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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ソレイユ編③襲撃

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孤立の魔法、迫る闇の手

「……ソレイユを、狙うわ」


アウレリアの声は、深く静かだった。だが、その一言に込められた殺意と支配欲は、室内に集まった魔女たちの背筋を確かに凍らせた。


場所は、太陽の街ザサンの中央塔。かつて市議会が開かれていた石造りの建物は、いまやアウレリアの根城と化していた。窓から差し込む光さえも、どこか灰色に濁っているように見えた。


「奴らは群れている。力を合わせれば、確かに厄介。しかし――」


アウレリアは、机に置かれた街の地図に指を走らせた。健司たちの滞在している西端の一軒家が、赤い円で囲まれている。


「一人ずつ、孤立させれば恐怖は倍加し、信頼は崩れ、心が壊れていく」


その言葉に、周囲にいた四人の魔女がゆっくりと膝をついた。


「命を削る“ダリア”」

「不安を広げる“リーベル”」

「衝動を焚きつける“ガーネット”」

「偽りの団結を生む“ユミナ”」


それぞれの魔女が名乗りを上げ、アウレリアの前で頭を垂れた。


「命令を」


ダリアが先に口を開いた。彼女の瞳は虚ろで、常に人の生気を吸うような気配を纏っていた。


「ソレイユの身体を蝕め。磔の傷が癒えても、心には影が残る。そこを突くのよ」


「心得ました」


アウレリアは続けた。


「リーベル、不安を撒きなさい。彼らの絆を疑念で濁らせなさい」


「どんな未来も、不安で覆ってあげるわ」


リーベルは柔らかな微笑を浮かべたが、その背後には冷たい計算が滲んでいた。


「ガーネット。怒りを煽れ。争いの種は心の奥に潜んでいる。そこに火を点けるのよ」


「任せといて。怒りは伝染するからね」


彼女は爆発魔法の使い手でもあり、都市破壊すら可能な存在だった。


「ユミナ。偽りの希望を囁き、彼らを惑わせなさい」


「ふふ……誰よりも優しく、甘く囁いてあげる」


アウレリアは、最後に視線を鋭くさせた。


「――そして、“健司”」


その名を口にした瞬間、部屋の空気が凍りついた。敵でありながら、彼の存在は全ての魔女に一種の恐れと好奇心を抱かせていた。


「私が直接、迎えに行こうと思ったが……」


アウレリアはゆっくりと椅子に座り、脚を組んだ。


「あなたたちが、彼を“連れてきなさい”」


沈黙の中に、命令の重さがずっしりと落ちた。


「彼は“希望”の象徴。だからこそ、それを奪えば、他の者たちは崩れる」


ガーネットが少し口を尖らせた。


「殺してもいいの?」


アウレリアは首を横に振った。


「殺すのではない。壊すのでもない。“希望のまま”、連れてきなさい」


「……?」


「そのままにしておけば、彼はいつか“こちら側”に来る。誰かを救えなかった絶望を味わえば、彼の光は闇に落ちる」


その頃――


ソレイユの家では、健司たちが朝食を囲んでいた。


「……昨夜、町の中心に光が見えた」


リセルが報告した。


「何か、動きがある」


「アウレリアだな」


ローザは小さく頷いた。


「この街の支配者。相当、手強いわよ」


健司は静かにパンを口に運びながらも、仲間たちの顔を見ていた。


ルナとミイナは無邪気に話している。リセルとローザは警戒心を緩めていない。クロエとヴェリシア、そしてソレイユも、どこか緊張を隠しきれていなかった。


「……このまま、全員一緒に動くのは難しいかもしれない」


健司は立ち上がって言った。


「ソレイユさんの家を拠点にして、周囲を少しずつ調べよう」


「分担するの?」


クロエが眉をひそめた。


「危ないってことは分かってる。けど、街の状況を把握しなきゃ、逆にいつ襲われるか分からない」


「それは……確かに」


ヴェリシアも渋々ながら賛成した。


健司は、仲間を二人一組で行動させる案を出した。


「ソレイユさんとリセル、ローザとヴェリシア、ルナとミイナ、僕とクロエ」


「なんで最後、そうなるの」


クロエが小さく呟いたが、誰も異論はなかった。


「気をつけて、無理はしないように。何かあったら、すぐ戻ること」


健司の言葉に、それぞれが頷いた。


……しかし、それこそがアウレリアの策略だった。


午後、街の南部。


ソレイユとリセルは、古びた図書館に入っていた。


「ここ、昔来たことがある。まだ、残ってたんだ……」


ソレイユの声に、リセルは笑みを浮かべた。


「ソレイユ、昔のことを思い出してる?」


「うん。……でも、少し胸が痛い。ここでも、本を読んでいたの。磔にされる前の日も……」


そのとき――


スッ――と空気が冷たくなった。


「……誰か、いる」


リセルが即座に気づいた。


その瞬間、書架の間から人影が現れた。


「こんにちは、ソレイユ」


そこに立っていたのは――“命を奪う魔女・ダリア”。


「懐かしい場所で、再会ね」


――その頃、健司たちの耳には届かない、静かな崩壊が、始まっていた。


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