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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編②純血主義国家カリスト

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カリストの魔女たち、動く―

純血主義国家カリスト──

高原の街よりさらに北、雪深い断崖の王国。

魔女以外を劣等と見なす厳格な思想を掲げ、異質な存在は徹底して排除される。


その中央にある黒曜石の塔。

今日も、選ばれた審問官たちが集い、冷たく静かな空気が支配していた。


クラリーチェは、細身の身体を黒衣に包み、静かに地図を見下ろしていた。

艶やかな黒髪が肩で揺れ、瞳には紅玉のような光が宿っている。


「……健司、という男が高原の街に入ったらしい」


「健司?」


一人が小首を傾げた。

それは、月光の魔女リズリィ。

真紅の瞳と銀の髪を持つ、カリストで最も恐れられる魔女のひとりだ。

声には狂気にも似た喜びが滲んでいた。


「それって、アナスタシアを破ったという──あの人間の男のこと?」


クラリーチェは頷いた。


「……奴の背後には、アスフォルデの環の魔女たちがついている。そして、カテリーナの魔法も効かなかったらしい」


その場の空気が一瞬凍った。


「カテリーナ? あのカテリーナの?」


「ええ。事実なら、異常事態よ」


クラリーチェは眉をひそめた。


「魔女の枠組みにすら当てはまらない……その可能性がある」


「面白いじゃない」


リズリィがにやりと笑った。


「私も行く。月を背に狩りをするのは久しぶり。あの男……味わいがいがありそう」


「リズリィ、やりすぎは禁物よ」


最後に口を開いたのは、審問官の中でも最強のひとり、ラグナだった。

彼女の声は低く、重く、静かだったが、誰もがその一言に背筋を伸ばした。


灰銀色の髪を背中まで流し、漆黒の鎧に身を包むその姿は、まるで「戦の女神」。


「我々の目的は、カリストの威信を保つこと。目立ちすぎる行動は禁物だ。特に、健司という存在……その力の正体が不明だ」


クラリーチェは頷き、ラグナに視線を送る。


「了解した。捕らえて、力の正体を探る……それが目的ね」


「それが最優先だ」


ラグナの言葉に、審問官たちは沈黙のまま、頷いた。

それは命令であり、決して逆らえない重みだった。


* * *


同じ頃──高原の街。


健司は宿の一室で、アスフォルデの環の面々と共に明日の予定を練っていた。

高原の街の住民たちは穏やかで、魔女の気配も薄い。


「この街には、魔女はいない……というのは本当みたいだね」


エルネアが頷いた。


「ええ。この街は昔、魔女狩りの激戦地だったから、魔女側もあまり深入りしないの」


リセルが心配そうに言葉を挟む。


「でも、ここに私たちが来たってことは、カリスト側に情報が漏れる可能性もあるわ」


「……その通りだね」


健司は小さく頷いた。

彼の中には、カテリーナの魔法が自分に効かなかった事実と、その反響がまだくすぶっていた。


「……大丈夫。来たら、迎え撃つだけだ」


リーネが強気に笑った。


「今の私たちなら、負ける気がしないし、何より──健司がいる」


ヴェリシアは窓際で、静かに外を見つめていた。


「……月が、少し赤いわ」


誰かが、来る。

それが彼女たちの直感だった。


* * *


カリスト、移動部隊の陣。

クラリーチェ、リズリィ、そして部下の審問官たちは、高原の街の外れまで辿り着いていた。


「さて……どうやって動こうかしら」


クラリーチェが薄く笑った。


「市街地に堂々と入るわけにもいかないし。夜まで待つ?」


リズリィは、空を見上げた。

赤く染まった月が、地平線に浮かんでいた。


「最高の夜になるわね……健司、って男。

あなたの“優しさ”……私にも、見せてくれる?」


ラグナからの言葉が頭をよぎる。

『やりすぎるな』──


だが、リズリィの中で、過去の記憶が疼いていた。

あの夜、セレナの姉を手にかけたときの月も、たしかに──赤かった。


「……すぐに終わらせるつもりはないわ。彼を“試す”だけ」


クラリーチェも静かに目を閉じた。


「もし彼が、魔女の枠を超えた存在なら……カリストの未来も、揺らぐかもしれない」


──そう。

いま、カリストは揺れ始めていた。

アナスタシアが敗北し、アスフォルデの環が再び動き始め、

そして、「人間の男」が、その中心に立っている。


異端でありながら、魔女たちを変えていく存在。


それは、カリストという閉ざされた国にとって、

最も忌避すべき“変革”の象徴だった。


だが、それを「排除すべき異物」として葬るのか、

あるいは「時代の流れ」として受け入れるのか──


それを決める戦いが、始まろうとしていた。

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