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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ソレイユ編④1人

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思考は現実になる

ザサンの街に、沈黙が落ちた。


空を覆っていた雲が、ゆっくりと割れてゆく。だがそこに差す陽の光は、まるで誰もを試すような残酷な輝きを放っていた。


アウレリア――この街を支配していた最後の魔女が、静かに現れた。


「……ここまで来るとは思わなかったわ」


彼女は、捕らえられたダリア、リーベル、ガーネット、ユミナの姿を一瞥し、ゆっくりと手を上げた。


「でも……あなたたちに、絶望を見せてあげる」


淡い光が彼女の指先から放たれた瞬間――


「やめなさい!」


と叫んだのはソレイユだったが、間に合わなかった。


光が4人の魔女たちに触れると、彼女たちはゆっくりと光の粒子へと変わっていった。


「……っ!!」


リセルが駆け寄ろうとしたが、既に遅かった。

ダリアの姿が消え、リーベルが微笑みながら霧散し、ガーネットが静かに目を閉じ、ユミナが涙を浮かべたまま光となって消えていく。


「うそ……うそでしょ……?」


ローザが膝をついた。ミイナは目を押さえて嗚咽し、ルナは凍ったように動けなかった。


アウレリアは静かに言った。


「彼女たちは、最初からここにはいなかったの。あなたたちが見ていたのは、すべて幻術よ」


「まさか……」


とカテリーナが呟く。


「……そんな、バカな……!」


とリセルが吠えた。


「私は、独りだったのよ。あの日から、ずっと……!」


アウレリアの目から、ひとすじの涙が流れた。


「彼女たちは、敵によって殺された。私は、それを……受け入れられなかった。だから、彼女たちの幻を作って、自分を騙していたのよ」


「……私も、本当は……誰かに傍にいてほしかった」

崩れた幻術の中、アウレリアはポツリと呟いた。

その声は、ずっと誰にも届かなかった幼い少女のようだった。


その場にいた誰もが、言葉を失った。


だが――


「……違うよ」


静かな声が響いた。


健司だった。


「アウレリアさん……それは、“現実”じゃない」


アウレリアが顔を上げる。健司の瞳は、どこまでもまっすぐだった。


「君が見ていたのは、“可能性”なんだ。たしかに幻だったかもしれない。でもね、それを“現実”にする力が、僕にはあるんだよ」


「……何を言っているの?」


アウレリアが苦笑したような顔をした。


「思考は現実になる。僕の魔法は――妄想を現実にする魔法なんだ」


その瞬間、健司の周囲に光が舞い上がった。彼の足元に魔法陣が浮かび、柔らかな光が彼の背を包み込む。


「そんな……魔法、存在するはずが……!」


アウレリアが後ずさった。


だが――


空に、ひとつ、ふたつと光の粒子が舞い始めた。

それは、さっきアウレリアが消したものと同じ、けれど逆に集まってくる。


「……う、うそ……」


カテリーナが、空を仰いだ。


集まった光の中から、最初に現れたのは――


「……リーベル!」


ローザが叫んだ。


次に、ユミナがゆっくりと姿を現す。


「……ここ、どこ……?」


「ユミナ……!」


リセルが駆け寄る。


続いて、ダリア、ガーネット――すべての魔女たちが、元の姿でそこに立っていた。


「戻った……」


クロエが呟いた。


「そんな……なんで……どうして……?」


アウレリアの膝が崩れ落ちた。


「……ありえない……そんな魔法……」


健司は、静かに言った。


「人の願いを、妄想と切り捨てないでください。それは、時に現実よりも強い希望になるんです」


アウレリアの瞳に、混乱、怒り、絶望、そして……小さな安堵のような色が交差していた。


「……あなたは……なぜ……そんな……」


「だって、君たちは“魔女”だろう? 誰よりも、“奇跡”を信じられる存在じゃないか」


アウレリアの肩が震えた。


そして――


「……うわああああああああああああああっ!!」


ついに感情があふれ、アウレリアはその場に崩れ落ちて、声をあげて泣き出した。


それは、誰にも見せなかった“女性”の涙だった。


魔女たちは、誰もその涙を止めなかった。


彼女の痛みもまた、かつては誰かと共に生きた証だったから。


カテリーナが、そっと近づいて彼女の背に手を置いた。


「遅かったのよ、私たち……。もっと早く、あなたの心に気づいてあげられたら……」


「うう……うぅぅ……」


涙は、止まらなかった。


だけど、その涙の中に――確かに、絶望とは違う何かが宿っていた。


健司は、アウレリアを見ていた。

彼女が戻ってきたこと、彼女の中に“まだ希望がある”ことを。


そして、優しく呟いた。


「おかえりなさい、アウレリアさん」


その言葉に、アウレリアは泣きながら、小さく頷いたのだった。


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