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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編②純血主義国家カリスト

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高原の街スラリー



朝の空気は冷たく、どこか張り詰めた緊張があった。


健司は、リヴィエールの広場に立っていた。旅の支度はすでに整っている。傍には、アスフォルデの環の魔女たち──ソレイユ、リーネ、エルネア、ヴェリシア、リセル、クロエ、ミリィ、ローザ、セレナ、そしてカテリーナの姿があった。


出発を見送るために、アウレリア、アナスタシア、ルナ、ミイナもやって来ていた。


「行ってくるよ。まずは高原の街スラリーに」


と健司が静かに言った。


「気をつけて」


とアウレリアが微笑む。だがその眼差しには、どこか心配の色があった。


「高原の街スラリーには……おそらく魔女はいないから」


健司は、自分に言い聞かせるように言った。


「でも、カリストに近い場所だ。何があってもおかしくないわ」


アナスタシアの声には重みがあった。彼女はかつて審問官の脅威をその身で知っている。


「油断しないで」


とルナが健司の袖をつまむように引っ張る。


「ちゃんと無事に帰ってきて」


「ミイナも、待ってるからね」


と彼女も小さく頷いた。


健司はみんなに向き直った。


「ありがとう。きっとまた戻るよ。その時は、きっと仲間がもっと増えてると思う」


その言葉に、アナスタシアの瞳がわずかに潤んだ。


「ラグリナとノイエルも……連れ帰ってくるから」


「……うん。よろしくね」


アナスタシアは小さく頷いた。どこかで信じていた。彼ならば、失った仲間たちさえ、もう一度取り戻せるのだと。


そして健司はアスフォルデの環の面々と共に、リヴィエールの門をくぐった。


旅は、始まった。



リヴィエールの街を離れてから数時間。道は徐々に傾斜を増し、緑豊かな平野から、風が吹きすさぶ高原へと変わっていく。


「このあたりから気温が変わってきたわね」


とクロエがマントを握り直す。


「高原の街スラリーは、もともと交易地だったの。でも魔女の影響がほとんどない場所。中立地帯と言ってもいいわ」


とリセルが説明する。


「ということは、ここから先がカリストの影響圏になるってこと?」


と健司が尋ねた。


「そうね。審問官たちの巡回もあるはず。何かあった時は即、敵対行動を取られるかも」


とヴェリシアが冷静に言った。


健司は頷いた。アスフォルデの環の面々は、かつて敵だった。今では仲間だが、カリストにとっては目障りな存在だろう。


その時、遠くに町の影が見えた。


「……あれが、高原の街スラリーか」


町は、石造りの家々が並ぶ素朴な作りだった。魔力を感じることはなく、代わりに、武装した人間の兵士が目立った。


「入り口で止められるかもしれない」


とソレイユが言うと、エルネアが歩みを速める。


「でも私たちには、武力じゃなく、言葉があるわ」



「旅人か? ここは自由都市だが、魔女の同行には注意を促されている」


門番は、健司たちの背後にいる魔女たちを見て、やや警戒を強めた。


健司は前に出た。


「僕たちはただの旅の一行だよ。戦う気はない。宿を探しているんだ」


「ふむ……このあたりでは最近、カリストからの動きが激しくなっていてな。魔女同士の争いが起きると困るんだ」


カテリーナが口を開いた。


「私たちはリヴィエールの代表として来た。争いを望んでいない。それが証明になるなら、私の力を封じて入ってもいい」


門番は迷ったように彼女を見たが、健司の真剣な表情を見て、ため息をついた。


「……わかった。街では大人しくしていてくれよ。下手な行動を取れば、追放されることになる」


「ありがとう」


と健司は頭を下げた。



街の中は、思ったよりも静かだった。市場もにぎわってはいたが、魔女が近づけば人々は距離を取った。


「歓迎ムードってわけじゃないね」


とミリィが苦笑する。


「当然よ。カリストが魔女の正義を語ってるんだもの。ここの人たちはそれを信じている」


とクロエ。


「けど、何人かはこちらをジッと見てる。話しかけるタイミングを探ってるのかも」


とリーネが小声でつぶやいた。


健司は、街の中心にある広場に視線を向けた。


「この街で、何か手がかりがあるといいけど……カリストの審問官について」


その時、ひとりの老婆が近づいてきた。


「……あなたが、リヴィエールから来た青年かい?」


「え? そうですが……」


「昔、この街にアナスタシア様が来てね。わたしはその時、助けてもらったのよ。あの人が戻らないと聞いていたが……あなたが後を継いだの?」


健司は驚いた。


「いいえ、そうではありません。ただ……アナスタシアさんの意志を大切にしているだけです」


「なら、言っておくれ。カリストの審問官たちは、近いうちにこの街を完全に掌握しようとしてる。まだ名前は出ていないが、“ラグナ”という魔女の噂を聞いたわ。恐ろしい力を持っているとか」


健司は、クロエと顔を見合わせた。


「……来たか」



その夜、宿に戻った健司は窓辺に立ち、遠くの星を見つめていた。


「ここが境界線なんだね。リヴィエールと、カリストの」


後ろからソレイユがそっと近づいてきた。


「でも、私たちは一緒にいる。健司がどこにいても、私たちはついていくよ」


リーネ、リセル、ヴェリシア、ミリィ、カテリーナ……みんなも彼のそばにいた。


「……ありがとう。みんながいてくれるから、進めるよ」


健司はそっと目を閉じた。これから待ち受けるのは、カリストの魔女たち。リズリィ、ノイエル、ラグリナ、そしてラグナ──


だが、彼には、アスフォルデの環の仲間たちがいる。


「高原の街スラリーを抜けて、次はカリストだ。……取り戻すよ。失われたものを。奪われたものを。そして、愛を」


風が窓から吹き込み、夜の帳が静かに彼らを包んだ。

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