魔女の国と血統の影
静かに海風の吹くザサンの街。
一時の戦いと混乱を経て、ようやく街は穏やかさを取り戻しつつあった。
夕暮れ時。健司は、街の古い塔の屋上にアウレリア、カテリーナ、エルネア、リーネ、セレナ、ソレイユら幹部魔女たちを集めていた。
皆、すでに心を許し合った仲間たちだったが、今回ばかりはただの談笑ではなかった。
健司は、静かに口を開いた。
「アウレリアさん……ダリアさんたちを襲ったのは、誰なんですか?」
問いかけに、場の空気がわずかに張り詰める。
アウレリアは、少し目を伏せ、言葉を選ぶようにして答えた。
「……“魔女の国”よ。私たちのような小さな集団とは比較にならない、大きな勢力を持った場所。そこに属する、ある魔女たちに……やられたの」
「魔女の国……?」
「そう。名前は《カリスト》」
その言葉に、リーネが即座に反応した。
「……やつらか」
その声音は、怒りと軽蔑に満ちていた。
「カリスト……それって、血統主義の魔女が支配している国ですよね?」
とセレナが続ける。
「ええ。彼女たちは、“純粋な魔女の血を引いている者”だけを魔女と認め、それ以外を下に見る。人間との混血なんて、存在そのものを否定するほどの、徹底した主義を持ってる」
アウレリアは遠くを見つめながら話した。
「私は……昔、あの国にいたわ。だけど、血統が不明確って理由で、外に追い出された。ダリア、リーベル、ガーネット、ユミナも同じ」
「……だから、自分たちだけで街を作ろうとしたんですね」
健司は言った。アウレリアは静かに頷いた。
「そう。でも、カリストの魔女たちは、私たちの“成功”を許さなかった。“下等な血”の魔女が人間を従えている。そう思われたのね。だから、見せしめのように、ダリアたちは襲われた」
健司の拳が静かに握られた。
「……最低だ」
その声には怒りと悲しみが混ざっていた。
「有名なんですか、その国?」
「ええ」
とエルネアが答えた。
「古来からの血統を重視する魔女たちの集まり。その中でも特に過激な思想を持った“審問派”という派閥が権力を持っていて、異端や弱者を容赦なく排除する。私も一度だけ視察で行ったけど、正直、息が詰まりそうだったわ」
リーネが腕を組んで言う。
「正確には“魔女の理想郷”を掲げている。でもその実、血統以外を徹底的に否定する世界。“魔女の中の魔女”と呼ばれるものがいて、光魔法を使うらしい。」
セレナは苦い顔をして言った。
「昔、私の姉がその国に憧れて、修行に行ったことがあった。けど、帰ってきたときには……心がボロボロだった。『月の力は不純だ』なんて言われて、差別を受けたって」
健司はその言葉を噛み締めながら、問いかけた。
「……じゃあ、今後また、あの国の魔女たちが襲ってくる可能性もあるってことですね?」
アウレリアは真剣な表情で頷いた。
「ええ。でも、彼女たちは直接手を出すようなことはしないわ。まずは情報操作や混乱を仕掛けてくる。じわじわと精神を削るような、汚いやり方をしてくるはず」
リセルが、拳を握った。
「なら……次は私たちが守らないと。ここは、健司たちの街。誰にも傷つけさせない」
ソレイユが言う。
「この街はもう、誰かの犠牲の上に立つような場所にはしない。過去の私みたいに、何もできず太陽の下に縛られた誰かが出ないように……」
その言葉に、誰もが頷いた。
⸻
その夜、アウレリアはダリア、リーベル、ユミナ、ガーネットと焚き火を囲んで座っていた。
「……アウレリア様。わたし、もう少しだけ、ここにいてもいいですか?」
ユミナがぽつりと言った。
「なによ、今さら」
リーベルが冗談めかして笑う。
「でも、あの時より……ずっと心があったかいの」
ガーネットがそっと言葉を継ぐ。
アウレリアは、静かに彼女たちの声に耳を傾けながら、空を見上げた。
――魔女の国、カリスト。
あの国と再び相まみえる時は、そう遠くないかもしれない。
けれど――今度は一人じゃない。
仲間がいる。
人間さえも、手を差し伸べてくれた。
アウレリアは心の中で、かつての自分に語りかけた。
(弱さを憎む必要はない。
あの日、涙を流した私は――今、ようやく救われた)
夜空には、無数の星が瞬いていた。
その光の中に、彼女たちの未来がきっとあると、誰もが信じていた。
⸻




