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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ミリィ編①ミリィの過去

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ミリィの過去

旅の道中、陽光が木々の隙間から差し込む林道を進みながら、健司は隣を歩くミリィの様子に目をやった。


 どこか落ち着かない。口元は笑っているようでも、視線は何度も揺れ、指先が小さく震えていた。


 (おかしい……ミリィらしくない)


 健司は歩みを緩め、静かに声をかけた。


「ミリィ……もしかして、リヴィエールのこと、何か知ってる?」


 その言葉にミリィはぴたりと足を止めた。緑に染まる林の中、彼女の肩がかすかに揺れる。


「……やっぱり気づいた?」


 振り返ったミリィの顔には、いつもの無邪気さとは違う、怯えにも似た真剣さがあった。


「リヴィエールには、恐ろしい魔女がいるの。水魔法の使い手で、カテリーナ様と同じか、それ以上……そんな力を持っているわ」


 その場にいた魔女達が、一斉に振り返った。


 「それって……誰よ?」


とクロエが眉をひそめる。


 ミリィは目を伏せて、小さく息を吸い込んだ。


「名前は……『アナスタシア』」


 その名に、アウレリアの表情が固まった。


「アナスタシア……あの一族の?」


 「うん。血の流れに魔法を刻む“氷水の家系”。代々、水と氷を操る魔女が生まれてきた家。アナスタシアはその末裔で……おそらく、最後の一人」


 ミリィは言葉を選ぶように、慎重に話し続けた。


「……わたし、昔リヴィエールの近くにいたの。あそこにいた魔女たちと一緒に暮らしてた。でも、ある日、アナスタシアが突然……全部、変わったの」


 健司は静かに問う。


「……どうなったの?」


「支配されたの。感情を凍らせる魔法……人の心すら、水のように凍らせて従わせる。その力で、あの都を魔女だけの楽園に作り替えた。でも……それは偽りだった。人間も魔女も、感情を失って、まるで人形みたいに生きてた、と噂として聞いた」


 ローザが低くつぶやいた。


「……そんなこと、許されるはずがない」


 「うん……でも、あの時は誰も逆らえなかったみたい」


とミリィは震える声で続けた。


「わたし……逃げたの。リヴィエールから。あそこにいたら、わたしも“凍ってしまう”と思ったから……」


 エルネアが静かに問いかけた。


「それで……クロエ様が助けたの?」


 ミリィはうなずいた。


「あの時、倒れていたわたしを拾ってくれたのが、クロエ様だったの。クロエ様は言ってくれた。“心が凍るなんて、生きてる意味がないよ”って……それで、わたし……」


 彼女の目から、ぽろりと涙が落ちた。


「もう一度、心で笑える場所がほしいって、思ったの」


 健司は小さく頷く。


「ミリィ……ありがとう。教えてくれて」


 「でも、やっぱり、行くんですね?」


とミリィが問う。


 「うん。今度こそ……誰かの心が凍る世界を止めたいんだ」


 その言葉に、アウレリアが小さくうなずいた。


「アナスタシア……私も名前だけは知っている。あの家系は、魔女の中でも特殊だった。魔力の代わりに、感情を魔法の燃料にする。だから、感情を封じれば封じるほど、強くなる」


 「なんか、ややこしい魔法だなぁ……」


とルナがつぶやいた。


 「でも、ややこしいからこそ、健司が必要になる」


とカテリーナは言った。


 ソレイユも静かにうなずく。


「心を読んで、妄想を現実にする……その力なら、凍った心も、溶かせるかもしれない」


 「それに……」


とエルネアが笑った。


「健司は魔女にモテモテだからね」


 「え、関係あるかなそれ……」


と健司が苦笑する中、空は夕焼け色に染まり始めていた。


 リヴィエールはもうすぐそこ。


 水の都は、今も静かに、しかしどこか寒々しい気配を漂わせながら、彼らの訪れを待っていた――。


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