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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ソレイユ編④1人

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ありがとう、奇跡の人

静かな風が吹いた。

ソレイユの街に長く垂れ込めていた黒い魔力が、ゆっくりと消えていく。


魔女アウレリアは、その場に跪いていた。涙を流したまま、肩を震わせていた。

だが次の瞬間、彼女の目の前に、柔らかな気配とともに、四人の魔女たちの姿があった。


「……ダリア……リーベル……ガーネット……ユミナ……」


その声は、まるで夢を確かめるように掠れていた。


「アウレリア様……」


先に声をかけたのはダリアだった。相変わらず、淡く儚い気配をまとっている。


「生きて……るの? 本当に……?」


アウレリアの震える手が、ダリアの肩に触れる。触れた瞬間、彼女の目から再び涙が零れた。


「……こんなこと……奇跡だわ……」


リーベルが微笑む。


「奇跡……って、あるんですね」


「信じてなかったくせに」


ガーネットがいつものように憎まれ口をたたいたが、目元には薄く涙がにじんでいた。


ユミナがそっとアウレリアに寄り添う。


「アウレリア様、わたしたち、あんな性格じゃなかったのにね……。ごめんなさい」


アウレリアは、四人を順に見渡した。そして、ふと笑った。


「そうだった……。あなたたち、あんな風に人を呪ったり、傷つけたりする子じゃなかった」


「うん」


「私たち……ずっと、あなたのそばにいたよ。魂としてだけど」


「知ってたわ」


アウレリアは小さく頷いた。


「だから……私は壊れなかった」


彼女は両腕で、ダリアたちをそっと抱きしめた。


静かな沈黙が降りた。優しい光が彼女たちを包む。


――それは、アウレリアが初めて“赦された”瞬間だった。



しばらくして。


アウレリアはゆっくりと立ち上がり、健司の方へと歩み寄る。


健司は、カテリーナ、クロエ、リセルたちの前に立っていた。

ソレイユ、ルナ、ミイナ、ヴェリシア、ローザ、エルネア……その全員が、アウレリアの次の言葉を待っていた。


その前にダリア達は、健司にある疑問を持った


「なぜ、敵にまで救いを与えるの?」


ダリアの問いに、健司は言った。


「敵かどうかは関係ない。生きているなら、手を差し伸べたい」


……その言葉は、魔法よりも熱かった。


アウレリアは、健司に深々と頭を下げた。


「……私の負けよ、健司」


健司は首を横に振った。


「勝ち負けじゃありません。信じてくれて、ありがとうございます」


アウレリアの口元が、わずかに緩んだ。


「なるほどね。アスフォルデの環が、あなたたちに敗れるわけだわ」


カテリーナが苦笑した。


「“敗れる”なんて言葉、あまり好きじゃないけどね」


「じゃあ……何て呼ぶの?」


「“託す”ってのはどう?」


アウレリアは一瞬目を見開き、それからまた笑った。


「……ふふ……カテリーナ、昔と変わらない」


「そうかい? 少しは変わったつもりだけどね。健司に出会ってから」


アウレリアは健司に目をやる。


「あなた、本当に変な人ね。……世界を救うなんてこと、簡単に言う。でも……あなたなら、本当にそれができるかもしれない」


健司は、そっと答えた。


「誰かを大切に思うこと。それが魔法になるんです。みなさんの魔法は、恐怖から生まれたかもしれません。でも、これからは――愛から生まれる魔法もあるってこと、証明していきます」


その言葉に、ガーネットが頬を染めながら小声で呟いた。


「……あんなこと言えるの、ズルいわね」


ユミナが笑いながら答える。


「でも……うれしいよ」


リーベルは、空を見上げて言った。


「こんな空……久しぶりに見た気がする」


ダリアはアウレリアの隣に寄り添い、静かに微笑んだ。


「生きてるって、こんなに温かいんですね」



その夜。


ザサンの街では、久しぶりに明かりがともされた。

人々も、魔女たちも、恐れずに話し合い、交わる光景が広がっていた。


健司は、ひとり空を見上げていた。


「……ありがとう、みんな」


その言葉に、カテリーナが隣に立つ。


「“ありがとう”って言うのは、私たちの方よ」


「そうかな?」


「当然。あなたがいなければ、誰も救われなかった」


健司は小さく笑った。


「……アウレリアさん、どうするのかな?」


「さぁね。しばらくは、ダリアたちとゆっくりするでしょう。でも……いずれ、また力になると思うよ」


カテリーナが言ったその言葉は、どこか嬉しそうだった。


その遠く、街の奥で、アウレリアがダリアたちと火を囲んで話しているのが見えた。


「あれが……奇跡なんだね」


健司の言葉に、カテリーナが頷いた。


「そう。あんたが起こした、“奇跡”だよ」


優しい風が、彼らの髪をなでた。


そして、夜空には無数の星が瞬いていた。


それは、まるですべての魔女たちの新たな未来を祝福するように――。


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