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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
ミリィ編②水の都リヴィエール

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 ―リヴィエールの記憶―

リヴィエール。かつて水の都として栄え、多くの魔女と人間が共に生きていた地。


その中心にいたのが、アナスタシアという名の魔女だった。


――水の女王。

そう呼ばれた彼女は、他の魔女たちからも畏敬され、リヴィエールの長として都を治めていた。


澄みきった川、流れるような都市の景観、そして穏やかに共存していた人々。

そこには、力だけではない、魔女の品格と民への愛情が息づいていた。


アナスタシアの胸に、今も鮮やかに蘇るその日々。

しかし、ある時から歯車は狂い始めた。


――アナスタシア様。

側近の魔女たちは、昔から仕えていた優秀な者たちばかりだった。


その中でも、フィーネ、ラグリナ、ノエル。

三人は特に信頼していた。魔法だけでなく、心も通じ合っていた仲間だった。


だが、ある日。


「……最近、皆の様子が変です」


リヴィエールの西側地区を任されていたノエルが、苦しげにそう告げた。

明らかに、市民との関わりを避ける魔女たちの姿が目立つようになっていた。


最初は体調不良や、日々の疲れかと思われた。

しかし、それはまったく別の「病」だった。


「カリストの者が来ている」


そう口にしたのは、ラグリナだった。

その言葉を聞いた瞬間、アナスタシアの胸に警鐘が鳴る。


カリスト。

血統こそが魔女のすべてと信じる魔女国家。

外の魔女を見下し、混血や人間との関係を「汚れ」として排除する思想を持つ、強硬な勢力。


リヴィエールとは、まったく異なる理念を掲げていた。


「……まさか、この街にまで」


アナスタシアは、急ぎ街の巡回に出る。

そこには、市民を見下し、冷笑するような態度を見せる魔女の姿があった。

いつもなら笑顔で挨拶していた者が、今や無言で通り過ぎる。


「人間と暮らしても、力は弱まるだけだ」


そんな言葉を、はっきりと耳にした時。


アナスタシアは確信した。


――これは、侵食だ。

外からの思想が、確実に街を蝕んでいる。


フィーネは泣きながら報告した。


「カリストに忠誠を誓えば、新たな魔法を教えてくれるって……。そんなこと、あり得ないのに」


だが、信じる者は増えた。

魔女たちは次第に、アナスタシアの言葉に耳を貸さなくなっていく。


「あなたの理想は古い」


「人間と共存して、何の得があるのか?」


「力ある者が支配するのが、自然の摂理」


魔女達の瞳は、もうアナスタシアを見ていなかった。


そして、ある夜。


街の南門が開いた。


そこには、黒いローブを羽織った魔女が立っていた。

白銀の髪。冷たい瞳。まるで感情を持たない人形のような表情。


「……ようこそ、リヴィエールへ。カリストの……」


アナスタシアが言い切る前に、その者は微笑んだ。


「私達はカリストという国から来ました。血統正しき魔女の集いの代表です」


魔女たちはひれ伏した。


フィーネさえも。


「……何をしているの!」


アナスタシアが叫んだ時。


カリストの指が動いた。


魔法陣が広がり、青い水の輝きが黒く染まる。

まるで、都の水脈すら操るような感覚だった。


「力は正しき者に与えられる」


「血統、それがすべて」


アナスタシアの心が、凍った。


この街を守るために、どれほどの時を費やしてきたか。

人と共に歩むことの大切さを伝え、理解しあい、少しずつ育んできたのに。


そのすべてが、黒い染みのように崩れていった。


数日後。

魔女たちは一斉に街を出た。カリストに従い、アナスタシアに別れも告げず。


市民は、恐れた。


「魔女が去った」


「また、戦が起きるのでは」


「カリステが、街を滅ぼすのでは」


そして、逃げた。


――一人になった。


アナスタシアは、その日から静寂の中に身を置いた。


それでも、街を離れなかった。


このリヴィエールは、今は誰もいないかもしれない。

だが、過去に確かにあった愛と調和を、無にするわけにはいかなかった。


一人で街を守った。

水を清め、建物を直し、噴水を動かし続けた。


それは誰のためでもなかった。

ただ、ここが「帰る場所」になれるように。


「……誰か、来る気がするね」


空を見上げ、アナスタシアは微笑む。

昔の仲間の名を思い出しながら。


そして、噂を耳にした。


――ザサンの街が、開放されたという。

――アスフォルデの環の魔女達が、姿を消したと。


「……もしかして」


その予感は、確信へと変わっていた。


「アスフォルデの環が来るのかもしれないね」


水面が揺れた。


そこに映るのは、まだ見ぬ者たちの姿。


誰もいないはずの街。

だが、そこに流れる水は、今日も澄んでいた。


アナスタシアはゆっくりと、階段を降りた。

都の中心、かつて皆が集まっていた広場へと向かう。


迎えるために。

再び、この都に笑顔が戻る日を信じて。



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