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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ソレイユ編①太陽

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支配の街と不穏な噂


ソレイユの故郷 太陽の町 ザサン――それはかつて、海沿いに開かれた美しい街だった。


青く広がる海と、石畳の街道。オレンジの屋根が連なるその街は、港町として栄えていたが、今では違っていた。


街の空気は重く、笑い声は消え、商人たちは目を伏せて言葉少なに取引をしていた。人々の歩みは早く、通りすがる者に視線を向けることすら躊躇するような、奇妙な緊張感が張りつめていた。


その理由は、街の中央――かつて市庁舎だった建物が、“魔女たちの本拠”として使われているからだった。


大理石の床に高い天井。そこには、黒と紅を基調としたドレスをまとった魔女たちが集っていた。


その中心に座るのは、一人の女性。


緩やかに波打つ銀髪と、まるで氷のような青い瞳。彼女の名は――アウレリア。


「……なるほど、アスフォルデの環が壊滅したというのは、本当のようね」


そう呟いた彼女の指には、黒曜石の指輪がはめられていた。ゆっくりとそれを回しながら、彼女は目を閉じる。


「それに関わったという男、健司……名前も顔も知らない男が、私の計画に入り込んできた。これは、興味深いわ」


周囲の魔女たちがざわつく。


「ですがアウレリア様、アスフォルデの環は強大な組織でした。その中心人物であるカテリーナをも味方に引き込んだというのは、ただ事ではありません」


「ええ、南の村ももう少しで堕ちるところだったと聞いています。まさかあの村が踏みとどまるなんて……」


「まるで、人間と魔女が手を取り合ったかのように……」


アウレリアは目を開いた。冷たい笑みを浮かべながら、ささやく。


「そう。――幻想よ」


その言葉に、他の魔女たちは息を呑んだ。


「人間と魔女は、決して交わらない。私たちを恐れ、虐げ、傷つけてきたのは誰? その傷を、癒しきれると思っているの? 甘いわ。とても甘い」


その声には、静かな怒りが滲んでいた。


「健司……彼が何を望もうと、何を語ろうと、“支配”の前では無力。私たちがこの街を掌握しているように。感情も思想も、支配できる」


ひとりの魔女が前に出る。


「アウレリア様。お命じください。健司という男を捕らえましょうか?」


「……いいえ」


アウレリアは立ち上がり、窓辺に歩み寄る。そこからは、海が見える。どこまでも続く、果てなき青。


「彼がここまで来るのは、時間の問題。ソレイユという魔女が彼の側にいる限り、必ず故郷を訪れる」


「では、迎え撃つのですね?」


「違うわ。――歓迎してあげるの」


その言葉に、空気が凍った。


「歓迎?」


「ええ。この街がどうなったかを、その目で見せてあげるの。理想と現実の境界線を、見せつけるのよ。彼の“愛”とやらが、どこまで通じるのか……見ものだわ」


そう言って、アウレリアはわずかに笑った。


一方その頃――


健司たちは、南の村を出発して海沿いの街を目指していた。道中、ソレイユの体調に合わせて日陰を探しながらの旅だったが、それでもソレイユは笑っていた。


「大丈夫。……少しずつ慣れてきた。太陽の光が怖いけど、皆といると不思議と耐えられるの」


ミイナがうなずく。


「仲間ってすごいよね。魔法より、ずっとすごい」


ルナも笑顔で続けた。


「でも、クロエお姉ちゃんの料理が一番の魔法だと思う!」


「え? あ、ありがとう……」


クロエは照れ隠しのように髪をかきあげたが、その頬は赤く染まっていた。


健司は皆を見渡し、静かに思った。


「きっと、何かある」


ソレイユが受けた仕打ちは、たった一人の過ちではない。あれほどの酷い行為には、組織的な意図があった可能性が高い。だからこそ、アウレリアという存在を知ってからは、この街の様子が気になっていた。


ソレイユのためにも。


真実を、確かめるためにも。


そして――新たな悲劇を繰り返させないためにも。


やがて、海の匂いが風に混じり始めた。


崖の上から、街の光が見えた。かつては港の明かりで賑わっていたはずのその街は、どこか沈んだ色をしていた。


「ここが……ソレイユの街」


リセルがつぶやいた。


「思ったより近かったのね。……けど、空気が重い」


ローザは眉をひそめた。


「これは、魔法の気配。かなり強いのが、街を包んでる。抑圧するような、静かな支配の力よ」


ソレイユは震える手で、胸元を握った。


「……あの時の感じと同じ。まだ、終わってなかったんだ」


健司はソレイユの肩にそっと手を置いた。


「一緒に行こう、ソレイユさん。真実を見に行こう。そして、変えよう。この街の未来を」


ソレイユは、目に涙を浮かべながら、力強くうなずいた。


「うん……今度は、逃げない」


そして、夜の帳が下りる頃――


アウレリアは静かに立ち上がり、部下たちに命じた。


「さあ、準備をなさい。舞台は整った。観客も、主役も。――次は、幕を上げるだけ」


その声は、まるで劇の開演を告げる女優のように、どこまでも冷たく、美しかった。


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