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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ソレイユ編⑤血統

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水の都リヴィエール




ザサンの朝は静かだった。かつて魔女たちが支配していたこの街は、健司たちによって解放されたが、それでも人々が戻ってくる気配は薄い。沈黙の瓦礫の街に、風が水面をなでるように吹き抜けていた。


健司は一人、街の高台に立ち、遠くを見ていた。地平線の向こうに続く山と川、そしてその先にあるであろう、新たな場所。カテリーナ、エルネア、ソレイユ、リセル、ローザ、ミイナ、ルナ、そしてクロエ。仲間たちは皆、次の行き先を気にしながらも、健司の決断を待っていた。


背後から、足音が近づく。


「何を考えているの?」


声の主はルナだった。蒼い髪を風に揺らしながら、彼の隣に並ぶ。


「……次は、どこに行こうかって考えてるんだ」


「まだ旅を続けるの?」


「うん。この街は、魔女の影が残ってる。もちろん、アウレリアさんたちを責めるつもりはないけど――」


そこまで言って、ルナは首を振った。


「分かってるよ。健司は、私たち魔女に特別な感情を抱いていない。だからこそ、一緒に旅をしてくれる。嬉しいよ」


「ありがとう」


そのとき、背後からまた声がした。


「……ごめんなさい」


振り返ると、そこにはアウレリアが立っていた。彼女の表情はどこか寂しげだった。あの強さと威厳を備えた魔女が、まるで罪を背負う者のように視線を伏せていた。


「アウレリアさん……」


「ザサンを、私たちは長らく支配していた。気付かぬうちに、多くのものを奪っていた。あなたたちが旅立つ理由が、私のせいだとしたら――」


「違うんです」


健司はアウレリアの言葉を制した。


「この街が嫌いになったわけじゃない。ただ……何も知らない場所に行ってみたくなったんです。魔女の歴史も、戦いの記憶もないところへ」


その言葉に、アウレリアは目を見開いた。


「あなたは……本当に、特別な存在なのね」


「特別なんかじゃないです。ただ、旅をして、居場所を探してるだけです」


沈黙の中、別の声が割って入った。


「それなら――水の都リヴィエールに行ってみたら?」


クロエだった。水色のマントを翻しながら、彼女は軽やかに歩いてきた。


「リヴィエール?」


「かつてはとても栄えていた場所よ。でも、今はもう、人がいないとされてる。魔女の影響かは分からない。でもね、あそこの水は本当に美味しいの。命を潤すような清らかさがある」


「誰もいないの?」


「そう言われてる。でも、噂だからね。真実は、行ってみないと分からない」


「……いいかもね」


健司は静かに笑った。


「魔女の影も人の影もない、静かな街。もしそこに人がいたら、一緒に笑えるかもしれないし、いなければ、僕たちで街をつくることもできる」


「それって、また旅のはじまりだね」


ルナが笑った。柔らかな笑みだった。


健司は頷いた。


「うん、次の行き先だよ。今度は、水の都リヴィエール」


その言葉に、仲間たちも次々と集まってくる。


「リヴィエールか。懐かしい響きだわ」


リセルが言った。


「ねえ、それってどこにあるの?」


ミイナが聞く。


「ここから南西。ザサンからは近いよ。歩いても半日で着く」


クロエが答える。


「半日!? 近っ!」


ソレイユが驚いた。


「栄えていた場所なら、きっと何かあるわ。歴史とか……人の想いとか」


カテリーナが呟く。


「水……水かあ……」


ローザは静かに空を見上げた。


「私、闇の魔女だったけど、そういう静かな場所にも憧れてたんだ」


「じゃあ、みんなで行こう」


健司が手を差し出した。


誰よりも先にその手を取ったのは、エルネアだった。


「当然でしょ。あなたに導かれたんだから、最後までついていくわ」


次々に手が重なる。


カテリーナ、クロエ、ソレイユ、リセル、ルナ、ローザ、ミイナ、ミリィ、リーエ――そして、アウレリア達も。


彼女はそっと微笑みながら、その輪に加わった。


「……私たち、贖罪の旅になるかもしれないけれど。それでも、あなたたちとなら」


旅の輪ができた。


空は青く澄み渡り、遠くに水の気配が漂っている。


リヴィエール。かつて水と音楽と祝祭に満ちたその街が、今どんな姿をしているのか。健司たちはそれを確かめるため、新たな一歩を踏み出した。


水が奏でる物語が、いま始まろうとしている。


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