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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ミリィ編③アナスタシア

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アナスタシアの本心

静寂に包まれたリヴィエールの広場。その中心に、かつて水の都と称された美しき面影を残したまま、今はどこか冷たく、虚ろな空気が漂っていた。


アナスタシアは、健司たちを前にしても、その整った顔立ちに感情を見せない。ただ、その瞳だけが、どこか哀しみを湛えていた。


ミリィはその視線に耐え切れず、一歩前に出て尋ねた。


「……なぜ、多くの人の心を凍らせたの?」


その問いに、周囲の空気が一瞬張り詰めた。


アナスタシアは目を伏せたまま、乾いた声で呟いた。


「……そういう噂になっているのね。いいわ、信じたいなら、信じればいい。真実を知らなくても、人は噂で人を決めつける。私も……もう慣れた。」


その口調は投げやりだった。しかし、その奥にある感情に、健司は気づいた。


「……泣いてるんだね、アナスタシアさん」


アナスタシアが微かに反応した。ほんのわずかに、肩が揺れた。


「今までの会話や態度から……僕にはそう思えた。誰もいない街に、ずっと1人でいた。過去を話すこともせず、ただ静かに……」


健司は一歩、彼女に近づく。


「アナスタシアさんは、助けてほしいから泣いてるんだよね?」


アナスタシアはその言葉に目を見開いた。だがすぐに、冷たく笑った。


「……思い上がりね。誰が、そんなことを望んだと?」


「だったらなぜ、僕たちを拒まない? 魔女たちの中には、僕たち人間を殺そうとした者もいた。けど、あなたはそうしなかった。むしろ……僕たちの到着を待っていたようにも見える。」


カテリーナが口を挟んだ。


「アナスタシア。あなた……誰かに、話を聞いてほしかったのでは?」


その一言に、アナスタシアの瞳がわずかに揺れた。


「……どうせ、誰も信じてくれないと思っていた」


その呟きが、確かな本音だった。


アウレリアが眉をひそめた。


「アナスタシア……あんた、リヴィエールの過去を話す気があるの?」


沈黙が落ちた。


アナスタシアはゆっくりと、重い口を開いた。


「昔、この都には多くの人間と魔女が暮らしていた。水は恵みとなり、魔法は生活の一部だった。私は先代からこの都を引き継ぎ、みんなと支え合って生きてきた。だが……あれが来た」


「カリストの魔女達ね」


とアウレリアが呟く。


「ええ。奴らは表向きは交流を求め、裏ではこの都の魔女達に接近し、少しずつ“血”を意識させていった。“誇り高き魔女の血統”“人間との交わりは堕落”……そんな言葉で、心を侵していったのよ」


ミリィが息を飲む。


「だから……みんな、変わってしまったの?」


アナスタシアは頷いた。


「最初は些細な違和感だったわ。けれど、ある日気づいたときには、私の側に誰もいなかった。人間たちはこの都から追い出され、魔女たちも、気がつけばカリストへと“移っていた”」


「洗脳……だったんだね」

 

と健司。


「彼女たちは、自分の意思で動いていると信じていた。けれど、それは巧妙な精神操作……気づいていたのに、私は……止められなかった。私は……この都を守れなかったの」


声が震えていた。


クロエが、静かに言った。


「だから、あなたはここに残ったのね。かつての都の記憶と共に」


アナスタシアは何も言わず、ただ涙をこぼした。


「私は、この街の魔法に……“人の心を凍らせる”ような術をかけたことなんてない。ただ、私の周囲から人がいなくなっただけ。けれど、外の者たちは私が『人の心を奪った』と思った。だって……」


彼女は自嘲気味に笑った。


「その方が、物語としては美しいから」


ヴェリシアが拳を握った。


「許せない……洗脳された魔女たちも、噂だけであなたを責めた人間たちも」


ダリアがそっとアナスタシアの前に立った。


「あなたが今、泣いているのなら、私はそれを支えたい。人間とか魔女とか、関係ない。私たちは……“あなたの涙”を見たから」


アナスタシアの目が揺れた。彼女は長い間、誰にも心を明かすことができなかった。強い魔女と呼ばれ続け、その孤独の中で、ただ耐えるしかなかった。


健司は最後に、柔らかい声で語った。


「僕たちは、もう戦うためにここへ来たんじゃない。あなたの都が、どうして無人になったのかを知るために、そして……新しい未来のために来たんだ」


アナスタシアは、ようやくその目に涙を溜めたまま、静かに頷いた。


「ありがとう……誰かに、伝えたかったのかもしれない」


その瞬間、長く凍てついたリヴィエールの空気が、ほんの少しだけ、和らいだように感じられた。


――過去は消せない。けれど、誰かがその痛みを知ってくれるなら、未来は変わる。


そして健司達の旅は、また新たな段階へと歩みを進めるのだった。


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