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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ミリィ編①ミリィの過去

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ミリィとアウレリア

朝の陽射しがやわらかく差し込む中、健司たちは静かにリヴィエールへと向けて歩き出した。ザサンを後にした者たちの顔には、それぞれの想いがあった。故郷を奪われ、取り戻し、そして新たな希望を求める――それは、誰もが心に抱く旅路の理由だった。


 「……それにしても、晴れてよかった」


 健司がそう呟いた時だった。


 「健司さんっ♪」


 右側からミリィがぴたりと寄り添ってきた。彼女の銀色の髪が陽光を反射して、健司の顔の近くでふわりと揺れた。


 「リヴィエールって、水が美味しい街なんですよね? 楽しみですぅ~」


 「……あ、ああ。らしいね」


 そして、左側からはアウレリアが並ぶ。


 「健司。あなたには、まだ話したいことがたくさんあるの」


 「そ、そうなの?」


 健司は左右を挟まれながら、気まずそうに前を見た。


 後ろを歩くカテリーナが、その様子を見て小さく眉をひそめる。


 「……ミリィ、近過ぎじゃないかしら?」


 すると、リセルもすかさず言葉を挟む。


 「アウレリアもよ。なによその距離感……健司が困ってるでしょ」


 「困ってる……?」


ミリィは無邪気に振り返った。


「健司さん、困ってますぅ?」


 健司は苦笑するしかなかった。


 「いや、別に困っては……」


 「ほらー♪ 困ってないって!」


 アウレリアはカテリーナに視線を向けて、わざとらしく微笑んだ。


 「嫉妬? カテリーナ。まさか、そんなことで……」


 「別に、嫉妬なんかしてないわ。ただ……その位置、邪魔よ」


 空気がぴりりと張りつめた。ルナとミイナが顔を見合わせ、小さく頷き合う。


 「こうなると思ったよ」


 「やっぱり健司さんって、罪な人ね……」


 そんな中、ソレイユは一人、空を見上げていた。


 「この空……昔と変わらない。でも、私の心は変わった。ありがとう、健司」


 健司はソレイユに気づき、そっと笑いかけた。アウレリアやミリィの対応に戸惑いながらも、どこか心が温まるような、そんな朝だった。


     *


 昼を過ぎた頃、道中の森にさしかかった。木々はざわめき、時おり風が通り抜けていく。リヴィエールまではあと数日かかる見込みだった。


 そんな中、ミリィがまた健司の腕をとった。


 「健司さん。手、握ってもいいですか?」


 「え? なんで?」


 「なんとなく……落ち着くんですぅ。ダメですか?」


 「い、いや……ダメってわけじゃ……」


 横から、ヴェリシアがため息をついた。


 「ミリィ、あなた。本気でそう言ってるの?」


 「本気も本気、超本気ですぅ♪」


 「……はあ」


 エルネアが口を開く。


 「人の心を読めるって、便利よね。ミリィが何を考えてるか、全部分かればいいのに」


 「読めないよ」


と健司が笑う。


「僕の魔法は、そういうのじゃない。ただ……分かるんだ。言葉にしなくても」


 「心理的に読むって、そういう意味なのね」


 「うん。ソレイユが、誰かに愛されたがっていることも。リセルが、子供のいる家庭に憧れていることも」


 リセルは顔を真っ赤にした。


 「な、なに言って……! ちょ、ちょっとだけ、思ってただけだし……!」


 ソレイユも、視線を逸らした。


 「そんなの……分かってたなら……もう……」


 カテリーナが健司をじっと見つめた。


 「なら、私の心も分かってるのかしら?」


 健司は、その視線を静かに受け止めた。


 「分かるよ。カテリーナは、みんなのことを本気で考えてる。誰よりも、優しい人だ」


 カテリーナは少しだけ目を伏せて、小さく微笑んだ。


 「……なら、いいわ」


     *


 その夜、森の中で焚き火を囲んでいた一行。火の明かりが皆の顔を赤く照らす。


 アウレリアが話を切り出した。


 「リヴィエール……昔、魔女の中でも水を操る一族が住んでいたの。だが、彼女たちは一夜にして姿を消した」


 「それって……なぜ?」


 「不明よ。ただ、人間と深い関係を築いた魔女たちだったという話もあるわ」


 ミイナが目を輝かせた。


 「なんだか、ロマンだね!」


 「けど、気をつけないとね」


とクロエ。


「今のリヴィエールには、誰もいないっていう話。理由も分かってないの」


 ルナが、焚き火に手をかざして呟いた。


 「だからこそ、行ってみる価値がある……」


 そのときだった。


 「健司さん♪ 寒くないですかぁ?」


 またしてもミリィがくっついてきた。


 「だ、大丈夫だよ」


 「ほんと? 私、暖かいですよぉ?」


 カテリーナが鋭く睨んだ。


 「……近いわね、ミリィ」


 「え~、そうですかぁ?」


 「……はあ」


 リセルが健司の反対側にそっと座った。


 「私も……隣、いい?」


 「もちろん」


 アウレリアは火を見つめながら、静かに呟いた。


 「私たちが変わっていくって、こういうことなのかもね」


 「変わるんじゃなくて、戻ってるだけかもよ」


とルナ。


 「何に?」


 「本当の自分に」


 風が吹き、火が揺れた。リヴィエールまでの道のりはまだ長いが、それぞれの心は少しずつ、確かなものに近づいていた。



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