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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編③セレナの姉レリア

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レリア

高原の街の朝は、霧に包まれていた。ひんやりとした空気が、目覚めたばかりの街に静寂を運んでいた。健司は宿屋の窓を開け、遠くの山々を眺めた。今日が何か大きな転機になる――そんな直感があった。


その直感は、間違っていなかった。


その頃、街の入り口では、2人の魔女が姿を現していた。リズリィ――紅い瞳を持つ月の魔女。そしてクラリーチェ――審問官の中でも鋭く、冷酷と噂される銀髪の魔女。彼女たちは街の中心を目指して歩き始めた。


「さて、健司はどこにいるのかしらね」


とクラリーチェが呟く。


「まずは、セレナにご挨拶ね」


とリズリィが笑った。


健司たちは街の広場近くにいた。セレナ、カテリーナ、リセル、クロエ、そしてヴェリシアが緊張した面持ちで見守っていた。


――そして、現れた。


通りの向こうから、リズリィとクラリーチェが悠然と現れたのだ。


「セレナ、随分と大きくなったじゃない」


リズリィの声は、甘く、しかし残酷な刃のように響いた。


セレナは一歩前に出た。震える足を、懸命に踏みしめながら。


「リズリィ……姉さんの仇!」


「姉さん? ああ……あの黒髪の美人ね。懐かしいわ。まさか、まだ覚えてたの?」


リズリィの紅い瞳が、どこか嬉しそうに細まった。


その時、健司が口を開いた。


「リズリィさん、一つだけ聞きたいことがあるんです」


「あなたが健司? いいわ、聞かせてちょうだい」


「セレナのお姉さん、覚えていますか?」


「ええ。セレナに似ていて、優しげな雰囲気だった。少し泣き虫だった気もするわ。でも、どうして?」


健司は静かに手を広げた。


「こんな感じですか?」


その瞬間、光が辺りを包み込んだ。


広場の中央に、淡い輝きが集まり、形を成す。まるで月の光を宿したような柔らかい白い衣が揺れ、長い黒髪が風にたなびいた。


「……え?」


クラリーチェの声がかすれた。


そこに現れたのは――レリア。


あの日、命を落としたセレナの姉だった。光の中から現れたその姿は、生きていた頃とまったく同じ。いや、それ以上に神々しさを湛えていた。


「お、お姉ちゃん……」


セレナの声が震えた。


レリアはゆっくりとセレナの元に歩み寄る。確かな足取り、温かい息遣い、そして――抱きしめたその感触。


「……セレナ。もう泣かないで」


「夢じゃない……本当に、お姉ちゃんだ……!」


クラリーチェとリズリィは、しばし言葉を失っていた。


「……肉体ごと……生き返った……? そんな魔法……」


クラリーチェの冷静さが崩れかけていた。


「不死の魔法でも、復元の奇跡でもない……。これは、存在そのものを時空に引き戻した……まさか――」


リズリィは健司を凝視した。


「……あなた、いったい何者なの?」


健司は静かに答えた。


「ただの人間ですよ。でも、どうしても叶えたい願いがあった。それだけです」


「バカな……神に等しい奇跡だぞ、それは」


「違います。これは希望です」


レリアはセレナの手を取り、微笑んだ。


「ありがとう、セレナ。あなたが生きていてくれて、本当に嬉しい」


「私も……ずっと会いたかった……」


しばしの沈黙の後、クラリーチェが言った。


「……これは、上に報告せねばなるまい」


「帰るつもり?」


とカテリーナが一歩前に出た。


「もちろんよ。無断で戦えば、言い訳が立たないからね。でも……これはもう、健司という存在がカリストの秩序を揺るがすという証明だわ」


リズリィは目を細めた。


「私は……もう少し見たかったけど。まあ、いいわ。また会いましょう、セレナ。そして健司」


彼女は一度、レリアを見つめた。感情の読めないその表情には、わずかに複雑な感情が滲んでいた。


彼女たちが立ち去った後、健司は静かに膝をついた。


「……大丈夫か?」


とクロエが駆け寄る。


「ああ……ただ、全力だった。魂まで削った感じだよ」


リセルが支える。


「でも、あなたの想いが通じた。セレナさんの姉を救った」


ヴェリシアがそっと呟いた。


「人の願いが、奇跡を起こす。魔女の国では、ずっと否定されてきた言葉……」


セレナは、健司のそばに座った。


「ありがとう、健司。私は……この日のために生きてきた」


「セレナ……これからは、姉さんと一緒に生きていけるよ」


その夜、高原の街は眠れないほどの熱気に包まれていた。セレナとレリアの再会、そして健司が見せた奇跡。それは魔女の世界に、新たな波紋を呼ぶことになる。


リズリィもクラリーチェも、この出来事を黙っているはずがない。だが、今は――


希望が勝った夜だった。


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