想いと距離
新たな旅の道は、緑に包まれたなだらかな丘陵地帯へと続いていた。
かつて滞在していた南の村を離れ、健司たちは、魔女と人が共に暮らせる「本当の居場所」を求めて歩みを進めていた。
朝露に濡れた草の香りが、ほんのりと風に乗って流れてくる。
そんな道の途中――健司は、隣を歩くミイナとルナに笑顔を向けた。
「いい村だったよね。静かで、自然も多くて。……でも、僕たちには、もっとふさわしい場所がきっとあるさ」
ミイナは、まっすぐな目で健司を見上げた。
「……私は、健司が一緒にいればどこでもいいよ」
ルナも頷きながら、笑顔を浮かべた。
「うん! 場所じゃなくて、一緒にいる人が大事だもん」
健司は、そんな二人のまっすぐな思いに、少しだけ照れながらも優しく笑った。
「ありがとう。……よし、じゃあ、もっと素敵な場所を探そう」
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一方、その少し後ろを歩いていたカテリーナは、少し沈んだ顔で空を仰いでいた。
「……やっぱり、私はあの村に迷惑をかけたな」
ぽつりと呟くその言葉は、風に紛れて消えていきそうだった。
彼女は強かった。誰よりも。けれど、誰よりも心が繊細だった。
――もう少し、ゆっくり変われればよかった。
そう思っていたその時。
「……あのさ」
突然、健司が後ろを振り返り、立ち止まった。
「?」
カテリーナが顔を上げると、健司が手を差し伸べた。
「一緒に、歩こう」
その言葉に、カテリーナは少しだけ驚いた顔を見せたが、やがて微笑んで、その手を取った。
「……遠慮しないよ?」
「うん、遠慮しないで」
そのまま、カテリーナは健司の左隣にぴったりと体を寄せて並んで歩いた。
肩と肩が触れるほどの距離。
まるで――恋人のように。
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それを後ろから見ていたエルネアは、目を細めて軽く咳払いをした。
「……ちょっと、近すぎるんじゃないかしら」
その言葉に、ソレイユとセレナ、リーネまでもが同時にうなずいた。
セレナがそっと言う。
「えっと……付き合ってるの? あの二人って」
リーネがじっと観察しながら呟く。
「……脈ありどころか、これはもう付き合ってると見ていいレベルじゃない?」
エルネアは冷静なようで、声に微かな棘を含ませて言った。
「公衆の面前で、あの距離感はどうなの? いや、別にいいんだけど、目のやり場に困るわね……」
その時、カテリーナがぴたりと足を止め、ふっと振り返った。
「なに? 文句でもあるの?」
「文句ってわけじゃないけど……あの、近いよね。普通に」
すると、カテリーナは堂々とした態度で返した。
「普通よ。恋人同士だったら、これくらいするじゃん?」
「――っ!」
エルネアが息を飲む。
リーネは咳き込み
ソレイユは
「あらら……」
と小さく目を伏せ、セレナは耳まで真っ赤になった。
ミイナが
「え?」
と呟き、
ルナは健司をじっと見つめた。
「ねえ、けんじ? 恋人って、誰のこと?」
「えっ、えっと、それは……」
健司は慌てて言葉を濁した。
「いや、あの、まだそこまでは……その……」
カテリーナは口元を緩め、からかうように健司の腕をぎゅっと抱いた。
「いいじゃない。こうしてると、落ち着くし」
「か、カテリーナさん……」
「さん、いらないって。カテリーナでいいよ」
周囲の女性陣は、思わず声を飲み込んだ。
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その後、ひとときの沈黙のあと――セレナがぼそりと呟いた。
「……なんか、負けた気がする」
ソレイユが静かに応じる。
「油断してた。あのカテリーナ様が、そんな……」
リーネが言葉を濁しながらも、視線を健司に向けていた。
「……あれだけのことをしておいて、ちゃっかり愛も掴むなんて……ずるい」
ヴェリシアが微笑むように言った。
「でも、カテリーナ様……今、すごく幸せそう」
ローザは少し照れくさそうに、ぽそっと言った。
「私も……一回、告白してみようかな……」
その言葉に、一瞬ざわつく幹部たち。
リセルは口元を引き結び、健司をじっと見つめていた。
そして、ふっと笑って言った。
「ま、誰が隣に立っても、私は私。あんたが選ぶなら、それでいい」
健司は皆の視線に気づきつつも、あえてそれには答えず、ただ前を見ていた。
「……本当に、ありがとう」
小さな声だったが、それは確かに全員に届いていた。
•
陽は傾き始めていた。
金色の光が木々を染め、草原に優しい影を落としている。
誰かが前を歩き、誰かが隣に並び、誰かが後ろから見守る。
そのすべてが、健司というひとつの光に引かれるように――
未来へ、続いていた。
それはまだ不確かで、形もない、理想の世界。
けれど、それでも信じたいと思える。
想いの距離が近づいたその日、
彼らの心にもまた、新たな絆が結ばれていた。




