新たな始まりのために
南の村――
のどかな自然と平穏な空気に包まれたこの場所は、健司たちにとって一時の安息の地だった。
だが、それはもう、続かないのかもしれない――
そんな予感が、朝の冷たい風と共に、健司の胸に吹き込んでいた。
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アスフォルデの環の幹部たち――カテリーナ、エルネア、ソレイユ、セレナ、リーネ、ローザ、リセル、ヴェリシア、そしてミリィが、村の広場に立っていた。
その顔にはそれぞれ、決意と戸惑い、そして覚悟が浮かんでいた。
彼女たちは、村人たちに謝罪するためにここに来たのだ。
健司たちもその場に立ち、静かに見守っていた。
カテリーナが、一歩前に出る。
「……私たちは、あなた方に多くの恐怖と不安を与えてしまいました。そのことを、心からお詫び申し上げます」
彼女の声はよく通るが、どこか悲しみを帯びていた。
エルネアも続いた。
「私たちは間違っていました。力に頼り、人を疑い、そして……あなたたちの心に寄り添うことができなかった」
ソレイユ、セレナ、リーネ、ローザ――皆、次々に謝罪の言葉を口にする。
けれど――
村人たちは、一歩も近づかなかった。
ある村人が、小さな声でつぶやいた。
「……怖いんだよ。昨日まで敵だった魔女たちが、急に変わったって……信じろってのかよ」
その言葉に、空気が凍りついた。
「本当に、変わったのかもしれない……でも、やっぱり……まだ受け入れられないよ……」
リーネが俯き、ミリィは小さく震えていた。
それを見ていた健司は、前に出て、村人たちに向かって言った。
「……ありがとう。少しの間でも、僕たちを受け入れてくれて」
「……健司?」
ルナが不安げに見上げる。
健司は頷いた。
「もう……ここを出ようと思う」
ミイナが
「えっ……」
と声を漏らす。
「……僕たちは、魔女と共に歩くって決めた。その中には、かつて敵だった人もいる。でも――僕は、彼女たちが変わろうとしているのを知ってる」
健司の瞳は、まっすぐに村人たちを見ていた。
「……ここで争うつもりはありません。だから、僕たちは新しい場所を探しに行きます。魔女たちが、そして村人たちが、共に生きていける場所を」
リセルがゆっくりと健司に近づき、声をかけた。
「健司……それ、本気で言ってるの?」
「本気だよ」
リセルは少し目を伏せたあと、微笑んだ。
「……いいよ。私、ついていく」
それを見て、他の幹部たちも互いに視線を交わし始めた。
カテリーナが、健司のそばに歩み寄る。
「……本当に、いいの? 私たちを、連れていくつもりなの?」
健司は頷いた。
「過去を抱えていても、未来は選べると思うから」
カテリーナの瞳に、微かに涙が浮かんだ。
「……ありがとう」
健司はふっと笑って、みんなに向き直った。
「行こう。新しい場所へ。僕たちの、“居場所”を作ろう」
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旅の準備はすぐに始まった。
健司たちは、村に最後の挨拶を済ませた。村人たちは複雑な表情を浮かべながらも、最終的には静かに見送ってくれた。
子どもたちは、ルナやミイナに
「元気でね」
と手を振り、年配の村人はクロエに
「また来てもいいんだよ」
と囁いた。
それだけでも、十分だった。
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出発の朝。
村を出る一本道に、総勢十数人の魔女と健司が並んでいた。
ルナとミイナはリュックを背負い、リセルとローザは魔法道具を運び、ソレイユは空を見上げながら太陽の加減を見ていた。
エルネアとセレナは、魔法で方位と安全な道を確認している。
リーネは、移動中に必要な薬草と回復薬の確認に余念がない。
ミリィとヴェリシアは、カテリーナと共に、行き先を話し合っていた。
カテリーナは、出発前にもう一度、健司のそばに来て言った。
「……私、まだ自分が変われるか、不安なの。だけど、もしその未来があるなら、あなたと一緒に見てみたい」
「じゃあ、見に行こう。僕も……その未来を信じたいから」
2人は頷き合った。
そして、健司が手を高く掲げて、空に向かって言った。
「さあ――行こう。僕たちの新しい旅へ!」
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道はまだ遠い。
だが、彼らの足取りは軽やかだった。
悲しみも、怒りも、裏切りもあった。
けれど、それを越えて、未来を信じる者たちの旅が――いま、再び始まろうとしていた。
そして、彼らが目指す場所こそ、
本当の意味で魔女と人が共に生きられる世界の、最初の一歩だった。




