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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ミリィ編②水の都リヴィエール

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「アナスタシアは、なぜあそこに?」

旅の道中、朝靄がうっすらと残る川沿いの小道を歩く一行の中で、健司はミリィに近づいた。彼女は珍しく無口で、周囲の木々や風景にも興味を示していなかった。時折、水面に目をやっては、何かを思い出すように眉をひそめる。


「ねえ、ミリィ」


健司が小声で問いかけると、ミリィははっとしたように顔を上げ、少し笑った。


「なあに、健司くん?」


「アナスタシアって、そんなに強いの?」


ミリィは少し考えてから、慎重に答えた。


「……強いよ。水属性の魔法では、魔女の中でもトップクラス。勝ったという話は、聞いたことがない」


健司は歩を止め、振り返った。後ろでは、ルナがセレナと笑いながら話していて、少し後ろにはカテリーナやエルネア、クロエたちが静かに進んでいる。


「じゃあ、誰も勝てなかったってこと?」


「うん。魔女同士の公式な戦いだけじゃなく、襲撃や防衛でも。彼女は負けたことがない。ただ……」


「ただ?」


「そもそも、トップ20の魔女ってそういう存在なの。実力もあるし、けど、誰も本当の実力を知らない。だから、『負けたことがない』って、もしかしたら誰も戦ってないから、かも」


健司はその言葉に引っかかった。


「誰も戦ってない……ってことは、噂の域を出ないってこと?」


「そう。たとえば私が『健司くんは最強の剣士』って言いふらしたら、誰かが信じてくれるかもしれない。けど、それは誰かと戦って勝った証明がないと、本当の意味では“強さ”って言えないでしょ?」


「……うん、たしかに」


「アナスタシアに関しては、昔から『強い』って言われてて、誰もそれに逆らわなかった。だから噂はそのまま大きくなって、誰も疑問を持たなくなったのかもしれない」


「でも、ミリィは知ってるんだよね? あそこから逃げて、クロエに助けられたって」


ミリィは黙った。そして川のほうをじっと見つめた。朝日が水面に反射して、ゆらゆらと揺れていた。


「私は……小さい頃、リヴィエールの外れの村で暮らしてた。水源が近くて、村も穏やかだった。でも、アナスタシアがあの都に来てから、変わったの」


「どう変わったの?」


「水の流れが止まり、空気がよどみ、人々が少しずついなくなった。魔法で支配したとか、力で村を壊したってわけじゃない。けど、みんなが『あそこには近づくな』って、そう言うようになって……気がついたら、リヴィエールには誰も住んでなかった」


健司はミリィの表情から何かを読み取ろうとした。けれど、彼女は笑って誤魔化すように顔を背けた。


「私も、怖くなって逃げたの。何があったのかは、正直よくわからない。でも、あの場所には、何かがある。私は……戻りたくなかったけど、今は違う」


「今は?」


「仲間がいるから。クロエ様やカテリーナ様、そして……健司くんも」


彼女の目が一瞬、まっすぐに健司を見つめた。頬が少しだけ赤らんだ気がして、健司は慌てて視線を逸らした。


「そ、そっか……」


沈黙が流れる。


やがて、健司はぽつりと疑問を口にした。


「でもさ、強いなら、どうしてアナスタシアはあんな場所にいるんだろう?」


「え?」


ミリィが聞き返す。


「いや、トップクラスの魔女なら、どこかの国を支配したり、他の魔女の指導をしてたりするもんなんじゃない? それなのに、リヴィエールっていう人のいない場所で、たったひとりでいるのは、なんか不自然な気がして」


ミリィはしばらく考え込んでいた。


「……そうだね。言われてみれば、確かに。あの強さで、なぜ誰とも交わらず、孤独に?」


「もしかして、自分からあそこを選んだのかな?」


「あるいは……何かから、逃げてる?」


「逃げてる?」


「うん。誰にも負けてない魔女が、何かに敗れたとしたら――その事実を隠すために、表舞台から姿を消した、とか」


「……なるほど。それなら、誰にも負けてないという噂が残るわけか」


二人の会話に気づいたのか、クロエが歩み寄ってきた。


「なに話してるの、二人とも?」


「アナスタシアのことさ」


と健司が答えると、クロエは少し目を細めた。


「アナスタシア……昔、噂だけは聞いたわ。冷たくて、感情を見せない。だけど、誰も手を出せないほどの威圧感があるって」


「でも、それって本当に強さなのかな」


と健司が言った。


「どういう意味?」


「誰かと触れ合うことを拒んで、ずっと一人でいる。それって、強さというより、寂しさからじゃないかなって」


クロエは黙って頷いた。


「もしかしたら、アナスタシアも――愛を知らないまま、大人になった魔女なのかもしれないね」


ミリィはふと微笑んだ。


「なら、私たちが届ければいいんだ。私たちが知った、“愛”を」


健司も頷いた。


「うん。戦うためじゃない。“変えるため”に行こう、リヴィエールへ」


川沿いの道はまだ続いていた。朝霧が少しずつ晴れて、先に広がる青い水面が、やがて“水の都”リヴィエールへと続いていることを示していた。


彼らの旅は、新たな真実と、ひとりの魔女の心へと近づこうとしていた。



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