女の戦、始まる朝
朝日が静かに差し込む草原に、鳥のさえずりと穏やかな風が吹き抜けていた。
健司はまどろみの中で目を覚ました。ゆっくりと伸びをしようとしたとき、何かが腕にまとわりついているのを感じた。
「……ん?」
目を開けると、そこにはソレイユの金色の髪と、穏やかな寝顔があった。
彼女の顔がすぐ目の前にある。
しかも、健司の腕にピッタリと抱きつくようにして、すやすやと眠っていた。
「ソ、ソレイユさん!? え、あの……!?」
健司が戸惑いながら声をかけると、ソレイユはゆっくりと目を開け、ふわりと微笑んだ。
「……おはよう、健司」
「あ、おはようございます……っ」
「安心して眠れるの。あなたのそばにいると、太陽も怖くなくなるから」
健司は言葉を失った。
その言葉は優しく、どこか切なくて、彼の胸に静かに響いた。
けれどその和やかな空気は、すぐに崩れた。
「……ほう」
ぴしり、と冷たい空気が流れる。
健司が振り返ると、そこにはカテリーナとクロエが立っていた。
しかも、どちらも笑ってはいるが、その目は全く笑っていなかった。
「……朝から元気そうね、ソレイユ?」
「健司の腕で、ぐっすり眠れたなんて。ふぅん……へぇ……なるほどねぇ?」
カテリーナとクロエ、両名からにじみ出る冷気に、空気が凍りついた。
「ちょ、ちょっと待ってください、これは誤解で……!」
健司が必死に弁明しようとするが、ソレイユは腕を離さず、むしろしっかりと抱きついた。
「誤解じゃないよ。私は、ちゃんと好きって言えるよ。あなたに救われたから」
その言葉に、クロエの肩がぴくりと震えた。
「……健司」
「は、はい……」
「あなた、ずいぶんとモテるのね」
「いやいやいや! これは本当に、ただ……っ」
「ソレイユ」
カテリーナがぬるりと前に出た。
「……一番誰が強いか、勝負してみない?」
ソレイユが健司の腕から離れ、ゆっくりと立ち上がった。
その金色の瞳に、確かな闘志が宿る。
「……いいですね、カテリーナ様。ちょうど、私も一度、はっきりさせておきたかった」
「ルールは?」
「一対一。魔法あり。手加減なし」
リセルが小声でつぶやいた。
「始まったわね、女の戦争が……」
ルナとミイナは
「がんばれー」
と声援を送りつつも、どこか楽しそうだ。
クロエは腕を組んで、一歩後ろに下がった。
「私は出ないわ。けど……勝手にすれば?」
その目は静かに怒っていた。
•
場所は、少し開けた草原。
太陽は高く昇り、まるでソレイユを応援するかのように空から照りつけていた。
「準備はいいかしら?」とカテリーナ。
「もちろん」とソレイユ。
二人は距離をとり、対峙する。
エルネアがタイムキーパーを務め、リーネとセレナが後方支援のため控える。
「では、始め!」
その瞬間、地が震え、空気が揺れた。
カテリーナが「ブラックスピア」を放つ。黒い槍が地を割ってソレイユを貫こうとする。
だがソレイユは片手で太陽のエネルギーを集め、黄金の円盾を展開した。
「サンガード!」
バァンッ!
強烈な衝突音が空気を裂く。
「やるじゃない」とカテリーナ。
「あなたもね」とソレイユ。
次の瞬間、二人は同時に魔法を放った。
「ブラックダンス!」
「サンフレア!」
闇と太陽の光がぶつかり合い、地面が大きく揺れる。
爆風が草をなぎ倒し、周囲の木々を揺らす。
だが、二人の表情には笑みすら浮かんでいた。
「面白いわね、ソレイユ。強い」
「カテリーナ様こそ、全力じゃないでしょ?」
「ふふ……見抜いたの? じゃあ、もう一つ行くわ」
カテリーナが空に指を向けた。
「ブラックノヴァ!」
闇の星が天空に浮かび、周囲の光を吸収し始める。
その瞬間、ソレイユは手を天にかざした。
「……太陽よ、我が胸に再び」
彼女の体が光に包まれ、純粋な光の柱が地から天へと昇った。
「ソーラー・アセンション!」
黒と金がぶつかり、世界が白く染まるような光が溢れた。
誰もが目を細め、風に吹かれながら、その結果を見守った。
やがて光が収まり、二人は疲れたように立っていた。
「……引き分けね」
「……そうね」
ソレイユとカテリーナは、お互いに笑った。
そこには確かな敬意があった。
•
夕方、焚き火の前。
健司はため息をつきながら、リセルに愚痴をこぼしていた。
「女の人って、怖いですね……」
リセルは頷いた。
「魔女は特にね。でも、だからこそ面白いとも言えるわ」
その横で、ソレイユとカテリーナが再び言い合っていた。
「でも、あの一撃、私の方が押してたですよね?」
「は? あなたの太陽、ちょっと過保護すぎるのよ」
エルネアがぽつりと呟いた。
「……健司、本当に気をつけなさいね」
そして、クロエは火を見つめながら、静かに口を開いた。
「……本気を出してないのは、私だけ。次は私の番ね」
健司は心の中で小さく叫んだ。
(ほんとに、気が休まらない……!)




