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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ミリィ編⑤帰る場所

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寝室

夜のリヴィエールの街は、水面に月明かりがゆらめき、まるで夢のように静かだった。人々の笑い声が少しずつ遠ざかり、石造りの街の一角にある宿屋では、健司がようやくひと息ついていた。


「今日は……いろいろあったな……」


 独り言をこぼしながら、健司は窓を開け、水の音を聞きながらベッドに腰を下ろす。アナスタシアとの戦い、街を取り戻したこと、そしてミリィとのやりとり。すべてが、ようやく一つの区切りを迎えた気がしていた。


 すると、控えめなノック音が響いた。


「……こんな時間に?」


 戸を開けると、そこにはリセルがいた。銀髪を軽く結い上げ、淡い光を受けたその姿はまるで水の精霊のようだった。


「ごめんね、眠れなくて……ちょっとだけ、ここにいてもいい?」


「もちろん、大丈夫だよ」


 健司が頷くと、リセルは微笑みながら中に入った。部屋にはまだ蝋燭の灯がゆらめいており、暖かい雰囲気が漂っていた。健司が椅子を差し出すと、リセルはベッドの端に腰を下ろした。


「なんだか、今日は夢みたい。まさか、アナスタシアと話せる日が来るなんてね」


「そうだね……でも、それはリセルがずっと信じてくれたからだよ」


「ふふっ……健司のおかげだと思ってたけど、嬉しいな。ありがとう」


 穏やかな空気が流れる中、再びノック音が響いた。


「……今度は誰だろう?」


 扉を開けると、今度はクロエが立っていた。どこかきまり悪そうに頬をかきながら、目を合わせないようにしている。


「ちょっと……あたしも、ここにいていい?」


 健司が苦笑しながら頷くと、クロエは小さな声で「ありがと」と言いながら中へ入った。リセルを見ると、なぜか少し睨むような目を向ける。


「……もう、来てたんだ」


「ん? どうしたの?」


「なんでもない。あたしも……今日はちょっと、落ち着かなくて」


 クロエはベッドの反対側に座り、リセルと距離をとるように膝を抱えた。健司が「ふたりとも、無理しなくていいよ」と声をかけると、彼女たちは揃って微笑んだ。


 だが、その空気を破るように、今度は勢いよく扉が開いた。


「健司っ!」


「ミ、ミリィ!?」


 勢いよく飛び込んできたのは、ミリィだった。彼女は部屋を見回すと、すでにリセルとクロエがいることに眉をひそめた。


「やっぱり……先に来てると思った」


「なんで分かったの?」


「だって、今日ずっと健司と一緒にいたの、ミリィだけじゃん。絶対、来ると思ったもん」


「……そういうことか」


 リセルとクロエが互いに視線を交わすと、ミリィは健司の隣に遠慮なく腰を下ろした。


「ミリィも寝られなかったの?」


「ううん、健司の隣で寝たくなったの。だって、ソレイユばっかりずるいでしょ?」


「……え?」


「私たちも、健司と寝たい!」


 突然の宣言に、健司は口をぽかんと開けたまま固まった。だが、その言葉に反応したように、再び扉がノックされた。


「もう……まさか」


 健司がそっと扉を開けると、今度はカテリーナが立っていた。少し頬を赤くしながら、唇を結んでいる。


「……私も、来ていい?」


 部屋の中を覗き込むと、すでに先客が3人いるのが分かり、驚いたように目を丸くした。


「まさか、みんな……!」


「そう、だからカテリーナ様も入りなよ!」


 ミリィが嬉しそうに手を振ると、カテリーナは少しだけ恥ずかしそうに中に入った。


「なんでこうなるのよ……ほんとにもう……」


 健司は一人、ベッドの中央に追いやられ、左右に彼女たちが座るという形になった。クロエとミリィが膨れ顔で睨み合い、リセルとカテリーナはやや落ち着いているが、内心は複雑そうだ。


「ま、待って。みんな、今日はただ寝るだけだからね?」


「えーっ?」


「ソレイユは健司とくっついて寝てたんでしょ?」


「ねぇ、健司。誰の隣がいい?」


「……えっ?」


「選んでよ」


 健司は心臓がバクバクし始めた。


 ――助けて、ソレイユ。


 小さく呟いたが、ここには彼女はいない。代わりに、健司はふうっとため息をつき、笑顔を浮かべた。


「じゃあ、今日は……みんなで仲良く、並んで寝よう。誰か一人じゃなくて、全員一緒に」


「……ずるい!」


「……でも、それが健司らしいかも」


 そう言って、みんなが一斉に布団に滑り込んだ。


 誰の肩にもたれるでもなく、誰かを独占するでもなく、ただ寄り添うように並んで横になる。それが、今夜の彼女たちなりの“答え”だった。


「おやすみ、健司」


「おやすみ……みんな」


 静かな夜のリヴィエール。水の音に包まれて、五人の夜が静かに更けていった――。


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