表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ソレイユ編①太陽

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/165

重なる記憶、揺れる決意

風が止んでいた。


いや、吹いているはずなのに、体に触れる感覚がない。鳥のさえずりも、波の音も、すべてが何かに覆い隠されているような感覚。健司たちが太陽の街ザサンの門をくぐった瞬間、それは一層、はっきりと彼らの肌を刺した。


「……空気が、変だ」

クロエが立ち止まり、周囲を見渡した。彼女の魔力の感覚が警鐘を鳴らしている。


「まるで、息をするだけで力が奪われていくような……」


リセルが低く呟いた。彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。


「これ……魔法だ」


ローザが真顔で言った。


「町全体に仕掛けられた、大規模な抑圧魔法。人々の生命力や感情を少しずつ削るような……嫌らしいタイプね」


ソレイユは震える手で胸元を握りしめた。


「……あの時と同じ……」


彼女の声は小さく、消え入りそうだった。


「私が……あの場所に磔にされたときの、空気と同じ。息をしているだけで、自分が否定されていくような感覚。光さえ、遠ざかっていく……そんな感じ」


健司は彼女の手を握った。


「ソレイユさん、大丈夫だよ。今度は僕たちが一緒にいるから」


彼のその言葉に、ソレイユは小さく頷いた。


「……ありがとう、健司」


ミイナが辺りを見回した。


「でも、この街……人がいないね」


「いるよ」


ルナが囁いた。


「でも、出てこないだけ。家の中で……魔女の目を恐れてる」


街の中は静かすぎた。開かれた店はなく、窓は全て閉じられ、道行く人の姿もない。まるで廃墟のようなその光景が、健司たちの胸を締め付けた。


「まずは……ソレイユさんの家に行こう」


健司が言った。


「そこに行けば、何か分かるかもしれない」


ソレイユの家は、街の西の外れにあった。


レンガ造りの二階建ての建物。かつて彼女が家族と過ごした、思い出の詰まった場所。しかし今は、草は伸び放題で、窓には板が打ちつけられていた。


「……戻ってきたんだ」


ソレイユは小さく呟いた。


「あの日、逃げるようにして出て行ってから……もう、何年も……」


彼女は鍵の隠し場所を探し出し、玄関を開けた。埃の匂いが漂う中、懐かしい景色がそこにあった。かつて弟と遊んだ机、母が育てていた観葉植物、そして……父の書斎。


「中に入って休もう」


健司はそっと背中を押した。


「ここは、ソレイユさんの家なんだから」


リセルとローザが周囲を警戒する中、クロエは窓の外を見ていた。


「見られているわね」


彼女は低く言った。


「この街の支配者……気配を隠してるけど、私たちの動きを監視してる」


「やっぱり来てるんだな」


ヴェリシアがソファに座りながら言った。


「アウレリア……あの女がこの街を支配してるって噂、間違いなさそうね」


「アウレリア……」


ソレイユが顔を伏せた。


「知ってる……街の議会に出入りしてた魔女。いつの間にかこの街のすべてを握っていた」


「この家に来たことで、目をつけられたな」


リセルが窓の外を見ながら言った。


「でもそれでいい。どうせいずれ対峙する相手だ」


夜になり、健司は屋根に出て夜風を感じていた。空には星が見えなかった。雲が出ているわけでもないのに、何かが光を遮っているようだった。


「……この街全体が、囚われているような感じだな」


彼はふと、後ろを振り返った。


ソレイユが立っていた。彼の隣に座り、ぽつりと話し始めた。


「……健司くん。私、この家で、家族と普通に暮らしてたんだ。太陽の光が苦手で、本を読むのが好きで、引っ込み思案だったけど……でも、それなりに幸せだった」


「うん」


「ある日、街で“魔女がいる”って騒ぎが起きたの。何人かの子どもが、突然泣き出したり、幻覚を見たり。……それで、疑いが私に向けられた」


ソレイユの声は震えていた。


「『あの子、日光を避けてる』とか、『不気味な本を読んでる』とか、そんな噂が広まって……気がついたら、“証明”のために太陽の下に磔にされていた」


健司は言葉が出なかった。


「……何時間も、暑くて、痛くて、苦しくて。でも、一番怖かったのは……誰も助けてくれなかったこと」


ソレイユの目から、静かに涙がこぼれた。


「だから、私……もうこの街を見たくなかった。戻ってきたくなかった。でも……今は違う。みんながいて、健司くんがいて、少しだけ勇気が出てきたの」


健司は彼女の手を取った。


「ありがとう、話してくれて。でも、もうひとりじゃない。僕たちが、ソレイユさんの味方だから」


翌朝。


街の中心に向けて、黒いフードを被った数人の魔女たちが歩いていた。その中心には、銀髪の女性――アウレリア。


彼女はソレイユの家を遠くから見下ろして、冷たい笑みを浮かべていた。


「さあ、“夢想家”たちよ。ようこそ、現実の檻へ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ