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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
ソレイユ編①太陽

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信じる強さ

朝。


小さな丘のふもとで、鳥のさえずりと共に健司たちは目を覚ました。今日は風も穏やかで、空はすっきりと晴れわたっていた。


焚き火の残り火に手をかざしながら、健司はクロエの言葉を思い出していた。


“魔女の混乱を操る集団がいる”


それがソレイユの悲劇の原因である可能性――いや、そうであってほしい。人間の悪意ではなく、何者かの意図的な行動だったのならば、まだ救いはある。


そして、放っておくわけにはいかなかった。


朝食を簡単に済ませたあと、健司は皆を集めた。


「みんな、ちょっと聞いてほしいことがある」


その声に、全員が顔を向ける。


「昨夜、クロエさんから聞いたんだ。ソレイユさんの街で起きた“磔”の事件……それは、単なる偶然でも、町の人の狂気でもないかもしれないって」


ソレイユが目を伏せた。


「……そうだったら、どれだけ楽だったか」


「その事件の裏に、魔女の集団がいた可能性があるんだ」


健司の言葉に、空気が引き締まった。


「彼女たちは人間の街を混乱させて、支配することを目的としてる。水を濁らせたり、病を広めたりして、“魔女が原因だ”と騒ぎ立てる……そんな策略で、人間と魔女の間に不信と恐怖を生み出す」


ルナとミイナは顔を見合わせて、不安げに言った。


「そんな魔女がいるの?」


「信じられないけど……本当なら許せないよ」


クロエは静かにうなずいた。


「たしかにいるわ。私の仲間も、同じ手口で殺された」


健司は重くうなずき、皆を見回した。


「それで……もし心当たりがある人がいれば、教えてほしい。どんな些細なことでも構わない」


その言葉に応えたのは、ヴェリシアだった。


焚き火の残り火に目を落としながら、ゆっくりと話し始めた。


「……昔、一度だけ出会ったことがある」


「え?」


「健司くんが言ってたような、混乱を利用する魔女たち。すべての手段を正当化し、どんな犠牲も必要なものとして割り切る連中よ」


その語り口は静かだったが、どこか冷ややかな怒りが込められていた。


「彼女たちは、人間と魔女を両方利用する。情報を操作し、感情を誘導し、意図的に争いを起こす。まるで舞台の演出家みたいに……」


「……そのリーダーは、どんな人なんですか?」


健司が問う。


ヴェリシアは少し考えたあと、重々しく答えた。


「――実力なら、間違いなくトップ20に入る魔女よ。名前は……“アウレリア”。策略と幻術、心理操作のスペシャリスト。表には出てこないけど、裏で色んな事件に関わってるって噂されてる」


「アウレリア……」


クロエが目を細めた。


「確かに聞いたことがある。姿を見た者が少ない、伝説のような存在」


ソレイユも小さく頷いた。


「なら、私を磔にしたのも、その魔女の差し金って可能性があるんだね」


健司は拳を握った。


「やっぱり……人間の悪意だけじゃない。きっと裏で誰かが操っていたんだ」


リセルが口を開いた。


「でも、そのアウレリアって魔女に立ち向かうのは簡単じゃない。戦いじゃなく、“心”をねじ曲げてくるんだから」


ローザも真剣な表情でうなずいた。


「少しでも心に迷いがあると、つけこまれる。感情を操る魔女に勝つには、自分を信じ抜く覚悟が必要よ」


健司はそれを聞いて、小さく頷いたあと、こう言った。


「大丈夫。僕には、みんながいる。……それに、カテリーナさんもね」


カテリーナは少し驚いた顔をして、からかうように笑った。


「私? まあ、実力でいえばトップ10だけど」


「……でもそれだけじゃないよ。アスフォルデの環の皆は、“まっすぐ”なんだ。たとえ敵でも、納得しなきゃ戦わない。信じるものに嘘をつかない。――だから、安心できる」


その言葉に、仲間たちが静かに目を伏せたり、微笑んだりした。


エルネアがふと呟いた。


「……まっすぐ、か。そんなふうに言われたの、いつ以来だろう」


ソレイユも笑った。


「健司くん、本当に言葉の魔法を使う人ね。だからこそ、私たちは少しずつ変われてるんだと思う」


健司は照れたように頬をかいた。


「ありがとう。でも、これからが本番だから。アウレリアって魔女を放っておけない。……できれば、救いたいとも思ってる」


その言葉に、皆が驚いたような、呆れたような顔をした。


「健司……あんたって、本当に……」


「バカなのか優しいのか分からないわ」


「……でも、それでこそ私たちのリーダーよ」


「え? リーダーなんて言ってないけど……」


「もう決まってるのよ、空気で」


クロエが淡く笑った。


「……じゃあ、リーダー。次の目的地はどうするの?」


健司は空を見上げながら、はっきりと言った。


「まずはソレイユさんの故郷の街を目指そう。何が起きたのか、確かめなきゃいけない。そして、アウレリアの手がそこにあるなら――止めよう。みんなで、力を合わせて」


その夜。


小さな星がまたたく空の下、魔女たちは火を囲んで語り合っていた。


健司は、少し離れた場所でひとり考えていた。


“争いを操る魔女”


“感情を利用する魔女”


そんな存在に、愛を持って立ち向かえるのだろうか。


――いや、きっとできる。


彼には、仲間がいる。彼女たちはもう、恐れを超えて進もうとしている。


健司は小さく拳を握った。


「アウレリアさん、あなたがどんな魔女でも……僕は、あなたを見捨てたりしない」


月が、そんな彼の決意を優しく照らしていた。


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