った審問官の塔の中。


ノイエルは息を荒げながら、遠くの森を睨んでいた。


「……逃がした……!」


だがその背後から、ラグナが歩み寄る。


「いい。あの二人は……そのまま泳がせろ」


「ラグナ様……?」


「健司という男を中心に、何かが動いている。ここで捕らえては見えないものがある」


ラグナの瞳は、夜の闇の中で静かに光っていた。


「それに――こちらも、“彼ら”と接触する時が近いかもしれない」


「“彼ら”?」


ラグナはそれ以上語らなかった。ただ、窓の外を見つめる。その先には、既に愛という名の革命が始まっている。


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